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パイロットのなり方と就職事情、コロナの影響は?自社養成パイロットと航空大学校についても解説

高収入職業として必ずと言っていいほど名の上がる「パイロット」。

大手航空会社の機長となれば、その年収は2000万円以上と言われています。

 

しかし昨今の新型コロナウイルスの影響で、パイロットの仕事は激減しています。

将来的にパイロットを目指している方や、就活予定の方は、パイロットの採用試験がなくならないか不安に思われている方もいらっしゃるかと思います。

 

そこで本稿では、パイロットの就職事情や新型コロナウイルスによる採用試験への影響を読み解いていきます。

具体的にパイロットになる方法についても紹介していきますので、就活生だけでなく、将来的にパイロットになりたいと思っている方もぜひ参考にして下さい。

 

 

1.コロナでパイロットの採用はどうなる?

 

2020年は新型コロナウイルスが全世界で猛威を振るい、旅客機ビジネスの需要が急激に減少しました。

今後の航空業界も一体どうなるのか、見通しが立たない状況が続いています。

 

現在パイロットを目指されている方の中には、進路を変えるべきか迷われている方もいらっしゃるかと思います。

 

ですがパイロットの採用に関して言うと、その採用がなくなることは「ほぼない」と考えて良いでしょう。

 

ではなぜこのような状況下でも、パイロットの採用がなくなることは考えづらいことなのか。

以下解説していきます。

 

①「2030年問題」日本は深刻なパイロット不足

 

2030年以降は、バブル期に大量採用されたパイロットたちが定年を迎え、航空会社から大勢のパイロットがいなくなると予測されている年です。*1

 

また新型コロナウイルス流行の前は、2030年ごろには航空需要がさらに増大し、現在の4.5倍のパイロットが必要になるとも言われていました。*2

 

現在は新型コロナウイルスの影響で一時的にパイロットの人員が余っている状態ですが、いつまでもこの状況が続くとは考えにくく、長く見ても5~10年経てば航空需要は戻ることが予想できます。

 

そして今、このタイミングで採用を辞めてしまえば、各航空会社はパイロット不足を解消できないまま2030年を迎えることになってしまうのです。

 

 

②機長になるまで約7年~10年掛かる

 

副操縦士から機長になるまでは約7年~10年かかると言われています。*3

2022年に訓練生として航空会社に入社した場合、2~4年の訓練期間を経て副操縦士になるため、入社から機長になるまではトータル約9年~14年の年月がかかることになります。

 

そうすると2022年度入社のパイロット訓練生は、パイロット不足が懸念される2031年~2036年頃に機長へ昇格する計算に。

ちょうど「今」の採用に、2030年以降の機長不足を解消できるかの期待がかかってると言っても過言ではない状況なのです。

 

これらの状況を加味すると、経験者パイロットを採用しない大手航空会社のJALとANAは、新型コロナウイルスの状況下でも採用を中止したり、人数を極端に減らしたりすることは考えにくいでしょう。

2.JAL・ANAのパイロット募集要項・求められる人材

大手航空会社JALとANAにおける運航乗務員の募集要項や、求められる人財像の違いを確認していきましょう。

①JAL(日本航空)

JALの運航乗務職の採用予定人数は「80名ほど」。大卒初任給は218,000円です。*4

運航乗務員の採用活動は通年通り行われています。。

 

<選考フロー>

①プレエントリー(エントリーシート・テストセンター)→②1次試験(心理適性検査)→③2次試験(飛行適性検査・英会話試験)→④3次試験(1次面接・航空身体検査)→⑤4次試験(2次面接)*4

 

JALの選考フローの特徴は、前半に面接がない点です。英語試験や適正検査である程度人数を絞ったのちに面接が行われます。

 

JAPAN AIRLINES:新卒/既卒採用情報「求める人財像」

図1 引用)JAPAN AIRLINES:新卒/既卒採用情報「求める人財像」(https://www.job-jal.com/recruit/ideal-staff/)

 

 

JALの求める人財像はいくつかありますが、特に注目していただきたいのは「感謝の心を持って、謙虚に学ぶ」ことができる人、「採算意識をもつ」ことができる人の2点。(図1)

 

JALは2010年1月に経営破綻を経験。それまでのJALは、時に「殿様商売」「傲慢」と言われており、その経営の果てに経営破綻という結果に至りました。

その後、新しく会長に抜擢された稲盛和夫氏により、社員の意識改革や経営のスリム化が行われ、業績のV回復を成し遂げました。

 

経営破綻を強い教訓にしているJALは、「感謝」「謙虚」「採算意識」を今でも非常に大切にしています。

新型コロナウイルスで業績が再び悪化した今だからこそ、さらにこの人材像が強く求められることになるでしょう。

 

②ANA(全日本空輸株式会社)

ANAの運航乗務職の採用予定人数は「未定」。大卒初任給は219,444円です。*5

採用予定人数は「未定」とありますが、ANAは運航乗務職の採用予定人数を毎年非公開にしています。

 

<選考フロー>

①エントリー(エントリーシート・総合適性検査)→②1次選考(グループ面接)→③2次選考(簡易航空適性検査・心理検査)→④3次選考(航空身体検査)→⑤4次選考(個人面接、航空適性検査)→⑥5次選考(個人面接・英語コミュニケーションテスト)*6

 

ANAにはグループ行動指針「ANA’s Way」というものがあり、ANA社員が持つべき心構えや行動を表したものと言われています。(図2)

 

 

ANA:ANAグループ行動指針「ANA's Way」の推進

図2 引用)ANA:ANAグループ行動指針「ANA's Way」の推進(https://www.ana.co.jp/group/csr/human_resources/way/)

 

 

これらの行動が発揮できる人や、今までの学生生活で発揮できていた人が求められる人財と考えて良いでしょう。

実際の面接でも「ANA’s Wayのうち好きなものや共感できるものはどれですか?」と聞かれることも多いです。

 

特に「ANA's Way」の中で注目していただきたいのが「努力と挑戦」という項目です。

ANAは2機のヘリコプターから始まり、JALに「追い付け追い越せ」の精神で努力し続け、今の地位を築き上げました。

 

新型コロナウイルス下でも、新たに国際線中距離LCCの立ち上げを宣言し、世間を驚かすなど、「守りよりも攻め」の姿勢を続けています。

好む人財も、この「努力と挑戦」ができる人ということが窺えます。

 

 

3.パイロットになる方法~定期運送用パイロットになるには主に3ルート~

 

定期運送用パイロットになる方法は、主に以下の3ルートです。(図3)

 

・自社養成パイロットとして航空会社に入社

・航空大学校へ入学、ライセンスを取得する

・私立大学や専門学校へ入学、ライセンスを取得する

 

パイロットへの道

図3 引用)国土交通省:「操縦士・整備士に関する養成機関について」(https://www.mlit.go.jp/common/001094304.pdf)

 

 

①自社養成パイロット

 

まず1つ目は、自社養成パイロットとして航空会社に入社する方法です。

 

各航空会社が飛行ライセンスのない者をパイロット候補生として採用。

訓練にかかる費用は全て航空会社負担で、訓練生は給与を貰いながらパイロットのライセンス取得を目指します。(図4)

 

ANA:「キャリア」

図4 引用)ANA:「キャリア」(https://www.anahd.co.jp/group/recruit/ana-recruit/newgrads/pilot/career.html)

 

 

パイロットを目指す学生にとって一番人気のルートなので、倍率は非常に高く、数百倍に及ぶと言われています。

 

また、自社養成パイロットとして入社できたからと言って、必ずしもパイロットになれるとは限りません。

訓練課程で不合格が続き、不適合とみなされた場合は退職、または総合職に職種を転換させられる可能性もあります。入社後は厳しい訓練を覚悟しなければなりません。*7

 

②航空大学校へ入学、ライセンスを取得する

 

航空大学校は国が設立した、日本唯一の公的なパイロット養成機関です。

航空大学校の入学試験を受け、合格、入学したのちにパイロットのライセンスを取得します。入学料や授業料はトータルで350万円ほどです。*8

 

ライセンスを取得した状態で航空会社の採用試験を受験します。

自社養成パイロットの採用試験に不合格になったとしても、その後航空大学校に入学、そこからライセンスを取得して、再度航空会社の採用試験を受けることも可能です。

 

航空大学校の入試、またのちに解説する私立学校のパイロット養成コースの入試でも、自社養成パイロット同様に身体検査があります。

健康に不安のある方は、国土交通省指定の病院*9で事前に航空身体検査を自費受診することをお勧めします。

 

③私立大学や専門学校へ入学、ライセンスを取得する

 

3つ目の方法は、私立大学のパイロットコースに進学をし、ライセンスを取得する方法です。

パイロットのライセンスが取得可能な大学は、法政大学や東海大学、桜美林大学などがあります。

 

私立大学のパイロットコースの場合、ライセンス取得にかかる費用は自費で支払わなければならないため、4年間でおおよそ2000万円~3000万円の学費がかかると言われています。

 

平成30年より国土交通省主導で無利子貸与型奨学金「未来のパイロット」が創設され*10、法政大学、東海大学、崇城大学、千葉科学大学、日本航空大学校、新日本航空株式会社のパイロット養成課程の学生に対して、500万円を無利子で貸与するという制度ができました。(1学年あたり25名、1校あたり3~5名)

 

私立大学のパイロットコースの学費は高額であることに変わりはないですが、こうした奨学金の登場で、平成30年度以降は今まで以上にパイロットへの道が開けたと言えるでしょう。

 

このようにパイロットになる道はいくつかあります。

「自社養成パイロットだけ!」というように、一つの方法に固執してしまうと自ら道を閉ざしてしまうことになりかねません。

特に航空大学校のルートは、大学の学費と大きく変わらない費用でパイロットを目指すことが可能です。

そして実際に副操縦士や機長になれば、その学費や奨学金も1年間の給与で返済できるほどの額が貰えます。

一度すべての方法を視野に入れてみて、ぜひパイロットになる夢を叶えてください。

 

参考文献/参考サイト
*1 日本経済新聞:パイロット不足を克服しよう
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO26241050Y8A120C1EA1000/
*2 NHK:「パイロット不足の現象と対策」(視点・論点)
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/285836.html
*3 国土交通省:羽田空港のこれから
https://www.mlit.go.jp/koku/haneda/archive/column/pilot.html
*4 JAL:職種別募集要項 新卒
https://www.job-jal.com/recruit/requirement/new-graduate04.html#selection01
*5 ANA:運航乗務職 募集要項
https://www.anahd.co.jp/group/recruit/ana-recruit/newgrads/pilot/employment.html
*6 ANA:運航乗務職 選考ステップ
https://www.anahd.co.jp/group/recruit/ana-recruit/newgrads/pilot/step.html
*7 ANA:運航乗務職 FAQ
https://www.anahd.co.jp/group/recruit/ana-recruit/newgrads/pilot/qa.html
*8 独立行政法人航空大学校:入学志望の方へ
http://www.kouku-dai.ac.jp/02_enter/05.html
*9 一般財団法人 航空医学研究センター:航空身体検査指定機関
https://www.aeromedical.or.jp/check/kikan.htm
*10 国土交通省:私立大学等における無利子貸与型奨学金「未来のパイロット」の創設~パイロットを目指す学生の視野が広がります~
https://www.mlit.go.jp/report/press/kouku10_hh_000114.html
執筆者
名前:平井
プロフィール:大学卒業後、日系大手航空会社にて客室乗務員として勤務。学生時代の就職活動にて楽天・ソフトバンク・みずほ銀行等の大手企業から内定をいただく。その経験を活かし、現在は就活塾にて特別面接対策講師や、就活関連記事のライター業を行っている。
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