新型コロナウイルスの感染拡大により、現在の日本企業の先行きは暗い影を落としています。
東京商工リサーチのまとめによると、新型コロナ関連の経営破綻は日本全国でもますます増加している状況です。
このように、新型コロナにより経済の潮目が変わったと言われる昨今ですが、すぐに現金が用意できるキャッシュリッチな企業が有望株として注目をされています。
今回は、ネットキャッシュ(短期間に現金化できる手元資金)が潤沢な企業名、前期との売上成長率の比較、多い業種などを詳しくリサーチしたうえで、財務状況が安定した有望大企業を選び出して解説をしていきます。
1.すぐに使える資金が潤沢なキャッシュリッチ企業TOP20社
東洋経済オンライン「コロナに負けない 金持ち企業トップ500社」の記事によると、すぐに現金化できる手元資金が潤沢な企業のランキングが、下記の図1のようになります。
手元資金が潤沢な上位20社(単位は"億円")
順位 | 社名 | ネットキャッシュ | 現預金 | 短期有価証券 | 有利子負債 |
1 | ソニー | 18,851 | 15,123 | 18,477 | 14,749 |
2 | 任天堂 | 12,167 | 8,904 | 32,263 | 0 |
3 | 信越化学工業 | 10,644 | 8,364 | 2,513 | 234 |
4 | キーエンス | 9,441 | 4,766 | 4,675 | 0 |
5 | SUBARU | 6,197 | 8,589 | 0 | 2,392 |
6 | ファーストリテイリング | 5,865 | 10,865 | 0 | 4,999 |
7 | SMC | 5,492 | 5,483 | 124 | 115 |
8 | ファナック | 5,325 | 4,058 | 1,267 | 0 |
9 | ネクソン | 5,087 | 5,109 | 0 | 22 |
10 | セコム | 5,022 | 5,551 | 324 | 540 |
11 | 京セラ | 4,026 | 4,196 | 629 | 799 |
12 | セブン&アイ・ホールディングス | 3,747 | 13,577 | 0 | 9,829 |
13 | 塩野義製薬 | 3,548 | 2,289 | 1,259 | 0 |
14 | NTTドコモ | 3,487 | 3,987 | 0 | 500 |
15 | 中外製薬 | 3,330 | 2,039 | 1,291 | 0 |
16 | アステラス製薬 | 3,183 | 3,183 | 0 | 0 |
17 | 日東電工 | 3,048 | 3,049 | 0 | 0 |
18 | HOYA | 2,960 | 3,179 | 0 | 219 |
19 | リクルートホールディングス | 2,845 | 4,212 | 0 | 1,366 |
20 | ローム | 2,747 | 2,982 | 174 | 409 |
①トップはソニーの1兆8851億円
図1を参照すると、金持ち企業のナンバーワンはソニーという結果になりました。
ソニーは現預金も1兆5123億円、短期有価証券も1兆8477億円と、他の追随を許さないリッチぶりを見せています。
2位は任天堂の1兆2167億円で、2020年3月期はゲーム機「Nintendo Switch」シリーズの販売台数が大幅に伸び、ゲームソフトの人気タイトルの続編が好調な売り上げを記録したことも追い風となり、順調な業績です。
3位は、半導体シリコンウエーハで世界ナンバーワンの企業、信越化学工業の1兆0644億円。今後のコロナ禍に備えて潤沢なキャッシュを元手に一段と競争力を高めていく構えを見せています。
②有利子負債(銀行からの借入金など)がゼロの企業が7社
有利子負債とは、利息を付けて返さないといけない負債のことで、具体的には銀行からの借入金や社債などを表すマイナスの資産です。
図1のデータによると、TOP20社のうち有利子負債がゼロの企業が7社もあり、この点からも健全な財務状況であることが分かります。
2.TOP10社 コロナ前後の売上高の比較
下図2は、TOP10社におけるコロナ前後の四半期売上高などをまとめた表です。
四半期売上高の比較には、①コロナ前の2019年3月~6月と②コロナ後の2020年の3月~6月までの売上高を対象としました。
コロナの影響が全く無かった2019年のデータと比較すると、コロナ後の2020年の3月~6月はTOP10社の内、6社が売上高成長率が落ち込みを見せています。
【TOP10社 コロナ前後の売上高調査】
※四半期売上高は2019年・2020年の3月~6月までの売上高を対象
※コロナ前:2019年3~6月 コロナ後:2020年3~6月
※自己資本率は2020年3月決算を参照
順位 | 企業名 | 業種 | コロナ前 | コロナ後 | 売上高成長率 | 自己資本比率 |
1位 | ソニー | 電気機器 | 1兆9257億円*1 | 1兆9689億円*1 | 2.20% | 79.4%*2(単体) |
2位 | 任天堂 | ゲーム機器 | 1721億円*3 | 3581億円*3 | 108% | 79.66%*3 |
3位 | 信越化学工業 | 化学 | 3862億円*4 | 3593億円*4 | △7% | 82.1%*4 |
4位 | キーエンス | 電気機器 | 1346億円*5 | 1099億円*5 | △18% | 95.8%*5 |
5位 | SUBARU | 自動車 | 8334億円*6 | 4569億円*6 | △45% | 52.1%*7 |
6位 | ファーストリテイリング | 繊維製品 | 5551億円*8 | 3364億円*8 | △39% | 48.9%*9 |
7位 | SMC | 電気機器 | 1352億円*10 | 1280億円*10 | △5% | 89.9%*10 |
8位 | ファナック | 電気機器 | 6355億円*11 | 5082億円*11 | △20% | 89.6%*11 |
9位 | ネクソン | 情報通信 | 538億円*12 | 644億円*12 | 20% | 84.3%注*13(単体) |
10位 | セコム | 警備サービス | 2390億円*14 | 2391億円*14 | 0.04% | 57%*14 |
11位 京セラ(電気機器)12位セブンアイホールディングス(流通)
13位 塩野義製薬(医薬品)14位 NTTドコモ(情報通信)15位 中外製薬(医薬品) 16位 アステラス製薬(医薬品)17位 日東電工(化学)18位 HOYA(光学機器)
19位 リクルートホールディングス(人材サービス)20位 ローム(電気機器)
※図2)*1~*14を参考に執筆者作成
①任天堂が売上高成長率108%で絶好調!
図2のデータによると、売上高成長率では任天堂が108%で業績は絶好調です。
大幅な成長の主要因は、もちろん「Nintendo Switch」で、ハード、ソフトともに販売台数がかなり拡大しました。
前四半期中に発売した「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」を始めとして勢いが止まりません。
ソニーは2.2%の成長率で、とりあえずキープ。両者ともゲーム関係が好調で、コロナによる巣ごもり消費の影響が大きかったと分析されています。
②自動車・繊維製品は大幅な売上ダウン
図2のキャッシュリッチな企業でも、コロナによる悪影響が出ています。
10社中6社が売上減少となっており、特に自動車・繊維製品は大幅な売上ダウンで、スバルは45%のマイナス、ファーストリテイリングは39%のマイナス成長です。
キーエンスも18%、ファナックも20%のマイナス成長となっており、全体的に製造業も厳しい状況となっています。
③自己資本比率はキーエンスの95.8%がトップ
図2にランクされている10社は、いずれも高い自己資本比率です。
自己資本比率とは、返済不要の自己資本が全体資本の何%であるかを示す数値であり、自己資本比率が高いほど経営が安定しています。
目安としては40%あると倒産しにくい企業と言えるでしょう。
自己資本比率はキーエンスが95.8%でトップです。他にもSMCの89.9%、ファナックの89.6%と高い数値が目立っています。
3.キャッシュリッチな企業の業種
上位20位の企業で多い業種を図3の表でまとめてみました。
【キャッシュリッチな企業の業種】
順位 |
業種 |
合計 |
1位 |
電気機器 |
6社 |
2位 |
医薬品 |
3社 |
3位 |
情報通信 |
2社 |
図3)図1を参考に執筆者作成
①キャッシュリッチ企業の業種は電気機器が多い
キャッシュリッチ企業で多い業種は、電気機器が6社でナンバーワンです。
ソニーやキーエンスを始め、世界で活躍する電気機器メーカーが圧倒的な強さを見せています。
キーエンス、SMC、ファナックは自己資本比率も全て89%以上であり、健全で安全性の高い財務状況の会社です。
②医薬品メーカーも健闘
トップ10にはランクインしていませんが、医薬品メーカーも健闘しています。
13位には塩野義製薬、15位に中外製薬、16位にアステラス製薬がランクインしており、3社とも有利子負債がゼロ円と理想的な財務状況です。
塩野義製薬は新型コロナワクチン開発で、年内に臨床試験を開始し、早ければ来年1月にも医療従事者などにワクチンを提供できる見通しとなっており、期待が高まっています。*15
5.まとめ
今回は、「財務状況が良い金持ち企業」について詳しく解説をしていきました。
新型コロナによる景気の低迷は、しばらくの間、続く気配を見せています。今回のランキングはコロナ後の有望企業を探す、1つの指標となるかもしれません。
キャッシュが回り続けている会社は、経営が厳しくなっても倒産する可能性は少ないです。コロナ後の企業の有望性を見極める際には、手元のキャッシュが豊富であるかどうかが判断の指針となるでしょう。
https://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/library/r2_q1.pdf
*2 参考)ソニー「有価証券報告書(2019年度)」P2
https://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/library/r1_q4.pdf
*3 参考)任天堂「四半期報告書(2020年度第1四半期)」P2
https://www.nintendo.co.jp/ir/pdf/2020/security_q2006.pdf
*4 参考)信越化学工業「四半期報告書(2020年度第1四半期)」P2
https://www.shinetsu.co.jp/wp-content/uploads/2020/08/1_shihankihoukoku_144-1.pdf
*5 参考)キーエンス「四半期報告書第52期 第1四半期)」P2
https://www.keyence.co.jp/company/outline/securitiesreport.jsp
*6 参考)SUBARU「四半期報告書第90期 第1四半期)」P2
https://www.subaru.co.jp/ir/library/pdf/ms/ms_90_1q.pdf
*7 参考)SUBARU「有価証券報告書(2019年度)」P2
https://www.subaru.co.jp/ir/library/pdf/ms/ms_89.pdf
*8 参考)ファーストリテイリング「四半期報告書第90期 第1四半期)」P2
https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/shihanki202007.pdf
*9 参考)ファーストリテイリング「有価証券報告書 第58期」P3
https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/yuho201908.pdf
*10 参考)SMC「四半期報告書第62期 第1四半期)」P2
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS00674b/2e7a4054/c3ca/48fd/a4b5/e33e70148945/S100JF
*11 参考)ファナック「2020年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」P1
https://www.fanuc.co.jp/ja/ir/announce/pdf/financialresult202003.pdf
*12 参考)ネクソン「四半期報告書第19期 第2四半期)」P2
http://pdf.irpocket.com/C3659/djAz/PPKi/m8AQ.pdf
*13 参考)ネクソン「有価証券報告書第18期 」P4
http://pdf.irpocket.com/C3659/T4TO/W9Yr/wbYk.pdf
*14 参考)セコム「四半期報告書第60期 第1四半期)」P2
https://www.secom.co.jp/corporate/ir/lib/m60.pdf
*15 参考)日本医事新報社「塩野義製薬の新型コロナワクチン開発─年内に臨床試験開始、早ければ来年1月にも医療従事者などにワクチン提供」
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=15178

プロフィール:フリーランスの転職・不動産ライター。複数のメディアで執筆中です。宅建の資格を活かし、家族が所有する投資用不動産の入居者管理もしています。趣味は整理収納と料理。