キャリア形成 働くコラム

裁量労働制とは自由な時間に働ける制度?適用業種やメリット・デメリットについて

2018年「働き方改革関連法案」の審議でも話題となった「裁量労働制」。

転職先を探していて、雇用条件に「裁量労働制」と見つけ、それがどのような制度なのか詳しく知りたいと思う人もいるかもしれません。

この制度は、実際の労働時間とは関係なく、労使間で「あらかじめ定めた時間」分、働いたものとみなされる制度を指します。

効率よく仕事をこなす人に有利にも見えますが、長時間労働や残業をしても給与に反映されないという懸念も生じています。

 

どのような制度なのか、詳しく見てみましょう。

 

 

 

1.労働時間は自由!?裁量労働制とは

 

 

裁量労働制とは、たとえば1日のみなし労働時間が8時間と定められている場合、実際の労働時間が6時間でも10時間でも、8時間働いたとみなされる制度で、給与はそれに基づいて事前に設定されている額となります。

この制度導入には労使協定締結が不可欠のため、雇用者側の意思のみで突然導入されることはありません。

 

大きくは下記の2つのタイプに分類されます。 

①専門業務型裁量労働制
業務の性質上、業務遂行の方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるとして法令により定められた19業務が対象で、労働者を実際にその業務につかせた場合、労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度

②企画業務型裁量労働制
事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査および分析を行う労働者が対象で、あらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度


引用)国立研究開発法人 科学技術振興機構「マンガで学ぶ求人・求職事例 Case.14 裁量労働制なのに出勤管理?」用語解説より抜粋(https://jrecin.jst.go.jp/seek/html/yomimono/nazekonna1/case14.html)

 

なお、専門業務型の対象業務は以下の通りです。

東京労働局 労働基準監督署「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために」

引用)東京労働局 労働基準監督署「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために」P2(https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501876.pdf)

 

この制度の下では、出勤及び退社時間に関しても労働者が自由に決められることになっていますが、出社義務まで免除されているわけではありません。

そのため、在宅勤務で好きな時間に働くことが認められているというわけではありません。

原則として、雇用主は

「時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしない」

一方で、

「労働者の健康・福祉を確保するための措置」

の一環として労働時間を把握するために、出退勤時間記録をつけるケースも多くあります。

目安として一定の始業・終業時刻を定めている場合もあります。

 

しかしながら、休憩時間や休日、有給休暇取得については通常の労働制と変わらず認められるべきことです。

そのため、振替休日をとらない休日出勤や深夜勤務(22時~翌日5時)に対しては割増賃金が支払われることにもなっています*1

 

2.みなし時間は何時間?実際の運用状況は

 

制度の概要を押さえたところで、実際にどのように運用されているのか見ていきましょう。

まず、裁量労働制に欠かせない「みなし労働時間の設定」ですが、下記のグラフを見ると、専門業務型が「9時間以上」、企画業務型は「8時間以上9時間未満」の割合が高くなっています。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果プレスリリース 」

引用)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果プレスリリース 」P2(https://www.jil.go.jp/press/documents/20140630_125.pdf)

 

一方で、1か月の実労働時間を見ると、「200時間以上」の割合が高く、通常の労働時間制よりも長い傾向にあることが見て取れます。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果プレスリリース 」P2

引用)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果プレスリリース 」P2(https://www.jil.go.jp/press/documents/20140630_125.pdf)

 

専門業務型の業務別にみなし時間と実労働時間を比べた下記の調査結果を見ても、実際に働いている時間の方がみなし時間よりも長い傾向にあります。

裁量によって早く仕事を切り上げている人は少ないですね。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 事業場調査結果」P12

引用)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 事業場調査結果」P12(https://www.jil.go.jp/institute/research/2014/documents/0124.pdf)

 

また、日々の出退勤については出勤の必要がある人が9割以上に上ります。

労働者へのアンケート調査では「一律の出退勤時刻がある」と答えた人が専門業務型42.5%、企画業務型49.0%とともに半数近くなっています。

労働時間は自由にもかかわらず、高い割合で出退勤時刻が設定されています*2

なお、出退勤の記録方法としては「自己申告制」 が最も多く、次いで「タイムカード・IC カード」「PC のログイン・ ログアウト」等が用いられています*3

気になる給与については、適用業種が専門職という性質もあり、平均額は通常の労働制を上回っています*4

また、1か月単位での特別手当が支給されている事業場は5割を超え、その理由として75%以上が

「通常の所定労働時間を超える残業代相当分」

と位置付けられており、残業を見越しての手当が付くケースも多いことがわかります*5

 

3.長時間働きがちな裁量労働制 メリット・デメリット

 

みなし時間よりも実労働時間が長くなりがちであることは、デメリットと言えます。

不満な点に関する調査でも「労働時間(在社時間)が長い」がほぼ半数を占めています。

 

独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果プレスリリース 」P11

引用)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果プレスリリース 」P11(https://www.jil.go.jp/press/documents/20140630_125.pdf)

 

また、「業務量が過大」の割合が高いのも押さえておきたいポイントです。

たとえ業務遂行の方法や時間配分について労働者が決めることができても、与えられる業務量が多ければ、労働時間も長くなるという悪循環に陥ります。

特に専門業務型の労働者の回答では

「仕事に熱中して時間を忘れてしまう」

「時間に追われている感覚がある」

「自分自身や家庭のことを行う時間がない」

という状況についてそれぞれ「よくある」「ときどきある」が6割以上となっており、仕事に区切りをつけにくい等の時間管理の難しさも窺えます*6

 

一方で、実際に裁量労働制で働いている労働者への期待実現度に関する調査結果を見ると、

「仕事の裁量が与えられるので、仕事がやりやすくなる」

「自分の能力の有効発揮に役立つ」

に肯定的な回答が7割以上と高い傾向です。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果プレスリリース 」P10

引用)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果プレスリリース 」P10(https://www.jil.go.jp/press/documents/20140630_125.pdf)

 

業務遂行に対して自分の能力を発揮しながら、自分のペースで比較的自由に行えることがメリットとして挙げられるでしょう。

さらに、評価方法も「仕事の成果による評価」を取り入れている企業が多いため*7

「自分の裁量で自由に働き、成果を出してそれを評価してもらう」

というこの制度の要の部分が生かせれば利点につながると言えそうです。

逆に、いくら効率よく仕事をこなしても、業務量が過大で労働時間が延び、それが「みなし労働時間」に含まれてしまうと、労働者にとっては困難な状況となりえます。

 

4.フレックスタイム制との違い

 

同じく労働時間が自由なイメージのあるフレックスタイム制との違いも押さえておきましょう。厚生労働省の解説に

「一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が 日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度*8

とある通り、フレックスタイム制には清算期間と呼ばれる一定の期間中に働くべき総時間が設けられており、その総時間分をある程度自由に配分しながら働けます。

また、裁量労働制とは違って「コアタイム」という必ず出勤しなければならない時間帯が設けられている場合もあります。

 

厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制 のわかりやすい解説 & 導入の手引き」P3

引用)厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制 のわかりやすい解説 & 導入の手引き」P3(https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf)

 

適用業種にも決まりはなく、子育て中の人等が保育園の送り迎えを行ったり、資格取得勉強との両立のために使われたり、と制度利用の目的もさまざま。

清算期間の上限である3ヵ月以内であれば、それぞれの月の労働時間の過不足を相殺できるため、たとえば6月に超過した時間分、8月に少なく働くこともできるのです。

裁量労働制では、みなし時間より少なく働いても「みなし時間分働いた」とみなされる一方で、フレックスタイム制は決められた総労働時間働かないと、その分の賃金カットもありえます。

全く異なる制度なので混同しないようにしましょう。

 

5.まとめ

 

裁量労働制といっても、企業によって給与水準が異なるのはもちろん、みなし時間の設定、出退勤時間のルールや記録方法、残業代相当分の支払い有無等は独自に定められているため、事前に細かい条件まで確認するのが重要です。

将来的に適用業務の拡大も政府によって検討されており、現在の勤め先から導入を提案される可能性もあります。

雇用者側が定める条件が自分自身に対して適切かどうかを判断できるようにしておきましょう。

 

 

参照データ
*1参考)国立研究開発法人 科学技術振興機構「マンガで学ぶ求人・求職事例 Case.14 裁量労働制なのに出勤管理?」
https://jrecin.jst.go.jp/seek/html/yomimono/nazekonna1/case14.html
*2参考)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果プレスリリース 」P5
https://www.jil.go.jp/press/documents/20140630_125.pdf
*3参考)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 事業場調査結果」P14
https://www.jil.go.jp/institute/research/2014/documents/0124.pdf
*4参考)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果プレスリリース 」P7
https://www.jil.go.jp/press/documents/20140630_125.pdf
*5参考)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 事業場調査結果」P19-20
https://www.jil.go.jp/institute/research/2014/documents/0124.pdf
*6参考)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果プレスリリース 」P6
https://www.jil.go.jp/press/documents/20140630_125.pdf
*7参考)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 事業場調査結果」P18
https://www.jil.go.jp/institute/research/2014/documents/0124.pdf
*8引用)厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制 のわかりやすい解説 & 導入の手引き」P3
https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf
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