久しぶりに会った友人は、開口一番
「去年、会社作っといてよかった。(コロナの影響で)営業できなくても、資金繰りのサポートがあるから、ほんと助かってるよ」
と話し始めました。
ネイルサロンを経営する彼女は、昨年、個人事業から法人化に踏み切りました。
その決断が奏功し、新型コロナウイルスによる売上げ減少をカバーする、給付金や融資を最大限活用できたとのこと。
「個人事業のままだったら、ここまでの補償は受けられなかった」
と、安どの表情でした。
しかし、ここまでの道のりは決して楽なものではありませんでした。
ネイルの仕事に就いてから12年、時を同じくしてシングル・マザーとなって12年。
女手一つで育児も家事も、仕事もこなすシングル・マザーのキャリアについて、追ってみましょう。
1.シングル・マザーの現状
日本におけるシングル・マザーの総数は、2015年時点で106万3千人でした。
内訳は「母子世帯」の母が71%、「他の世帯員がいる世帯」の母が29%となっています*1。
「他の世帯員がいる世帯」のほとんどは3世代世帯で、母子世帯+その祖父母という構成です。
年齢別にみると、40-44歳が30万人超で、全体の28.5%となっています。次いで35-39歳と、働き盛りの年代のシングル・マザーが多いことが分かります(図1)。

図1:総務省統計局/シングル・マザー及びファーザーの最近の状況(2015)p8(http://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/pdf/zuhyou/single5.pdf)
就業状況について、とくに目を引く結果が「完全失業率」の大幅な低下です(図2)。
完全失業者数の減少を割合でみると、5年間で35.7%の減少です。
変化の背景として、2013年3月に施行された
「母子家庭の母及び父子家庭の父の就業の支援に関する特別措置法」
が挙げられます。
この法律により、母子家庭の母の就業が促進され、完全失業率の低下につながったと推測できます。
また、「正規の職員・従業員」が7.8%増加しており、こちらは2013年4月施行の「改正労働契約法」が影響していると考えられます。
この法改正により、通算5年を超える有期労働契約の更新の場合、労働者からの申込みにより、無期労働契約へ転換できるようになりました*2。

図2:総務省統計局/シングル・マザー及びファーザーの最近の状況(2015)p24(http://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/pdf/zuhyou/single5.pdf)
法改正の影響も含め、シングル・マザーの労働力が上がり、就労に対してアクティブな傾向にあることは好意的な結果です。
また、働き盛りの30-40歳代のシングル・マザーが多いことも特徴的なため、働き方改革の推進により、育児と就労のバランスを確保し、労働力人口の増加につながることを期待します。
2.シングル・マザーの働き方の選択肢「起業」
冒頭の友人は、子どもが3歳の頃に離婚をしました。
当時もネイルサロンで勤務していましたが、育児と仕事の両立は、想像以上に苦労の連続でした。
シングル・マザーの彼女は、仕事を早々に切り上げ子どもの送迎に向かい、持ち帰った仕事の処理と技術練習を深夜まで繰り返す日々。
睡眠時間はほとんどありませんでした。
そんな生活を半年ほど続けたところ、体調を崩し入院してしまいます。
そのとき、彼女は人生を見つめ直しました。
「このままでは自分も子どもも不幸になってしまう」
そして思いついたのが「起業」という選択肢でした。
そして、自宅の一部をプライベート・サロンにし、子どものそばで仕事ができる環境をつくりました。
しかし、起業当初、ネイルの仕事だけでは立ち行かず、夜の仕事との掛け持ちを余儀なくされる生活に。
そのため、夜はシッターを頼み、後ろ髪を引かれる思いで仕事へ向かいました。
それでも、気がつくと早8年。
自宅が職場であることの弊害として、思春期の子どものプライバシーが侵害されることがありました。
また、“もっと広い視野でビジネスをしたい”という考えも徐々に大きくなり、ついに彼女は、会社を作る決意をします。
これが、冒頭の話へとつながります。
ここで一つ、興味深いアンケート結果があるので紹介します。
図3は「シングル・マザーが必ずしも正社員を希望しない理由」についての自由記述の概要です。
「子どもと過ごす時間の重要性」
「残業や急な休暇の取得が困難」
「母親本人の健康状態」
「年齢が40歳代後半だと就職が困難」
などの理由が挙げられています。
また、JILPT(2005)「日本人の働き方調査」によると、非正社員のシングル・マザーに、
「現在の就業形態を選択した理由」
を尋ねたところ、
「家庭の事情と両立しやすいから(33.3%)」
「自分の良い時間に働けるから(33.3%)」
「通勤時間が短いから(29.2%)」
という結果に。
これに対し、子どものいる有配偶女性がもっとも多く挙げた理由は
「家計の補助・学費を得たいから」
というもので、シングル・マザーと有配偶女性とで“就業動機”が本質的に異なることがわかります*3。

図3:独立行政応身労働政策研究・研修機構/労働政策研究報告書No.140シングルマザーの就業と経済的自立(第1部シングルマザーの就業戦略)P62(https://www.jil.go.jp/institute/reports/2012/documents/0140_01.pdf)
この調査結果からもうかがえますが、シングル・マザーにとって育児は最優先事項です。
そのため、勤務時間の調整が難しい正社員より、アルバイトやパートの雇用形態や、筆者の友人のような「起業」も一つの選択肢となります。
いずれにせよ、育児・生活環境や、ワーク・ライフ・バランスを重視した就業形態を選択することが、シングル・マザーのニーズであり、これからの労働環境の目指すべきところでしょう。
3.シングル・マザーへの公的支援など
政府は、シングル・マザーに対し、自立を促進するための経済的支援として、さまざまな制度を用意しています。
・児童扶養手当
女性が一人で子育てをしながら働き、子どもとともに生活をするため収入を得ることは、予想をはるかに超える大変さです。
そんな、奮闘するシングル・マザーの生活の安定と自立を促進するために、児童扶養手当制度があります。
児童扶養手当の額は、受給者の所得と扶養親族等の数を勘案して決定されます。
そして、就労等により収入が増えるにつれ、児童扶養手当を加算した総収入も増加するように設定されています(図4)。
マザーズハローワーク
就業支援につながる施策としては「マザーズハローワーク」が挙げられます。
全国に21カ所あるマザーズハローワークでは、子育てをしながら就職を希望する母親、父親に対して、就労支援を行っています*4。
支援サービス内容は、再就職実現のための計画策定、職業紹介、再就職に資するセミナーの実施などで、総合的かつ一貫した就労支援を実施しています。
求人情報についても、仕事と子育てが両立しやすい内容で、求職者の希望やニーズに適合するものを中心に提供しています。
テレワーク
既に就労しているシングル・マザーの働き方としては、「テレワーク」が有効です。
通勤や勤務場所の拘束から解放されるテレワークは、一人で何役もこなさなければならないシングル・マザーの味方ともいえる働き方です。
先日、顧問先のシングル・マザーから嬉しい報告がありました。
「テレワークに切り替わってから、保育所の送迎が無理なくできるようになりました。一緒にいる時間が増えたので、安心して仕事に取り組めています」
新型コロナウイルスの影響で、日常生活にさまざまな変化が起きています。
しかし、監護が必要な子どもと暮らすシングル・マザーにとって、テレワークが強制的に実行されたことが、ワーク・ライフ・バランスを大きく向上させました。
4.おわりに
本稿を執筆するにあたり、筆者の周囲のシングル・マザーたちを観察してみました。
彼女たちはみな、しっかりとしたキャリアを確立しており、なかでも、自営業が多い印象でした。
前出の調査結果にもあるように、
「子どもとの時間を大切にしたい」
というママならではの想いが、自営業へと結びついた模様です。
これからの日本を担う新たな労働力として、また、「女性が輝く日本」の実現のため、シングル・マザーの社会進出を応援しましょう。
http://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/pdf/zuhyou/single5.pdf
*2参考:厚生労働省/労働契約法の改正について~有期労働契約の新しいルールができました~
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/index.html
*3参考:独立行政応身労働政策研究・研修機構/労働政策研究報告書No.140シングルマザーの就業と経済的自立(第1部シングルマザーの就業戦略)P62
https://www.jil.go.jp/institute/reports/2012/documents/0140_01.pdf
*4参考:厚生労働省/平成30年度母子家庭の母及び父子家庭の父の自立支援政策の実施状況P17
https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000584680.pdf