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非正規雇用と正社員の待遇差「パートタイム・有期雇用労働法」施行で変わること

非正規雇用と正社員の待遇差「パートタイム・有期雇用労働法」施行で変わること

契約社員等の非正規雇用で働く人は、同じ企業内で同じ仕事をしている正社員と待遇面においての格差を感じることもあるでしょう。

しかし、20204月からは、法律の改正により正規と非正規の間にある不合理な待遇差が禁止されることとなりました。

具体的に何が変わったのでしょうか。そのポイントを見てみましょう。

 

1.増える非正規雇用

 

契約社員やパートタイム労働者等、いわゆる非正規雇用労働者は年々増加傾向にあり、雇用者全体の4割弱を占めています。

2019年の非正規の職員・従業員数は2165 万人で、調査開始の2013年から6年連続の上昇。

64歳以下に限ってみても、1777万人と、2013年に比べて70万人もの増加が見られます*1

その中には、正社員を目指して転職活動を行っている人や親族の介護等の事情であえて契約社員という雇用形態を選ばざるを得ない人もいるでしょう。

しかしながら、非正規雇用労働者と正社員との間には、同じ企業内で同じ仕事をしていても、給与や待遇面において格差が生じている場合があります。

一例として、基本給の水準が異なる理由には下記のような点が挙げられています*2

基本給の水準が異なる理由例
・業務内容や責任の程度が異なるため
・転勤や人事異動の範囲が異なるため
・採用方法・基準が異なるため
・働く時間に融通がきかないため

「雇用条件が違うから仕方ない」と思う人もいれば「正社員を目指そう」というモチベーションに変える人もいるかもしれません。

しかし、中には不合理なケースもあることから、その対策として法律の改正が行われました。

それが2020年4月に施行された通称「パートタイム・有期雇用労働法」であり、「同一労働同一賃金」の実現がうたわれています。

なお、中小企業においては、2021年4月からの適用です。

 

2.「同一労働同一賃金」へ 法改正の内容は

 

「パートタイム・有期雇用労働法」は、正式名を

「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」

と言います。

「同一企業内における正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規社員の間の不合理な待遇の差をなくし、どのような雇用形態を選択しても待遇に納得して働き続けることができるよう*3

にとの目的で施行されました。

厚生労働省の周知リーフレットに、その改正ポイント3点がまとめられています。

「同一労働同一賃金」の法改正ポイント
1.不合理な待遇差の禁止

同一企業内において、正社員と非正規社員との間で、基本給や賞与などのあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止されます。ガイドライン(指針)において、どのような待遇差が不合理に当たるかを例示します。

2.労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

非正規社員は、「正社員との待遇差の内容や理由」などについて、事業主に説明を求めることができるようになります。事業主は、非正規社員から求めがあった場合は、説明をしなければなりません。

3.行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続き(行政ADR)の整備

都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続きを行います。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由」に関する説明についても、行政ADRの対象となります

引用)厚生労働省 都道府県労働局「パートタイム・有期雇用労働法周知リーフレット」(https://www.mhlw.go.jp/content/000473038.pdf)

待遇差が禁止されるのは、主に以下の項目です*4

・基本給

・賞与(ボーナス)

・各種手当(役職手当、食事手当等)

・福利厚生(給食施設、休憩室、更衣室、慶弔休暇等)

・教育訓練

では、これらの内容をもう少し詳しく見てみましょう。以下は厚生労働省 都道府県労働局「パートタイム・有期雇用労働法 対応のための取組手順書」P7より一部抜粋(https://www.mhlw.go.jp/content/000468444.pdf)です。

基本給
労働者の「①能力又は経験に応じて」、「②業績又は成果に応じて」、「③勤続年数に応じて」支給する場合は、①②③に応じた部分について、同一であれば同一の支給を求め、一定の違いがあった場合には、その相違に応じた支給を求めている。
賞与
会社の業績などへの労働者の貢献に応じて支給するものについては、正社員と同一の貢献である短時間労働者・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、貢献に言っての違い場ある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない。
通勤手当など
短時間労働者・有期雇用労働者には正社員と同一の支給をしなければならない。
※同様の手当…端子人赴任手当(同一の支給要件を満たす場合)等
時間外手当など
正社員と同一の時間外、休日、深夜労働を行った短時間労働者・有期雇用労働者には、同一の割増率などで支給をしなければならない。
不合理な待遇差の具体例も記載されています。
問題となる例1
問題となる例1

引用)厚生労働省「厚生労働省告示第 430 号(全文ガイドライン)」P7より抜粋(https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000469932.pdf)

問題となる例2
問題となる例2

引用)厚生労働省「厚生労働省告示第 430 号(全文ガイドライン)」P7より抜粋(https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000469932.pdf)

 

経理や人事の仕事に携わっていない限り、給与面における待遇差には気づきにくいかもしれませんが、より身近なところでは、通勤手当や社員食堂の利用等も平等に扱われるべきことです。

政府広報オンラインによると

「仕事内容や労働契約期間が違うとしても、通勤手当が通勤に必要な交通費を補助するものであれば、その性質・目的を踏まえ、アルバイトや契約社員にも正社員と同一の通勤手当を支給する必要*5

とあります。

また、社員食堂についても、食堂が狭いから正社員のみ利用可というのは筋が通らず、

「アルバイトや契約社員にも、正社員と同様に食堂を利用する機会を与えなければならない*6

と明記されています。

 

3.雇用主に説明を求めるには

 

上記の改正ポイントでは、待遇差についてしっかりと説明をすることが雇用主の義務として強化されました。

しかし、雇用主に対して説明を求めるというのは、勇気のいる行為です。

「事業主は、労働者が説明を求めたことを理由として解雇や減給など不利益な取扱いをしてはならない」*7

という旨も記されていますが、説明を求めた次の日から社内でどのような目で見られるか、と思うと躊躇する人もいるでしょう。

また、非正規雇用労働者が基本給の待遇差に関する説明を求め、雇用主から「将来の役割期待が異なるため」という回答を得た場合、納得すべきでしょうか。

ガイドラインによると、このような「主観的・ 抽象的」な理由は待遇差を設けるには十分ではありません。

 

賃金の決定基準・ルールの違いは職務内容(業務の内容+責任の程度)や職務内容・配置の変更範囲(転勤、人事異動、昇進などの有無や範囲)、その他の事情を含め、客観的・具体的 な実態に照らしたものである必要があります。

つまり、説明を求める際は、受けた説明自体が合理的かどうかも見極めることが肝心です。

しかしながら、「不合理か否か」の線引きが難しいポイントであり、雇用主側と労働者側における解釈の相違によってトラブルの種にもなりかねません。

万が一、雇用主との間でトラブルとなったり、納得できないままに要件を流されてしまったりした場合は、非公開を大前提に、各都道府県に設置された労働局にて無料で相談が可能です。

それが改正ポイントの③にあたります。行政による紛争解決援助制度は、裁判を起こすわけではなく、当事者の一方または双方の申出により、簡易・迅速にトラブルを解決する手段として活用できるため、事前に調べておきましょう。

引用)厚生労働省 都道府県労働局「パートタイム・有期雇用労働法 対応のための取組手順書」P19(裏表紙)

引用)厚生労働省 都道府県労働局「パートタイム・有期雇用労働法 対応のための取組手順書」P19(裏表紙)(https://www.mhlw.go.jp/content/000468444.pdf)

 

 

4.有期契約5年以上で「無期転換」の選択もあります。

 

有期契約による雇止めの不安を抱える方は、「無期転換ルール」の申込みも視野に入れてはいかがでしょうか*8

「パートタイム・有期雇用労働法」の施行以前に設けられていたルールで、201341日以降に結ばれた契約が対象です。

同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、労働者から申込みを行えば、期間の定めのない労働契約 (無期労働契約)に転換されます。

条件を満たしていれば、使用者側はこの申込みを拒否できません。

なお、もともと3年契約の労働者が、次の3年契約の更新を行う際には、すでに通算契約期間が6年となることから、実際に働いた期間が5年に満たなくても、無期転換申込権が発生。

次の契約更新時から無期契約となります。

東京都TOKYOはたらくネット「6-1 有期労働契約と無期転換ルール」

引用)東京都TOKYOはたらくネット「6-1 有期労働契約と無期転換ルール」P95(https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/shiryo/chapter6.pdf)

 

ここで対象となる有期契約労働者とは 「契約社員」「パートタイマー」「アルバイト」他、企業によって独自に設けられた雇用形態(準社員、パートナー社員、メイト社員等)で契約期間に定めのある場合です。

さらに、「派遣社員」も、派遣元の企業に対して申込むことが可能です。

ただし、無期雇用となった後の雇用区分については会社の制度に委ねられ、

「個々の労働契約で別段の定めがある部分を除き、直前の有期労働契約と同一の労働条件*9

とされているため、事前に企業側に相談する等、理解しておくことが賢明です。

 

5.まとめ

 

「パートタイム・有期雇用労働法」の施行によって、正社員との不合理な待遇差が解消されたとしても、非正規雇用から正社員となるわけではなく、合理的な待遇差は残ります。

契約社員であっても、続けたい仕事であれば、待遇改善を目指しながら同企業内で正規雇用への道を探る手もあるかもしれません。

しかし、正社員にこだわるのであれば、転職活動を続けるほうが早く叶う可能性もあります。就労条件や仕事内容等、総合的に判断することが大切と言えるでしょう。

 

 

参照データ
*1参考)総務省統計局「労働力調査(基本集計)2019年(令和元年)平均(速報)結果の要約」P9
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf
*2参考)厚生労働省「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(業界別マニュアル)」
業界別調査結果
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03984.html#h2_free1
〈 スーパーマーケット業界編 P73 https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000494574.pdf 〉
〈 福祉業界編 P72, P77, P82 https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000494727.pdf 〉
*3引用)厚生労働省・都道府県労働局「パートタイム・有期雇用労働法周知リーフレット」
https://www.mhlw.go.jp/content/000473038.pdf
*4参考)政府広報オンライン「2020年4月1日、パートタイム・有期雇用労働法が施行されました」 1)「パートタイム・有期雇用労働法」で何が変わったの?
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202004/2.html#a1
*5 *6引用)政府広報オンライン「2020年4月1日、パートタイム・有期雇用労働法が施行されました」 1)「パートタイム・有期雇用労働法」で何が変わったの?
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202004/2.html#a1
*7参考)政府広報オンライン「2020年4月1日、パートタイム・有期雇用労働法が施行されました」 1)「パートタイム・有期雇用労働法」で何が変わったの?
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202004/2.html#a1
*8参考)厚生労働省「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」
https://muki.mhlw.go.jp/part_time_job/
*9引用)厚生労働省「有期契約労働者の無期転換ポータルサイトQ&A」Q8
https://muki.mhlw.go.jp/part_time_job/qa/
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