病気やケガで休職する場合、健康保険に加入している会社員であれば傷病手当金が支給されるので、給与がもらえなくても当面の生活費を確保できます。
しかしこの傷病手当金、うつ病などの精神疾患の場合も適用対象になるのでしょうか。
日本ではうつ病にかかる人が増加しており、対策が社会問題化しています。
「自分だけは大丈夫」と思うかもしれませんが、誰もがうつ病になる可能性があるので、もしものときに備えて傷病手当金について理解を深めておくことが大切です。
今回は、傷病手当金の支給条件や支給期間、支給金額などについて詳しく解説します。
1.日本のうつ病患者数の推移
厚生労働省の「患者調査」によると、うつ病などの気分障害患者数は以下のように推移しています。
平成8年(1996年)は43.3万人だった気分障害患者数は、平成29年(2017年)には127.6万人に増加しています。
中でもうつ病の患者数は大きく増加しており、平成8年(1996年)は20.7万人でしたが、平成29年(2017年)は95.7万人と21年間で約4.6倍に増えています。
患者調査は医療機関にかかっている患者数の統計データであり、うつ病患者の医療機関への受診率は低いため、実際にはさらに多くの患者がいると考えられます。
うつ病対策は社会問題となっており、うつ病にかかった場合は適切な治療と支援を受けることが重要です。
2.うつ病などの精神疾患も傷病手当金の対象
健康保険に加入している会社員は、業務外の病気やケガで休職すると傷病手当金が支給されます。
傷病手当金は精神疾患も適用対象となるので、うつ病で休職する場合も傷病手当金は受給可能です。
傷病手当金を受給するには、以下4つの条件をすべて満たす必要があります。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
- 仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
- 休業した期間について給与の支払いがないこと
注意しておきたいのが、会社を休んだ日が連続3日間(待期3日間)ないと傷病手当金の支給対象とならないことです。
「病気やケガで会社を休んだとき(「待期3日間」の考え方)」.png)
引用:全国健康保険協会(協会けんぽ)「病気やケガで会社を休んだとき(「待期3日間」の考え方)」(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/)
うつ病によって繰り返し会社を休んでも、「待期3日間」が完成しないと傷病手当金は支給されません。
待期3日間に給与支払いの有無は関係なく、有給休暇や公休日(土日祝日)も含まれます。
3.傷病手当金の支給期間
同一の病気やケガについて傷病手当金が支給される期間は、支給開始日から最長1年6か月です。
1年6か月の間に仕事復帰した期間があり、その後再び同じ病気・ケガで休職した場合は、復帰期間も1年6か月に含まれます。
支給開始から1年6か月を超えると、まだ仕事に就けない状態であったとしても、傷病手当金は支給されなくなります。
4.傷病手当金は退職後も引き続き受給可能
うつ病により仕事ができない場合、状況によっては退職を検討するかもしれません。
以下の条件を満たせば、退職後も引き続き傷病手当金を受給できます。
- 資格喪失日(退職日)の前日までに健康保険の被保険者期間が1年以上あること
- 資格喪失日の前日に傷病手当金を受給しているか、受給できる状態にあること
受給できる状態とは、傷病手当金の4つの支給条件のうち「休業期間に給与の支払いがない」以外の3つを満たしている状態のことです。
ただし、退職後に一度働ける状態になり、その後に再度働けない状態になった場合は、支給開始日から1年6か月を経過していなくても傷病手当金は支給されなくなります。
「病気やケガで会社を休んだとき(資格喪失後の継続給付について)」.png)
引用:全国健康保険協会(協会けんぽ)「病気やケガで会社を休んだとき(資格喪失後の継続給付について)」(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/)
5.うつ病による休職でもらえる傷病手当金の額
うつ病で休職したときに、傷病手当金がいくら支給されるのか気になるのではないでしょうか。
1日あたりの傷病手当金の額は以下の算式で計算されます。
- 平均標準報酬月額÷30日×2/3
平均標準報酬月額とは、傷病手当金の支給開始日以前の継続した12か月間の標準報酬月額の平均額です。
以下のケースの場合、1日あたりの傷病手当金の額は6,220円となります。
- 傷病手当金の支給開始日:2020年7月1日
- 2020年1~6月の標準報酬月額:30万円(6か月)
- 2019年7~12月の標準報酬月額:26万円(6か月)
(26万円×6か月+30万円×6か月)÷12か月÷30日×2/3=6,220円(支給日額)
支給開始日以前の健康保険加入期間が12か月に満たない場合は、次のいずれか低い額を平均標準報酬月額とみなして1日あたりの傷病手当金の額を計算します。
- 支給開始日の属する月以前の継続した各月の平均標準報酬月額
- 30万円(支給開始日が2019年4月1日以降)*1
6.傷病手当金の申請方法
傷病手当金を受給したい場合は、健康保険組合に「傷病手当金支給申請書」を提出します。まずは勤務先に休職することを伝えたうえで傷病手当金について相談し、申請書を入手しましょう。申請書の内容は、大きく以下3つに分けられます。
- 被保険者記入欄
- 事業所の証明
- 療養担当者の意見
被保険者記入欄は自分で記入しますが、「事業所の証明」は勤務先の担当部署、「療養担当者の意見」は医師に記入してもらう必要があります。
申請書を準備できたら、自分で郵送するか、会社を通じて健康保険組合に提出しましょう。
提出後、健康保険組合で審査が行われ、支給が決定すると指定口座に振り込まれます。
通常は申請から振込まで1か月程度かかるので、なるべく早く会社の担当部署と相談することが大切です。
7.うつ病で傷病手当金を受給するときの注意点
うつ病による休職で傷病手当金を受給するときの注意点は以下2つです。
・仕事復帰を焦らない
うつ病で休職する場合は、仕事復帰を焦らないことが大切です。
「少しでも早く復帰したい」と思うかもしれませんが、完全に回復しないうちに無理に復帰しようとすると、かえって復帰が遅くなってしまいます。
調子がよくて「すぐにでも復帰できる」と感じても、自己判断は禁物です。
傷病手当金を受け取りながら治療に専念し、医師の判断に従って無理のないペースで仕事復帰を目指しましょう。
・傷病手当金の受給中にアルバイトをしない
うつ病で休職して傷病手当金を受給しているときは、アルバイトをしないように注意しましょう。
仕事復帰に向けたリハビリ目的だとしても、傷病手当金を受給中のアルバイトは副業と判断され、傷病手当金の支給に影響が出る恐れがあります。
リハビリ目的でアルバイトを希望する場合は自己判断せず、事前に勤務先や健康保険組合に相談することが大切です。
8.うつ病による休職では傷病手当金を活用しよう
業務外の病気やケガによる休職で支給される傷病手当金は、うつ病などの精神疾患も適用対象となります。
うつ病は患者数が増加傾向にあり、誰もがかかる可能性のある病気です。
うつ病で休職することになった場合は、傷病手当金を受給しながら治療に専念しましょう。
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/

金融ライター(AFP、2級FP技能士)
フリーランスの金融ライター。会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て、2017年10月より現職。10年以上の投資経験とFP資格を活かし、複数のメディアで執筆しています。