「出産しても仕事を続けたい」と考える女性は多く、育児休業取得率は80%を超えています。
出産を機に退職すると積み上げてきたキャリアがリセットされてしまうので、育児休業を経て復帰するほうが、今後のキャリアには有利に働くでしょう。
また、住宅ローンや教育費といった経済的な理由で仕事を辞められない方もいるかもしれません。
育児休業を検討しているのであれば、事前に育児休業の仕組みについて理解しておくことが大切です。
今回は育児休業の概要や取得条件、休業中の補償などについて詳しく解説します。
1.育児休業の取得状況は?
厚生労働省の厚生労働白書によると、育児休業取得率の推移は以下の通りです。
2016年度(平成28年度)の育児休業取得率は女性が81.8%、男性は3.16%です。
女性については、2007年度(平成19年度)以降は80%超で推移しており、育児休業の取得が定着していることがわかります。
一方、男性は増加傾向にはありますが、実際に取得する人はまだまだ少ないのが現状です。
また、女性の育児休業取得率は高いものの、第1子出産後の継続就業割合は53.1%(2015年度)で、約5割の女性が出産・育児により離職しています。
出産・育児によって一度離職してしまうと、今後のキャリアに大きな影響を与えます。
また、自分のキャリアだけでなく「住宅ローンの返済」「教育費の準備」といった経済的な理由から、「出産後も働きたい」と考える女性は多いのではないでしょうか。
女性が出産後も働き続けるには、夫婦で協力し合うのはもちろん、育児休業制度について理解しておくことも大切です。
2.育児休業(育休)とは
育児休業とは、原則として1歳未満の子どもを養育するために休業できる制度です。
一定の条件を満たす労働者は、会社に申し出ることで子どもが1歳になるまでの間で希望する期間、育児休業を取得できます。
「保育所への入所を希望しているが、空きがなくて入所できない」
など、保育所に預けられない事情がある場合は、最長2歳まで休業の延長が可能です。*1
育児休業中は給付金を受け取れるので、生活費を確保しながら育児に専念できるのがメリットです。
育児休業は育児・介護休業法によって認められており、一定の条件を満たせばパートや派遣社員、契約社員といった有期契約労働者も利用できます。
育児・介護休業法では、
「育児休業の取得を理由に契約を更新しない」
「休業終了日を超えて休業を強要する」
といった行為を禁止しています。
3.育児休業と産前・産後休業(産休)の違い
産前・産後休業(産休)とは、出産の前後に取得できる休業のことで、詳細は以下の通りです。*2
- 産前休業:会社に請求すると、出産予定日の6週間前(双子の場合は14週間前)から取得できる。
- 産後休業:出産翌日から8週間は就業できない。産後6週間後に本人が請求し、医師が認めた場合は就業できる。
産休の取得に要件はなく、労働者であれば誰でも取得可能です。
産前・産後休業の取得を理由に解雇することは法律で禁止されており、産前・産後休業期間およびその後30日間の解雇も禁止されています。
会社では必要な手続きがあるため、産休の取得を希望する場合は早めに相談しましょう。
産前・産後休業を取得後、子どもが1歳になるまで育児休業を取得する流れになります。
育児休業と産前・産後休業は似ていますが、その内容は異なるため、混同しないように注意が必要です。
4.育児休業の取得条件
育児休業は、原則1歳未満の子を養育する男女が取得できます。
正社員ではなく、期間の定めのある労働契約で働く方(パート、派遣社員、契約社員)の場合は、以下の要件を満たす必要があります。*3
- 同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること
- 子が1歳6か月に達する日までに、労働契約期間が満了することが明らかでないこと
要件を満たした労働者から育児休業の申出があった場合、会社は拒否できません。
ただし、次のような労働者について、「育児休業を取得できない」とする労使協定がある場合は拒否できます。*4
- 継続して雇用された期間が1年未満の労働者
- 育児休業申出の日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
育児休業を取得できるか判断できない場合は、厚生労働省のホームページや都道府県の労働局の相談窓口などで確認するといいでしょう。
5.育児休業を取得する方法
育児休業を取得するには、会社に育児休業の取得を申し出なくてはなりません。
育児休業の申出期限は、休業開始予定日の1か月前までと定められています。*5
産前・産後休業と続けて育児休業を取得する場合は、産前休業に入る前に申出を行うのが一般的です。
会社は申出のあった従業員に対して、育児休業開始予定日や終了予定日を速やかに通知しなくてはなりません。
また、休業中の業務調整など、さまざまな手続きを行う必要があります。
スムーズに休業に入れるように、産休や育休を取得する予定がある場合は早めに会社の上司や担当部署に相談しましょう。
6.育児休業中の補償(経済的支援)について
育児休業を取得する場合、休業中にどんな補償が用意されているか気になるのではないでしょうか。
育児休業中は、以下の経済的支援を受けられます。
- 育児休業給付
- 社会保険料の免除
育児休業中は、雇用保険から育児休業給付が支払われます。
支給額は、育児休業開始から6か月までは休業開始前賃金の67%相当額、それ以降は50%相当額です。
育児休業給付は非課税(所得税・住民税)で、給与が支払われていなければ雇用保険料の負担もありません。*6
育児休業中は育児休業給付だけでなく、社会保険料(健康保険、厚生年金保険、国民年金)の免除も受けられます。
会社が年金事務所や健康保険組合に申し出ることで、被保険者本人負担分および事業主負担分ともに免除されます。*7
育児休業給付は非課税で、社会保険料も免除されることから、休業前の手取り賃金と比較して8割程度が支給される仕組みになっています。
仕事をしているときより収入は少なくなりますが、育児のために会社を休んでも一定の収入を得られるのは大きなメリットです。
7.出産しても仕事を続けたい場合は育児休業を取得しよう!
出産を機に退職すると、それまで積み上げたキャリアがリセットされてしまいます。
子育てが落ち着いてから社会復帰しようとしても、退職前と同じような待遇で働くのは難しいかもしれません。
育児休業期間中は給付金が支給され、社会保険料も免除されるので、経済的なことを気にせず育児に専念できます。
出産しても仕事を続けたい場合は、育児休業の取得を検討しましょう。

金融ライター(AFP、2級FP技能士)
フリーランスの金融ライター。会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て、2017年10月より現職。10年以上の投資経験とFP資格を活かし、複数のメディアで執筆しています。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_r01_12_27.pdf
*2参考:厚生労働省「育児休業や介護休業をすることができる有期契約労働者についてP4」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_r01_12_27.pdf
*3参考:厚生労働省「育児・介護休業法のあらましP20」
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000355354.pdf
*4参考:厚生労働省「育児・介護休業法のあらましP26」
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000355354.pdf
*5参考:厚生労働省「育児休業や介護休業をすることができる有期契約労働者についてP4」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_r01_12_27.pdf
*6参考:厚生労働省「育児休業や介護休業 をする方を経済的に支援しますP3‐4」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_h28_11_02.pdf
*7参考:厚生労働省「育児休業や介護休業 をする方を経済的に支援しますP6」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_h28_11_02.pdf