転職と聞くと、「古い会社から新しい会社に移る」ということがイメージされるのではないかと思います。
しかし、特定の企業に所属せず、案件ごとに複数の企業と協業する、いわゆる「フリーランス」という働き方が近年増加しています。
特に最近では、新型コロナウイルスの影響により、企業が正社員の採用数を絞る傾向にあります。
その反面、企業はフリーランスへの業務委託をすることで、必要な分だけの労働力を確保しようとする動きが加速するでしょう。
フリーランスは「業務委託」という形で企業と仕事をするのが通常ですが、これは「雇用」とは異なる新しい働き方といえます。
業務委託には企業・フリーランスのそれぞれにとってメリットがある反面、特に労働者側にとっては注意しなければならない点もありますので、この機会に業務委託の特徴を理解しておきましょう。
1.フリーランスという働き方の実態は?
「フリーランス白書2018」には、フリーランスの人々に対して行われたアンケートの結果がいくつか示されています。
まずは「フリーランス白書2018」のアンケート結果から、フリーランスという働き方についての実態を探ってみましょう。
①フリーランスに転じた人の仕事に対する満足度は上がる傾向
.png)
(参考:「プロフェッショナルな働き方・フリーランス白書2018」15頁)(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000189092_2.pdf)
上記のグラフは、会社勤めからフリーランスに転じた人に対して、6項目についての満足度の変化を調査したアンケートの結果を示しています。
このデータによると、会社員時代に比べてフリーランスの満足度が高いと答えた人は、実に84.3%に上ります。
次の項目で示すアンケート結果にも表れていますが、
・就業環境を自由に決められること
・仕事上の人間関係を選べること
・自分の仕事として達成感、充実感を得られること
・スキル、経験などの向上を実感できること
などが影響していると思われます。
②フリーランスは収入に不満を抱きがち|不安定さが原因か
.png)
(参考:「プロフェッショナルな働き方・フリーランス白書2018」16頁)(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000189092_2.pdf)
上記のグラフは、フリーランスの人々に対して、今の働き方についての満足度を絶対評価で調査したアンケート結果を示しています。
このデータによると、特に収入については「非常に満足」が7.2%、「満足」が26.9%にとどまっており、必ずしも現状の満足度が高いとは言えません。
.png)
(参考:「プロフェッショナルな働き方・フリーランス白書2018」17頁)(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000189092_2.pdf)
上記のデータを見ると、フリーランスの方が収入に満足しにくい理由は、主に収入の不安定さにあると考えられます。
業務委託で働くフリーランスの方は、雇用で働く会社員などの方と比較すると、どうしても収入が不安定になりがちです。
収入の不安定さは、フリーランスとして独立するかどうかを決める際も、実際にフリーランスになった後も、ずっと付きまとう問題といえるでしょう。
2.業務委託のフリーランス・雇用の会社員|メリット・デメリットを比較
一つの会社に縛られることなく、自分の裁量で仕事をするフリーランスの働き方には、憧れを抱いている方も多いかもしれません。
一方で、フリーランスの不安定さに対して漠然と不安を持ち、フリーランスに転じるという決意をするまでには至らないという場合もあるでしょう。
これらの考え方はどちらも正しく、どのような働き方を選択するかについては、多面的な観点から考えて決定する必要があります。
フリーランスとして業務委託で働く方法と、会社員として雇用で働く方法を、さまざまな観点から比較してみましょう。
フリーランス(業務委託) | 会社員(雇用) | |
固定給 | 原則なし | あり |
有給休暇 | なし | あり |
解雇制限 | なし | あり(厳しい) |
社会保険料の負担 | 国保・国民年金(フリーランス負担) | 社保・厚生年金(労使折半) |
指揮命令関係 | なし | あり |
①完全歩合・成果報酬制のフリーランス、固定給・有給休暇がある会社員
会社員の給料体系はさまざまですが、ほとんどの場合は一定の固定給が支給されることになっています。
また、会社員には労働基準法上、有給休暇取得の権利が認められているので、有給休暇中は働かなくても給料がもらえることになります。
一方、業務委託で働くフリーランスは、原則として完全歩合・成果報酬制です。
そのため、働いた分だけお金がもらえる反面、稼働がストップすれば収入はゼロになってしまいます
②解雇制限の有無|業務委託は簡単に切られやすい
会社に雇用されている労働者については、労働契約法16条に規定される解雇制限の規定により、解雇が厳しく制限されています。
現実的には、よほどひどい非違行為がない限りは、会社が労働者を解雇することは不可能といって良いでしょう。
一方、業務委託で働くフリーランスには、会社員に適用される解雇制限は適用がありません。
そのため、契約上の業務委託期間が終了すれば、委託元はいつでもフリーランスとの契約を打ち切ることができます。
このことは、フリーランスの収入が不安定であることの大きな要因といえるでしょう。
③社会保険料負担の有無|メリットにもデメリットにもなる
会社員である労働者の場合、健康保険料・雇用保険料・厚生年金保険料を会社と労働者が折半して支払っています。
労働者にとっては、保障が手厚くなるメリットがある反面、会社の保険料負担が重いために、給料額面が相対的に低く抑えられてしまうデメリットもあります。
これに対して、業務委託で働くフリーランスの場合は、委託元である会社の社会保険料負担がありません。
フリーランスが加入する国民健康保険・国民年金は、会社員のケースに比べて、保障があまり充実していないデメリットがあります。
その一方で、会社にとっては社会保険料の負担なく業務委託契約を締結できるため、従業員を雇うよりもコスト面で有利になります。
したがって、条件交渉次第では浮いた社会保険料の一部について、実質的に報酬へ反映してもらえる可能性もあるでしょう。
④指揮命令関係の有無|業務委託は取引先と対等
会社員の場合、職場の上司による命令には、特段不合理な点がない限りは従う必要があります。
つまり、会社の従業員と上司、あるいは会社との間には指揮命令関係があるといえます。
一方、フリーランスと委託元の取引先との関係は、対等な契約関係です。
そのためフリーランスは、契約上の義務を果たしている限り、法的には取引先の指示・命令に従う必要はありません。
また、取引先と対等であるがゆえに、フリーランスは取引先を自由に選ぶことが可能です。
たとえ上司が嫌でも付き合わなければならない会社員と比較すると、この点はフリーランスの大きなメリットといえます。
3.業務委託で働くフリーランスのリスク・ヘッジ手法
業務委託で働くフリーランスは、会社員と比較して「取引先から切られやすい」「有給休暇がないので休みがとりづらい」などのデメリットがあります。
フリーランスが安定した働き方を確立するためには、これらのデメリットについてうまくカバーしなければなりません。
具体的には、以下の方法などによってリスク・ヘッジを行うことが得策です。
①複数の取引先を持つ
1つの取引先から関係を切られてしまっても、他に複数の取引先を持っていれば、全体としての売り上げ(収入)が大きなダメージを受けることはありません。
したがって、フリーランスが売り上げ(収入)を安定させるためには、複数の取引先と仕事をする状態をキープすることが重要になるでしょう。
②継続的に新規取引先を開拓する
前の項目とも関連しますが、取引先が分散していればいるほど、フリーランスの収入はより安定します。
そのため、フリーランスがさらに事業を安定させるためには、継続的に新規取引先を開拓することもポイントになります。
③他のフリーランスと協業する
取引先が拡大してくると、フリーランスは常に仕事に追われている状態になってしまいがちです。
年がら年中働き続けていると、心身に不調をきたしてしまい、かえって仕事がストップするという事態になりかねません。
このような事態を避けるためには、ある程度売り上げが拡大した段階で他のフリーランスと協業し、不在期間をカバーし合ったり、得意分野によって分業をしたりすることも有効です。
4.業務委託という選択肢も視野に、多様な働き方を模索しましょう
「転職=雇用」という図式は今でも色濃く存在してはいるものの、近年のトレンドを考えると、業務委託で働くという選択肢を持っておくことには一定の意味があるといえるでしょう。
業務委託と雇用にはそれぞれメリット・デメリットがあるので、自分に合っているかどうかをよく考えて選択することが大切です。
業務委託・雇用の区別に限らず、最近では働き方がかなり多様になってきているので、幅広く選択肢を持ったうえで、自分にとって心地よい働き方を模索しましょう。

プロフィール:大手法律事務所にて弁護士として勤務。在職中は金融関連案件を中心に、多数の企業法務案件に従事。大手法律事務所退職後、現在は本業の弁護士業務と並行して、法律・金融関係を中心に幅広いジャンルの記事執筆を行う。