「新卒時では受からなかった本命の職種への夢が諦めきれない」
「今の仕事は待遇が悪いので別の仕事に挑戦したい」
理由は様々ですが、業界や職種を変える異業種・異職種転職のニーズは多くあります。
しかし、スキルや経験が無いことがネックで、なかなかチャレンジに踏み切れない人も多いのではないでしょうか。
しかし実は、異業種・異職種への転職を成功させるケースは少なくありません。
今回は、さまざまな調査を参考に、異業界・異職種転職の現状を読み解いていきます。
1.異業界・異職種転職は増加傾向にある
これまで培ったスキル・経験が活かせる同業種・同職種間の転職の方が、異業種・異職種間の転職より簡単だと思う人も多いでしょう。
しかし、実際のデータはこうしたイメージとは異なっています。
以下のグラフをご覧ください。
各転職類型の該当者が回答者全体に占める比率

引用)労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書No.195『中小企業における採用と定着』」p134(https://www.jil.go.jp/institute/reports/2017/documents/0195_06.pdf)
グラフ内の「一致型」とは、1つ前の勤務先が現在の勤務先と同業種、従事していた仕事も現在の勤務先と同じ内容のグループです。
また、「仕事継続型」は1つ前の勤務先が現在の勤務先とは別業種ですが、仕事内容は変わらないグループを指します。
そして、「業種継続型」は業種は変えずに仕事内容が一つ前の勤務先とは異なるグループです。
最後の「乖離型」は業種も仕事内容も一つ前の勤務先とは異なるグループです。
グラフを見て頂ければわかる通り、乖離型が割合として最も高く、全体の36.6%から回答を得ています。
また、業界のみ変える「仕事継続型」や仕事内容のみ変える「業種継続型」を含めると、異業種・異職種転職の割合は7割を越えています。
この調査結果を考慮すると、異業種・異職種転職は一般的になっていると言えるでしょう。
転職者が多いということは、すなわち受け入れる企業も多いことを意味します。
例えば、製薬業界大手「第一三共株式会社」は多様な人材の獲得のため、異業種からも積極的に中途採用を行っています。
また、自動車業界最大手トヨタは日立製作所など異業種企業とのコラボセミナーを行い、転職・就職希望者の裾野を広げる活動をしています。
かつては大企業は新卒一括採用が中心でしたが、近年は、異業種からの中途採用を積極的に受け入れるよう変化しています。
企業を取り巻く環境は複雑多様化しており、今までのビジネススタイルがこれからも通用するとは限りません。
「新しい風をふかしてほしい」
との想いから、異業種・異職種からも人材を受け入れる動きが加速しています。
2.同じ異業界・異職種への転職でも年代ごとに傾向は異なる
一般的に、年齢が若い方が吸収力や柔軟性に優れるため、新しいことにチャレンジしやすいというイメージがあります。
転職エージェント「リクルートキャリア」の行った調査を参考に、年代別の異業種・異職種転職の動向を見てみましょう。
キャリア移行比率_年齢別

引用)リクルートキャリア「【転職決定者データから見る】2020中途採用市場 中途採用においては「越境採用力」もカギに」(https://www.recruitcareer.co.jp/news/pressrelease/2020/200123-01/)
20代は30代や40代と比べ、異業界・異職種へ転職する割合が高いことが見て取れます。
若さを活かし、成長産業に身を置いたり、成長機会を求めたりと積極的に行動に移す若者が多いからと考えて差し支えないでしょう。
一方、30代・40代では異業界・異職種への転職者は減少し、異業種×同職種、つまり、労働政策研究機構のデータの「仕事継続型」に相当する転職が多いのが特徴です。
培ったスキル・経験を活かし、より専門性を高めてさらなるスキルや待遇上昇を求め、転職を志すケースが多いためだと考えられます。
50代に差し掛かると、再度、異業界・異職種への転職者が増えてくる点が意外に感じるかもしれません。
同社ではこの傾向を、
「培った経験を活かしつつ、社会貢献をしていきたいと考え、新たな業種や職種に挑戦し、【越境転職】していくケースがみられ」
と分析しています。
50代は順調にいけば、給与水準も上がり子供も手のかからない年齢に成長し、生活に余裕が出る人も多い年代です。
ゆとりができたため、世のため人のため行動したいと考える人が増えるのかもしれません。
3.異業種・異職種転職が多い職種・少ない職種
次は、職種ごとに分析してみましょう。
現在従事している職種と、一つ前の企業で働いていた職種に関する労働政策研究・研修機構のデータをご覧下さい。

引用)労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書No.195『中小企業における採用と定着』 」p136-137(https://www.jil.go.jp/institute/reports/2017/documents/0195_06.pdf)
まず、「乖離型」「仕事継続型」「業務継続型」といった業界もしくは仕事内容を変えるケース全てに共通するのが、事務職(一般事務、経理事務等)へ転職する割合が大きいことです。
一般的にも人気の事務職ですが、待遇改善を目的に転職を考える人が多い職種であると考えて良いでしょう。
「一致型」のデータを見てみると、介護や医療・IT関係・建設関係といった職種が、他のグループと比べて高い数字が出ています。
これらの仕事に共通するのは、専門性が高いという点です。
つまり、専門性が求められる職種に就く人は、業種や仕事内容を変えずに転職するケースが多いと言えます。
また、「業種継続型」を見てみると、営業や生産工・技能工といった職種の割合が他のグループと比べて高くなっています。
前の勤務先と同じ業種の企業・法人に転職をして、より人手を必要とする仕事につくことになった結果であると、同資料は分析しています。

引用)労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書No.195『中小企業における採用と定着』 」p136-137(https://www.jil.go.jp/institute/reports/2017/documents/0195_06.pdf)
管理的な業務に関する質問では、
「管理的な業務は現在担当していない」
と回答した割合が全体的に高く、その中でも「乖離型」がひときわ高くなっているのが特徴です。
管理的業務はその業務に関する一定の経験や高い専門的知識などを求められます。
そのため、経験・スキルともに乏しい「乖離型」の転職者はなかなか抜擢されるケースが無いのでしょう。
また、
「部門・職場の管理を担当している」
と答えた割合は、「一致型」や「仕事継続型」の2つにおいて、「業種継続型」「乖離型」よりも大きくなっています。
一方、
「会社全体の経営管理を担当している」
と答えた割合では、上記のような傾向は見られません。
各部門のトップには業務経験を積んだ転職者を抜擢するケースが多いものの、企業のトップ層までいくと、現場での業務経験はあまり重視していないことが分かります。
4.異業種・異職種転職でも同業界・同職種転職と活躍度は変わらない
以上、ご覧頂きましたように、異業種・異職種間転職の件数は実は想像以上に多く、さまざまな職種・年代において活発化しています。
新しいチャレンジは、意欲ある人にとって思っているよりもハードルが低く、転職難易度はそう高くないと言えるでしょう。
しかし、うまく転職できたとしても、まだ転職が成功したとは言えません。
入社後に「転職して良かった」と満足できてはじめて、その転職が成功したと言えます。
異業種・異職種への転職で多くの人が不安を感じるのは、スキルが無い状態から活躍できるかどうかです。
転職先で「活躍できている」と感じれば、成功に大きく近づきます。
この点に関して、下記グラフをご覧ください。
職種・業種の変化と活躍の状況
活躍している | 活躍していない | |
同業種・同職種への転職 | 49% | 51% |
異業種・同職種への転職 | 49% | 51% |
同業種・異職種への転職 | 51% | 49% |
異業種・異職種への転職 | 48% | 52% |
引用)厚生労働省「第80回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会資料【参考資料1】報告書関連データ」(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000194269.pdf p12)
同業種・同職種への転職、同業種・異職種への転職、異業界・異職種への転職、異業界・異職種への転職、どれをとっても「活躍している」「活躍していない」と答えた割合はほぼ変わりません。
つまり、業種や職種を変えたからといって、活躍が難しいとは言えないということです。
意欲さえあれば、人生は何歳からでもリスタートできると思えば、少し明るい気持ちになるのではないでしょうか。
はじめて挑戦する仕事でもあまり気負わず、自分の可能性を信じて一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

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