AIの登場によって、これまで人間が行ってきた仕事の多くが、機械に置き換えられる事になっていくでしょう。
そんなAI時代には、上から細かく指示されなくても自ら考えて行動していくことが求められるようになっていきます。
さらにキャリアについても、同じ会社でずっと働き続けられるという保証はなく、自分のキャリアは自分で切り開いていくことが求められます。
では、自らの力で積極的に行動を起こし、成果につなげていくにはどうすればいいのでしょうか?
その解決策を、脳科学やコンサルタントの視点から解説します。
1.自律的に考えるために大事なBig-Whyとは
今までずっと目上の人の言うことを素直に聞いてきた人にとって、急に自分で考るように言われても難しいものです。
「何をすればいいんだろうか?」と迷ってしまうこともあるのではないでしょうか。
自分で行動できるようになるために大事になってくるのが、大局観や目的意識を持つことです。
例えば、パズルや模型などを組み立てる際にも、最終的にどんなものになるのかということが分かっていれば、自分の判断で素早く組み立てることができるようになります。
しかし、どんなものが完成するのかを知らなければ、指示を受けないと思うように動けません。
仕事においても、「そもそも、この仕事は何のためにやるのか」という真の目的が理解できていれば、自分でどうすればいいのかを考えることができます。
このように、目先のことにとらわれるのではなく、真の目的や仕事の全体像をつかむのが大事になってきます。
目の前の与えられた仕事の目的だけを把握するだけでは、全体像をつかみきれません。
自律的に動けるようになるためには、目の前の仕事をする理由(Why)よりも、その背後にある真の目的(Big-Why)を知ることが重要になってきます。
Whyは「なぜやるのか」という理由であるのに対して、Big-Whyは「どうありたいのか」という在り方を意味します。*1
この「最終的にどういう状態になっていたいのか」というのが重要になってきます。
例えば、コスト削減の一環でペーパーレス化推進運動をしたとしましょう。
上の図に当てはめて考えてみます。
一見すると、この仕事の目的は、書類の印刷にかかる経費を削減して少しでも利益を確保しようというものだと思うでしょう。
しかし、真の目的が、書類の作成や印刷の手間を減らすことで浮かせた時間を顧客と接する時間に当て、売上の向上につなげることだったらどうでしょうか。
毎週のようにペーパーレス化推進会議のようなことをやって顧客と接する時間が全然増えていないという状態になってしまっては、真の目的からはズレてしまいます。
このように目先のことに囚われてしまっていたのでは、知らないうちに本当にやりたかったことからズレてしまうということも出てきます。
努力の方向を間違ってしまわないためにも、真の目的は何なのかを把握しておくことは重要です。
「言われたからやる」、「みんなやっている」、「今までずっとそうしてきた」というのでは、真の目的を何も把握できていません。
マーケティングの世界においても、「ドリルを買いに来るお客さんが欲しいのは、ドリルではなく穴である」という言葉があります。
自律的に動き、的確に結果に結びつけるためにも、真の目的(Big-Why)は意識しておきたいものです。
2.課題解決のための考える技術
自分の力で課題を解決する力もまた、AI時代には必須のスキルです。
課題を解決する思考のツールとして、3Cや4P、SWOT分析といったフレームワークと呼ばれるものがあり、大学の講義やビジネス書などで学んだことがある方も多いでしょう。
しかし、機械的にこれらのフレームワークに情報を当てはめるだけでは、課題の解決にはつながりません。
単に問題を分析するだけでなく、いかに行動に結びつけるのかが重要になってきます。
課題を解決するうえで大事になってくるのが、顧客は誰なのかをはっきりさせることです。
誰が最終的な成果を受け取るのかがはっきりしていれば、具体的にどんな要件を満たす必要があるのかや、どれくらいのクオリティのものが求められるのかということが分かります。
それをはっきりさせないまま情報だけを集めてしまうと、必要な情報の絞り込みができず、大量の情報に埋もれることになってしまいます。*2
また、顧客の期待を満たせないと、ちゃんと解決できたとも言えないため、何が期待されているのかを理解しておくことも大事です。
顧客を明確にして必要な情報を集めれば、いよいよ解決策の考案です。
そこで注意したいのが、「考える」と「悩む」を混同してしまわないようにすることです。
手が動かない、言葉が出てこないという状態になっていれば、それは考えているのではなく、悩んでいる状態です。*2
悩んでいる状態では、いくら前に進もうとしても同じところをグルグル回るだけになってしまいます。
手が動かない、言葉が出ないという状態になったら、すぐに頭を切り替えましょう。
情報はそれなりに集まっているのに、なぜか答えが出ないということもあります。
それは思考力や思考量に問題があるからではなく、ほぼ間違いなく「問いの立て方」か「情報の集め方」に問題があるとされています。*2
情報の集め方に問題があるようであれば、顧客は誰なのかをもう一度見直してみればいいでしょう。
では、「問いの立て方」については、どうでしょうか。
立てる「問い」を間違ってしまえば、正しく答えは出せません。
具体例として、英国の名門陶器メーカーの事例を見てみましょう。*2
このメーカーでは、経費削減のために商品の梱包に古新聞を使っていましたが、作業者が新聞を読んでしまうため、作業効率が下がり困っていました。
通常であれば、「作業者がいかに新聞を読まずに作業するようにするのか」と考え、読まないような対策をするものですが、それではなかなか答えが出ません。
そこで、このメーカーは、そもそも「作業者が新聞に関心を持たない」ようにするにはどうすればいいのかと問題を捉え直し、視覚障害者を雇うことでこの問題を解決しました。
こうすれば作業効率も上がり、障害者雇用にもつながります。
このように、うまく答えが出せないという時には、「問い」を再定義することで突破口が見えてきます。
3.脳科学的なひらめきの作り方
AIに淘汰されないために、何かAIにはマネできないスキルを身につけなければと考える方も多いはずです。
数あるスキルの中でも、クリエイティブなものというと一部の才能を持った人たちだけのものという印象を持つ人も多いのではないでしょうか。
だからといって、あきらめる必要はありません。
「ひらめき」がどのようにして生まれるのかを脳科学的に知れば、誰でもひらめくチャンスを手に入れることができます。
それでは、「ひらめき」とは、どのようにして生み出されるのでしょうか。
脳科学的に見れば、ひらめきが起きるときというのは、そのとき持っている目的意識や問題意識と、脳の中に蓄えられている情報のマッチングが自動的に行われ、最終的に残った本質的な情報同士が結びついたときであるとされています。*3
そのため、ひらめきを生むには、目的意識、問題意識を持って生活し、たくさんの情報を脳に入力しようとしている段階が必要です。
つまり、まずは興味の幅を広げ、さまざまな情報をインプットすることが大事になってきます。
さらに、いいアイデアを出すためには、以下の3点が重要であるとされています。*3
②新しい刺激を脳に与える。
③わざと突飛なアイデアを混ぜることで思考の型を崩し、アイデアが一定の方向で収束してしまうのを防ぐ。
ただ、こうして出されたアイデアも、そのままでは無茶苦茶すぎて役に立たないものも多くあります。
その中から、イノベーションにつながるようなアイデアを拾い上げるために大事になってくるのが、既存のものと今の社会のニーズの間にあるズレです。
このズレを埋め合わせるようなアイデアこそ、イノベーションの種となるものです。
ひらめきは、脳科学的に見れば、無から有を作り出すというものではなく、無意識で行われる情報のマッチングです。
ひらめきを生み出すためには、まずは目的意識や問題意識を持ってたくさん情報をインプットするということがポイントだということを押さえておきましょう。
4.自律型の人材になってAI時代を乗り切ろう
人生100年時代や秒速の時代をむかえ、長い人生の中で二度や三度の転職は、当たり前になりつつあります。
技術革新や天災などによって環境が大きく変化し、転職することになるというケースも出てくるでしょう。
一つの企業内において、いかにキャリアを積んでいくのかというよりも、複数の企業を渡り歩いて、どのようにして自分が満足できるキャリアにするのかが重要になってきます。
そうなってくると、自分のキャリアは自分で築き上げることが求められるようになってきます。
そうはいっても、簡単に先行きが読めない状況で、いかにキャリアを築いていけばいいのでしょうか。
そこで参考になるのが、スタンフォード大学名誉教授のクルンボルツによって提唱されたプランド・ハップンスタンス(計画された偶発性)理論です。*4
クルンボルツの研究によると、キャリアは偶然の出来事によって決まることが多いことが明らかにされました。
偶然といっても悪い出来事ばかりではなく、ちょっとした出会いによってキャリアの道が開けるという良い偶然も多数あります。
そのような幸運な出来事を捉えるためのスキルとして、クルンボルツは以下の5つを挙げています。*4
①好奇心(Curiosity):新しい学びの機会を模索する
②持続性(Persisitence):たとえ失敗しても努力し続ける
③柔軟性(Flexibility):姿勢を状況を変えることを進んで取り入れる
④楽観性(Optimism):新しい機会は実行でき達成できるものと考える
⑤冒険心(Risk-taking):結果がどうなるか分からない場合でも行動することを恐れない
先がどうなるかわからないと、あまり動かないでおこうと考える方も多いかもしれません。
しかし、クルンボルツの理論では、状況が不確実でも立ち止まることなく進み続ければ、チャンスは回ってくるということを示しています。
従来のキャリア理論では、明確な目標設定やその達成計画が重視されてきました。
不確定なものをネガティブに捉え、できる限り計画的に進めようという考え方です。
そのような従来の考え方では、せっかくのチャンスを取りこぼしてしまうということになりかねません。
予期せぬ出来事もポジティブに捉え、より良いキャリア形成に活用していくという姿勢が、これからの時代には大事になってくるでしょう。
*2 参考)「外資系コンサルの知的生産術」山口周著 P20~23,99~100,158~160
*3 参考)「脳と気持ちの整理術」築山節著 P138~139,144~147
*4 参考)「新時代のキャリアコンサルティング」労働政策研究・研修機構編 P58~61