転職の内定を受けた後に現職を退職し、再就職。
収入が途切れるリスクが最も少なく、多くの人が転職に望むパターンでしょう。
その一方で、雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)をもらわないまま次の職場で働くことに、ジレンマを感じる人もいるのではないでしょうか。
しかし、基本手当をもらうために転職時期を延ばすのは今後の就業や経済的リスクを伴うことになりかねません。
実は、これまでの雇用保険加入期間が転職先に引き継げるということを、ご存知でしょうか。
当記事では、雇用保険の基本手当の受給条件および通算制度について説明していきます。
1.雇用保険の基本手当の受給要件を知っておこう
雇用保険の基本手当とは、雇用保険に加入していた人が離職したあと、失業中の生活を心配しないで、新しい仕事を探し、1日も早く再就職できることを目的に支給されるものです。
一般的に失業給付や失業手当と呼ばれているもので、受給するためには次の2つの要件を満たすことが必要です*1。
①ハローワークで求職の申込みを行っていること
基本手当はあくまで、就職する意思および能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない「失業の状態」にある人に対して支給されるものです。
そのため、ハローワークで求職の申込みをしなければなりません。
加えて、失業の認定を受けようとする期間(認定対象期間)中に、就職しようとする意思を具体的かつ客観的に確認できる求職活動の実績も必要となります*2。
②雇用保険に加入していた期間を満たしていること
また基本手当は、離職の日以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12カ月以上あることが条件です。
ただし、倒産・リストラなど会社都合による離職の場合は、離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上が条件とされています。
つまり、退職後すぐに転職する、あるいは転職先が決まっている場合は失業の状態にあるとは言えず基本手当は支給されません。
その他、起業する、専業主婦(夫)になるような場合も同様です。
2.雇用保険の被保険者期間は通算できる
基本手当を受給できないケースに該当すれば残念に思う人もいるかもしれません。
しかし、結論から言うと、転職前に払っていた雇用保険料が決して無駄になるわけではないことを知っておきましょう。
雇用保険の「被保険者期間」には働く会社が変わっても通算される仕組みがあり、前の会社で加入していた雇用保険の加入期間は次の会社で加入する雇用保険に引き継がれることになります*3_Q43。
ただし、そのためには条件もあり、次の2つを満たさなくてはなりません。
1.前の会社を退職後、雇用保険(再就職手当等の就職促進給付を含む)を受給していないこと
2.前の会社を退職してから1年以内に次の就職先に就職し雇用保険に加入していること
前の会社を退職した後に雇用保険からの給付(再就職手当等の就職促進給付を含む)を受給した場合には、被保険者期間はリセットされてしまいます。
転職(再就職)後の会社で加入した雇用保険の被保険者期間はまたイチからスタートすることになりますから注意が必要です。
ちなみに、雇用保険の「被保険者期間」のカウントの仕方が2020年8月1日から改正されています。
離職日から1カ月ごとに区切っていた期間に、賃金支払の基礎となる日数が11日以上ある月、または、賃金支払の基礎となった労働時間数が80時間以上ある月を1カ月として計算されます*4。
月の中途で就職・退職する場合もありますから抑えておきましょう。
3.被保険者期間は通算のメリット
被保険者期間の通算は、次の2つの点でメリットがあります。
①転職(再就職)後の会社を短期で退職しても基本手当を受給できる可能性がある
先に見た基本手当の受給要件のひとつに、
「離職の日以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12カ月以上」
というのがありました。
これは、12カ月間継続して雇用保険に加入していなければ基本手当は払われないということではなく、離職の日から数えて過去2年の間に雇用保険に加入していた期間の合計が12カ月以上あれば基本手当受給の権利があることを意味します。
たとえば、下図のようにA社を退職後、B社に転職したものの10カ月でB社を退職したと仮定しましょう。
この場合、B社の離職日から2年の間にはA社での被保険者期間が13カ月あります。
通算すると23カ月となりますから、
「離職の日以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12カ月以上」
という要件を満たすことになります。
もう1つの「ハローワークで求職の申込み」に関する要件も満たしていれば、B社退職後に基本手当の受給権を得られます。
考えたくはないことですが、雇用環境の変化が著しい昨今、転職してまもなく失業状態に陥る可能性もあります。
業務や職場が合わない、転職先の都合による倒産・解雇など、事情はさまざまですが、12カ月経たないうちに予期せず転職先を退職した場合でも基本手当を受給する権利が保たれるのは安心でしょう。
②基本手当の所定給付日数が多くなる可能性がある
もうひとつのメリットは、将来的に基本手当を受給する際に所定給付日数が増える可能性があることです。
所定給付日数というのは基本手当を最大何日分受給できるかという日数のことで、これは離職日における年齢や被保険者であった期間、離職理由によって決定されます。
たとえば、自己都合退職の場合の所定給付日数は次のように定められています。
自己都合退職の場合の所定給付日数
被保険者期間 | 1~10年未満 | 10~20年未満 | 20年以上 |
全年齢 | 90日 | 120日 | 150日 |
出所)ハローワーク「基本手当の所定給付日数」を基に筆者作表
また、倒産・解雇などにより離職を余儀なくされた「特定受給資格者」。
結婚に伴う住所の変更や配偶者の転勤で通勤不可能または困難となった場合など、正当な理由のある自己都合離職者(特定理由離職者)の所定給付日数は、次のように定められています。
「特定受給資格者」および「特定理由離職者」の場合の所定給付日数
被保険者期間 | 1年未満 | 1~5年未満 | 5~10年未満 | 10~20年未満 | 20年以上 |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ― |
30歳以上35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | |
35歳以上45歳未満 | 150日 | 240日 | 270日 | ||
45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
出所)ハローワーク「基本手当の所定給付日数」を基に筆者作表
上の2つの表からわかるように、被保険者期間が長くなるほど所定給付日数は増えていきます。
所定給付日数が増えるための区切りは5年~10年と長めですが、前職を通算することで被保険者期間が延びた場合、将来的に基本手当を受給する際に有利になる可能性があります。
4.転職先での通算手続きに必要なもの
雇用保険に加入している人には被保険者番号が設定されています。
この番号は転職(再就職)先での雇用保険に引き継がれ、被保険者期間が通算されることになります。
被保険者番号は、はじめて雇用保険に加入した際に作成された「雇用保険被保険者証」に記載されています。
転職すると、その会社が雇用保険加入手続きをするために前の会社で加入していた「雇用保険被保険者証」が必要になります。
スムーズに手続きしてもらえるよう、会社から求められればすぐに提出できるようにしておきましょう。
通常、前の会社を退職する際に「雇用保険被保険者証」と「離職票」が交付されます。
退職時の手続き書類に紛れて紛失することのないよう注意しておきましょう。
万一、これらの書類を交付されていない場合には住居地を管轄するハローワークに問い合わせることも可能です。
ちなみに、転職先の会社に提出するのは「雇用保険被保険者証」だけです。
これは、これまで雇用保険に加入していたことの証のようなものです。
被保険者期間を通算するために必要です。
一方、離職票は基本手当を受給するのに必要となる書類です。
転職時には必要ありませんが、将来的に転職先の会社を退職して基本手当を受給することになる際には、前の会社の分も通算するためにハローワークに提出することになります。
きちんと保管しておきましょう。
退職・再就職を繰り返しても、要件を満たしていれば以前加入していた期間を通算できることを知っておけば、基本手当をもらうために転職時期を延ばす必要もないでしょう。
就職(転職)できるかどうかは知識やスキルだけでなく、タイミングも大きく影響します。目先の収入にとらわれず、希望する職に就けるタイミングを大切にしてください。
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html#a3
*2:ハローワーク「雇用保険の具体的な手続き/失業の認定」
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_procedure.html#a2
*3:厚生労働省「雇用保険制度 Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139508.html
*4:厚生労働省「失業等給付の受給資格を得るために必要な『被保険者期間』の算定方法が変わります」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000642296.pdf