「頭が痛い」「なんとなくだるい」など、気になる症状があったとき、まずはインターネットで調べる人が多いのではないでしょうか?
特に、仕事や家事で忙しい現役世代の人は、その傾向が強いと思います。
コロナ禍で、普段より体調の変化に敏感になっている人も多いでしょう。
現代では、インターネットやテレビによって、気軽に医療の情報を得られるようになりました。
しかし、全ての情報が正しいとは限りません。
なかには、医学的根拠のない怪しい情報もあります。
そこで必要なのが「ヘルスリテラシー」です。
正しい情報を見極め、自分自身の生活に取り入れることができれば、より健康的に過ごせます。
今回は、ヘルスリテラシーの重要性や向上させるコツなどを、現役看護師である筆者が解説します。
ヘルスリテラシーの低下が招いた事例も紹介しますので、ご自分の生活と照らし合わせながら読んでみてください。
1.ヘルスリテラシーとは?
ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する情報を知り、意思決定をしたり活用したりするものです。
ヘルス(健康)とリテラシー(読み書きの能力)から成る言葉で、リテラシーには知識・応用力・判断力という意味合いもあります。
ヘルスリテラシーは、以下の3つの要素で構成されています。
①機能的ヘルスリテラシー
読んだり聞いたりすることで、情報を得る能力のことです。
加齢に伴う視力・聴力の衰えによって、低下することもあります。
機能的ヘルスリテラシーが低くなると、パンフレットが読めなくなったり、医師の説明が聞き取れなくなったりします。
②伝達的ヘルスリテラシー
必要な情報を集めたり、その情報を人に伝えたりする能力です。
伝達的ヘルスリテラシーが高いと、自分の病気が分かったとき、積極的に情報収集できます。
また、周りの人に伝えて協力を得ることにもつながります。
③批判的ヘルスリテラシー
情報を鵜呑みにするのではなく、「本当に正しいのだろうか」と一歩引いた視点で考える能力です。
情報の正確性を判断したり、自分に合った情報を選択したりするときに必要となります。
ここで、日本のヘルスリテラシーに関する報道を紹介します。
2019年に朝日新聞デジタルでは、日本のヘルスリテラシーが海外に比べて低いというデータが取り上げられました。*1
ヘルスリテラシーが低いと、間違った情報に惑わされたり、適切な行動がとれなかったりします。
そのためヘルスリテラシーを高めることが大切ですが、具体的な理由は次の見出しで紹介します。
2.ヘルスリテラシーが大切な理由
ヘルスリテラシーが大切な理由は、主に4つあります。
①日常的にセルフケアができ、健康的な生活が送れる
健康は、日々の積み重ねで成り立っています。
日頃から健康を意識した行動ができれば、健康を維持できる可能性が高まります。
②科学的根拠のある情報に基づいて行動できる
世の中にはさまざまな情報が溢れており、なかには科学的根拠の乏しいものもあります。
しかし、ヘルスリテラシーを高めれば、正しい情報を選択し行動できます。
③正しい服薬や治療ができる
病状が改善したので、服薬や治療を中断してしまったという経験はありませんか?
自己判断で中断すると、病状が悪化する恐れがあるので、医師の指示に従うようにして下さい。
医師や看護師など専門家の意見を取り入れ、自分の生活をコントロールすることも、ヘルスリテラシーが関わっています。
④異常の早期発見ができる
早めの受診や定期的な健康診断は、病気を早期発見するために大切です。
会社員の方は年に1度健康診断を受けると思いますが、がん検診はどうでしょうか?
義務ではないため、受けない方もいると思います。
厚生労働省はがん検診を推進していますが、実際に受ける人は多くありません。
国立がん研究センターによると、がん検診受診率は年々上昇しているものの、多くても50%程度にとどまっています。*2
がんの初期は無症状で、気づいたときには手遅れの場合もあるため、がん検診で早いうちに見つけることが重要です。
ヘルスリテラシーが向上すれば、がん検診受診率も高くなると考えられます。

引用)国立がん研究センター がん情報サービス 「がん登録・統計 がん検診受診率」(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening.html)
3.ヘルスリテラシーの低さが招いた事例
ここで、私が看護師として見てきた事例や、私の周囲で起きた事例を紹介します。
事例をみることで、よりヘルスリテラシーの大切さが感じられると思います。
①独自の介護を続けて皮膚状態が悪化
寝たきりの母を、娘が自宅で介護していました。
娘は頑固でこだわりが強く、医師や介護従事者の話しをなかなか聞いてくれません。
背部の褥瘡(床ずれ)に、医師が処方した軟膏ではなく家にあった別の軟膏で処置をしたため悪化し、褥瘡の範囲が広がってしまいました。
②ダイエットサプリで体調を崩す
体型が気になり、インターネットでダイエットに効くというサプリメントを購入。
服用すると下痢になり、慌てて中断しました。
③肺炎をこじらせ入院
熱と咳があり、近くの病院を受診。
風邪と診断され薬をもらうも、なかなか良くなりません。
「おかしい」と思いながらも、再度受診するのが面倒で、内服を続けながら様子を見ました。
その後呼吸苦が出現、別の病院を受診したところ肺炎になっており、思っていた以上に状態が悪かったため入院することになりました。
上記の事例では、
・医師や介護従事者の話しを聞かず、自己判断した
・インターネットの情報を安易に信じた
・面倒で受診を怠った
ということにより、健康状態が悪化してしまいました。
どれも珍しいことではなく、振り返ると同じような経験をした人もいるのではないでしょうか。
4.ヘルスリテラシーを向上させる4つのポイント
ここまで、ヘルスリテラシーの大切さについて解説しました。
では、具体的にどのようにしたらヘルスリテラシーを高められるのでしょうか。
ポイントは、以下の4つです。
①医療に絶対はないと知る
「この治療を受けたら絶対に治る」「これを食べたら病気にならない」
このような謳い文句は魅力的ですが、医療に絶対はありません。
身体の構造と仕組みは同じでも、一人ひとり違う人間です。
治る人もいれば、治らない人もいます。
もし「絶対」という言葉を使って断言する情報があれば、少し距離をおいて冷静に判断しましょう。
②信頼できる情報かどうか見極める
情報を調べるときは、その情報を発信している人や団体に注意してください。
有名人や医師を起用することで、信頼できる情報であるように見せかけているものもあります。
基本的には、内閣府や厚生労働省などの官公庁、専門機関(国立がん研究センター、国立感染症研究所など)、大学、自治体などが出す情報を参考にしましょう。
他にも、
・情報の発信日が古すぎないか
・営利目的のサイトではないか(健康食品やサプリメント、健康器具など)
・メリットとデメリット両方を説明しているか(いいことばかり言っていないか)
という点も、ぜひチェックしてみてください。
③情報を鵜呑みにしない
情報を見つけたら、取り入れる前に「これは本当だろうか?」と考える癖をつけましょう。
医師が発信している情報は信頼性が高いと思われがちですが、異なる考え方から違うことを言っていることもあります。
情報はひとつだけでなく、さまざまな視点から調べて、そのなかから選ぶようにすると正確性が高まります。
④少しでも不安があれば受診して医師に確認する
気になる症状をいくらインターネットで調べたとしても、病気かそうでないかは医師が診察しなければ分かりません。
インターネットの情報を信じて、自己判断するのは危険です。
症状が長引いていたり不安があったりするときは、医師の診察を受けましょう。
5.まとめ
インターネットによって、医療・健康情報に簡単にアクセスできるようになりました。
しかし、手軽になったからこそ、情報の正確性を判断するスキルが必要です。
不安なときこそ、情報に惑わされやすくなります。
冷静に見極めるよう心がけ、上手に活用して健康的な生活に役立てましょう。
https://www.asahi.com/articles/SDI201905011824.html
*2参考)国立がん研究センター がん情報サービス 「がん登録・統計 がん検診受診率」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening.html

・プロフィール:フリーライター。看護師として病院や介護の現場で勤務後、子育てをきっかけにライターに転身。看護師の経験を活かし、主に医療や介護の分野において根拠に基づいた分かりやすい記事を執筆。