日本では、性や性差に関する話題を公で避ける風潮があります。そして更年期障害もまた、職場でタブー視されているもののひとつといえます。
しかし、更年期障害を理由に、仕事を辞めたりキャリアをあきらめたりしている女性が少なからず存在していることをご存じでしょうか。
女性の社会進出が叫ばれているにもかかわらず、日本では更年期障害など女性特有の症状に対する職場の理解が進んでいません。
一方で、女性自身が更年期障害に関する知識を十分に持っていないことも、大きな問題であると筆者は考えています。
例えば、女性が抱く更年期障害のイメージと、実際に体にあらわれる症状には多少のずれがあります*1。
また同じ調査では、体の不調に気付いていても病院を受診する女性は25%足らずであること、そして医療機関を受診しない女性の半数以上は、更年期障害に気付いても特に対処していないことも報告されています*1。
更年期障害のイメージと実際
右:更年期障害に該当すると思う症状
左:実際に経験した症状

引用)久光製薬「更年期障害意識調査レポート」*1
そこで今回は、更年期障害をもっとよく理解するために、更年期障害が女性の社会進出におよぼす影響と、更年期障害の症状を軽減するさまざまな方法を紹介します。
1.更年期障害で昇進辞退した経験のある女性は50%も!
ある調査によると、更年期障害で仕事を辞めた女性は約17%、昇進辞退した女性は50%にもおよびます*2。

引用)大塚製薬「更年期障害のキャリアへの影響」*2
昇進辞退した人や昇進辞退を検討したことがある人が非常に多いのは、管理職になる年齢と更年期の時期が重なりやすいことも一因でしょう。しかし、これは大きな社会的損失といえます。
一方で、職場では更年期障害が話題にあがることは少なく、更年期障害に悩む女性がいてもなかなか気付けないのが現実です。

PMS:月経前症候群
引用)大塚製薬「更年期障害のキャリアへの影響」*2
では、職場の理解が進めば、更年期障害で仕事を辞める女性や昇進辞退を考える女性が減るのでしょうか。必ずしもそうではないと、筆者は考えます。
更年期障害は、さまざまな方法で症状の軽減を図ることが可能です。しかし、更年期障害に気付いてもがまんしている人・「いずれ症状が出なくなるから」と何も対処しない人が非常に多くいます。
なかには、更年期障害が治療できることすら知らない人もいます*1。
社会や環境が変化しても、「更年期障害はがまんするもの」「治療する必要のないもの」という考えがある限り、女性の社会進出は叶わないでしょう。
とはいえ、いきなり更年期障害に対する考え方を変えるのは難しいものです。
そこで次の項では、更年期障害でキャリアを断念する必要がなくなるように、更年期障害の症状をやわらげる方法をいくつかご紹介します。
2.更年期障害をやわらげるさまざまな方法
更年期障害は、食事や運動を中心とした生活習慣の見直し、サプリメントや市販薬などで症状をやわらげることが可能です。また、医療機関で治療することもできます。
医療機関を受診する場合は婦人科がおすすめですが、婦人科が身近にない場合はかかりつけの内科などでまず相談してみましょう。
(1) 食事
食事は、和食を中心とした栄養バランスの良いメニューがおすすめです。特に積極的に摂取したいのが、大豆製品です。大豆には、女性ホルモンと似た働きをする大豆イソフラボンのほか、食物繊維やオリゴ糖、カルシウムなどが豊富に含まれています。
ただし、大豆製品だけを摂取すればよいというわけではありません。たんぱく質を豊富に含む魚・ビタミン類を多く含む野菜や果物・骨の元となるカルシウムを含む乳製品などもバランスよく食べるようにしてください。
(2) 運動
ウォーキングや水中歩行、ヨガなどの有酸素運動が、更年期障害の症状軽減に役立つことがわかっています*3。
できれば1日30~60分程度、週3~4回くらいの頻度で運動しましょう。
とはいえ、無理をする必要はありません。大切なのは、続けることです。運動する習慣のない人は、少しずつ時間や頻度を増やすようにしましょう。
(3) サプリメント
更年期障害改善効果が期待される成分として注目されているのが、大豆イソフラボン由来の“エクオール”です。エクオールは女性ホルモンと似た働きをする成分で、更年期障害の改善効果が報告されています。
(4) 市販薬
市販薬では、漢方薬がよく利用されます。漢方薬は、体質や症状(冷えがある・ほてりが強いなど)により選ぶべき薬が変わります。
また、更年期の女性を対象とした市販薬の中には、商品名がカタカナでも漢方の処方が元となっているものも数多くあります。
迷ったら薬剤師や登録販売者に相談しましょう。
(5) 医療機関での治療
医療機関では、ホルモンを補う治療・漢方薬による治療・メンタル面をサポートする治療などが受けられます。
ホルモンを補う治療(ホルモン補充療法)では、急激に減少するホルモンを補って更年期障害の症状をおさえます。
閉経後の期間・出血を望むか否か・子宮の有無などによって使う薬や投与パターンが変わってきます。
なお、ホルモン補充療法は更年期障害の改善効果が高く、治療を受けた人の8割近くが効果を実感しています。

引用)久光製薬「更年期障害意識調査レポート」*1
体質改善をねらって、漢方薬が処方されることもあります。
漢方薬は、他の治療法と併用されることも少なくありません。また、複数の漢方薬が処方されることもあります。
一般的に効果を実感するまでに時間がかかるため、継続的に服用することが大切です。
その他、気分の落ち込みや不安感など、メンタル面での不調をサポートする薬が処方されることもあります。眠気が強くあらわれる薬もあるため、ライフパターンや業務内容などを医師にしっかり伝え、仕事に悪影響をおよぼさない薬を処方してもらうようにしましょう。
3.つらい場合は医療機関を受診して!更年期障害は治療できる病気です
更年期は、女性であればだれもが経験するものです。
また、更年期障害は多かれ少なかれあらわれるもので、けっして恥ずかしいことではありません。
生活習慣の改善や市販薬などの使用で症状の改善が見られない場合は、積極的に医療機関を受診して適切な治療を受けましょう。
更年期障害を理由に、仕事やキャリアをあきらめてしまうのは残念なことです。
社会や環境が変わるのを待つのではなく、まず女性の方から積極的に更年期障害に対する意識を変えていきましょう。
そして更年期障害とうまく付き合い、仕事を目いっぱい楽しみましょう。

プロフィール:公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。