新規顧客開拓というと、顧客名簿をもとに片っ端からダイレクトメールや電話をするというイメージがあります。
たくさん数をこなしていれば、そのうちいくつかは結果につながるでしょう。
ただ、スピードや生産性が求められる時代において、そのようなことをしていたのでは、競争に勝ち残ることはできません。
素早く効率的に結果を出すためには、どうすればいいのでしょうか。
1.なぜビジネスで「確率」なのか
不確実な時代やビッグデータの時代と言われる今、ビジネスの世界では確率を積極的に活用しようという動きが出てきています。
先が読みづらい時代だからこそ、確率によって選択肢を評価し、有利な判断をしていくことが重要になってきます。
私たちの身の回りにおいても多くの人は、なんだか雨が降りそうだという時には、降水確率をチェックして傘を持っていくかどうかを決めるでしょう。
ビジネスにおいても確率は、よりスムーズで正確な意思決定に役立ちます。
例えば、天気や気温の予測によって、客足や売上を予測することができ、事前の人員配置や仕入れに役立てることができます。
また、ダイレクトメールの開封率をチェックすれば、顧客が商品やサービスを購入してくれそうな確率を見積もれます。
他にも、製品の故障率を把握しておけば、必要なサポート体制を整えておくことも可能です。
膨大なデータを活用して確率を計算し、行動に反映していくというのは、新たな時代のビジネススキルと言えるでしょう。
確率の考え方は、マーケティングにも応用されます。
消費者に商品やサービスを購入してもらうためには、まずその商品やサービスを認知してもらう必要があります。
認知率、配荷率(購入可能な割合)、過去に似たような商品、サービスを購入した割合などといったことから計算していけば、売上目標を達成するためにはどれくらいの人に認知してもらう必要があるのかを割り出せます。
このような確率思考を駆使して大きな成功を収めた例が、関西のテーマパークであるUSJです。*1
確率というと、どこかギャンブルのように感じてしまうという人も多いかもしれません。
しかしUSJの例を見ても、決してギャンブル的なことをしているわけではなく、データや数式を駆使して、うまくいく方法を効率よく探し出すというものです。
今や多くの企業が、人工知能や膨大なデータを活用し、自動翻訳や画像処理、ECサイトのレコメンド機能の強化など予測精度の向上に力を入れるようになってきています。
これからの時代の意思決定に、確率は欠かせないものとなっていくでしょう。
2.直感では正しく判断できないこともある
確率を事前に正しく見積もることができれば、有利な選択肢を見つけることが可能です。
気をつけなければいけないのが、直感に基づいて判断してしまうと、確率の見積もりを誤ってしまうことがあるということです。
そのことが分かるのが、「モンティ・ホール問題」と呼ばれるものです。
モンティ・ホール問題は、アメリカの人気クイズ番組がもとになっています。
カーテンで仕切られた3つの部屋のうちのどれかに景品が入っていて、それを当てるというゲームです。
まず挑戦者は、どれか1つの部屋を選びます。
ここでは仮に、A、B、Cの3つの部屋のうち、Aが選ばれたとしましょう。
この状態では、当たる確率は3分の1です。
次に、どこに当たりが入っているのかを知っている司会者は、挑戦者が選ばなかった2つの部屋のうちの一方を開けます。
ここでは、Bの部屋が開けられたとしましょう。
さらに続いて司会者は、挑戦者に対して今なら選択を変えてもいいと告げます。
「挑戦者は、選択を変えるべきか?それとも、そのままにすべきか?」というのが、大きな議論を巻き起こした問題です。
確率のことをよく知らない人であれば、残り2つから選ぶのだから、当たる確率も2分の1だと考えてしまいます。
しかし実際には、変更した方が当たる確率は3分の2に跳ね上がります。
変更した方が当たる確率は2倍に跳ね上がるというのは直感的には理解しがたいものがあり、多くの人はここで混乱してしまいます。
どこに景品が入っているのかを知っている司会者は、選ばれたAの部屋と景品が入っている部屋のカーテンを開けません。
挑戦者がAの部屋を選んだという前提で、確率を場合分けして図解してみると、以下のようになります。
挑戦者がAの部屋を選んだ段階では、合計で4つのパターンが考えられます。
その後、Bの部屋が開けられたことによって、Cの部屋が司会者によって開けられる可能性は消滅します。
これにより、図解で色づけされた部分が残ることになります。
確率は、足し合わせて1になることから、上記の6分の1と3分の1を調整すると、3分の1と3分の2になります。(単純に図形の面積の比からも、Cを選んだ方が確率が2倍になるということが分かります。)
私たちは直感による判断が正しいと信じてしまいがちですが、いつでもそうとは限らないので注意が必要です。
3.思い込みによって確率の評価が歪められることもある
感覚的に確率を評価して間違った判断を下してしまう例は、モンティ・ホール問題だけではありません。
一見すると正しいように見えても、実は間違っているということもあります。
無意識による「思い込み」によって確率の判断が歪められてしまうケースというのも、身近にあります。
その例の一つが、「ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)」と呼ばれているものです。
もし、コインを投げて勝負しているときに、表が連続して5回でたとしましょう。
ここで「表はすでに5回連続で出たのだから、次は裏が出そうだな」と考えてしまうのが、典型的なギャンブラーの誤謬のパターンです。
このように「同じものが連続して起こるはずがない」という思い込みによって、間違った考えをしてしまうわけです。*2
実際には、同じものが何度も出ることは、確率が低いながらもあり得ることです。
また、コインの裏、表が出る確率は何度やっても2分の1であり、それまでに何度表(もしくは裏)が出たのかは影響しません。
他にも、過去の経験によって、確率の見積もりを間違ってしまうケースというのもあります。
例えば、宝くじの番号でも、ゾロ目の「1111111」よりも「8734961」の方が当たりやすいと感じてしまいます。
人間の脳は、過去に多く経験している出来事の発生確率を高く見積もる傾向があるとされています。
発生確率は同じだと頭では分かっていても、「ゾロ目は簡単に発生するものではない」という無意識の思い込みが判断を歪めてしまうのです。*2
このような無意識にやってしまっている思い込みに気づくことで、確率を正しく評価できるようになります。
4.確率を使った営業やマーケティング
自分の思い込みに振り回されることなく確率を使えるようになれば、効率よく成功を手に入れるための強力なツールになります。
とりわけ新規顧客開拓においては、契約獲得よりも断られてしまう件数の方が圧倒的に多いものです。
契約してもらえそうな顧客を素早く見つけ出し、いかに効率よくアプローチをかけていくかが重要になってくるでしょう。
そこで注目したいのが、ベイズ統計です。
従来の統計では、推測するためには多くのデータを必要とします。
それに対しベイズ統計では、事前に決めた確率をデータが得られるたびに更新していくことで、少ないデータでも推測を行うことが可能です。
ベイズ統計の強みは、「データが少なくても推測でき、データが多くなるほど正確になる」という性質と、「入ってくる情報に瞬時に反応して、自動的に推測をアップデートする」という学習機能にあるとされています。*3
身近な利用例が、迷惑メールフィルターです。
最初のうちは、迷惑メールフィルターは、迷惑メールを除去しきれなかったり、必要なメールを迷惑メールに分類してしまったりします。
しかし、間違いながらも学習を積み重ねていくことで、ほとんど間違うことなく正確に分類できるようになってきます。
最近では、迷惑メールの判定だけでなく、各種のデータから営業の成約率を予測したり、過去の商品の購入履歴からお勧め商品を提示するといったことにも使われるようになってきています。
ベイズ統計は、人工知能の機械学習の理解になくてはならないものです。
人工知能の活用によって営業やマーケティングを効率化できれば、生産性も上げることができるでしょう。
とにかくがむしゃらに努力するというだけでは、結果が出るまでに時間がかかってしまうことが多いものです。
確率思考を取り入れて、成功確率の高い選択肢を効率よく見つけ出すということを意識されてみてはいかがでしょうか。
*2 参考)「知識ゼロからの行動経済学入門」川西諭著 P88,89,94,95
*3 参考)「完全独習ベイズ統計学入門」小島寛之著 P6