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物忘れがひどい時に 認知症になる前にチェックしたい生活習慣を産業医が詳しく解説

  

「人や物の名前がなかなか出てこない」

「買うはずの物を忘れてしまう」

「ついさっきまで覚えていた用事をど忘れしてしまう」

など、歳を重ねると日常的に現れるのが「物忘れ」の症状です。

誰にでもあることですが、その中には認知症による物忘れが潜んでいることがあります。

 

「私のこの物忘れは、もしかして認知症の始まりではないか?」

とお悩みの方に向けて、年齢に伴う単なる物忘れと認知症についてそれぞれの特徴や物忘れと認知症との違い・対策について、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医の本間さんに、わかりやすく解説してもらいました。

 

 

1.物忘れと認知症の違い

 

単なる物忘れのことを、加齢による生理的健忘(けんぼう)と呼びます*1_p8

加齢による生理的健忘には、以下のような特徴があります。

 

  • 物忘れの自覚がある
  • 体験の一部を忘れてしまう(例;朝ご飯のメニューを忘れる)。
  • 思い出したいことがすぐに思い出せない(例;テレビで見た有名人の名前が思い出せない*2
  • 新しいことを覚えるのが困難だが、覚えること自体はできる*2
  • 見当識(けんとうしき:現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況を把握する能力*3)は保たれている
  • 日常生活に支障をきたすことが少ない

  

(1) 認知症による物忘れの特徴

 物忘れは、認知症の症状としても非常に有名です。ここでは、認知症の物忘れに特徴的な症状をいくつかご紹介いたします。

 

  • 物忘れしたこと自体を忘れる
  • 体験したこと自体を忘れてしまう(例;朝ご飯を食べたことを覚えていない)
  • 日常生活に支障をきたすような内容を忘れる(例;毎日通勤している道や自分の家がわからなくなる、大事な仕事の約束を忘れる)
  • 見当識障害が出る

  

(2) 加齢による単なる物忘れと認知症との違い

物忘れと認知症との違い

引用:*1 一般社団法人日本神経学会 認知症疾患診療ガイドライン2017 p9

 

 

では、加齢による単なる物忘れと認知症は、具体的にどこが異なるのでしょうか?

最も大きな違いは、単なる物忘れは「忘れたことを覚えている」のに対し、認知症による物忘れは「物忘れをしたこと自体を忘れてしまう」ことにあります。

 

 

2.本間先生による認知症について説明

 

認知症とは

「さまざまな原因で脳の細胞が死ぬ、または働きが悪くなることによって、記憶・判断力の障害などが起こり、意識障害はないものの社会生活や対人関係に支障が出ている状態(およそ6か月以上継続)*3

症状をいいます。

 

認知症では物忘れや見当識障害、実行機能障害(物事を計画して準備を行い、手順通りに実行する力)、理解力や判断力の低下(中核症状)に加え、暴言や暴力がみられたり、気力がなくなったりなどの性格、人格の変化や妄想(行動・心理症状)がみられることがあります*2

 

実行機能障害は、特に女性の場合、料理ができなくなることで発覚することが多くなっています。

料理は、複数の工程を順番通りに同時に進める能力が必要です。実行機能障害があると、これまで何十年も作り続けてきたメニューが作れなくなり、単純な工程でできる限られたメニューしか作れなくなります。

 

(1) 認知症をきたす主な病気*4

 認知症という呼び名はあくまで症状に対するものであり、原因となっている主な病気には下のようなものがあります。

 

 アルツハイマー型認知症

 認知症の原因となる病気のうち、最も多いのがアルツハイマー型認知症です。脳の中にアミロイドβという異常なタンパク質がたまることによって神経細胞が壊れ、脳に萎縮が起こります。

 

記憶障害(もの忘れ)から始まる場合が多いのが特徴です。他の主な症状としては、段取りが立てられない、気候に合った服が選べない、薬の管理ができないなどが挙げられます。

 

脳血管性認知症

脳梗塞や脳出血、脳動脈硬化などによって神経細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、神経細胞が死んだり神経のネットワークが壊れたりする病気です。高血圧や糖尿病などの生活習慣病がベースにあることがほとんどです。

 

脳血管障害を生じた部位によって症状が異なります。障害が起こるたびに症状が段階的に進行していきます。記憶障害や言語障害などが現れやすく、アルツハイマー型認知症と比べると、比較的早い段階から歩行障害も出やすいのが特徴の一つです。

 

レビー小体病

 脳内にレビー小体という特殊なタンパク質がたまることによって神経細胞が壊れることによって起こる病気です。他の認知症に比べ幻視(げんし:現実にないものが見える)が多いのが特徴で、筋肉のこわばり(パーキンソン症状)などを伴います。

  

前側頭型認知症*5

 脳の一部分である前頭葉や側頭葉に集中して萎縮が見られる病気です。

前頭葉は「人格・社会性・言語」を、側頭葉は「記憶・聴覚・言語」を主に司る部位であり、他の認知症にはない特徴的な症状が現れます。

例えば会話中に突然立ち去る、万引きをするなどの社交性の欠如、相手に対して遠慮がなくなる、暴力を振るうなどの脱抑制や性格変化が目立ちます。

そのほか同じ行為を繰り返す、感情が鈍くなる、自発性の低下などが出現します。

 

アルコール多飲

 アルコール多飲は明らかに認知症の原因となることがわかっています。

長期間大量にお酒を飲み続けると、血液中のビタミンB1が欠乏します。

その結果、ウェルニッケ・コルサコフ症候群(Wernicke-Korsakoff Syndrome)を発症します。

この際には脳内で急速に神経細胞障害が生じており、急性期にはけいれんや意識障害から死に至ることがあります。

 

慢性期には認知症をきたす病気です。

 

治療で治る認知症もある

 例えば慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症、橋本病など、適切な治療によって治る認知症もあります。

 

 

(2) 認知症の人はどれくらいいるのか

 65歳以上の認知症高齢者数と有病率の将来推計についてみると、2012年は認知症高齢者数462万人と、65歳以上の高齢者の約7人に1(有病率15.0%)でしたが、2025年には、約5人に1人になるとの推計もあります*6_p19

 

 

3.認知症を防ぐ方法をご紹介

 

現在、認知症の前段階にあたる軽度認知障害(MCIMild Cognitive Impairment)が注目されています。

MCIとは、年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない物忘れがあり、本人や家族から物忘れの訴えがあるものの、日常生活に支障がない状態のことを言います。

 

MCIは正常と認知症の中間の状態とされており、年間で1030%MCIから認知症に進行します*8

ちなみに正常な方からは、年12%が認知症を発症しますので、MCIの認知症移行率が非常に高いことがわかります。

また、MCIから正常の状態に回復する人も多いので、いかにMCIを早く見つけ、早く対処するかが重要となります。

 

 

(1) 認知症を防ぐために普段の生活でできること

 できれば認知症にはなりたくないと誰もが考えています。ここでは、普段の生活の中で認知症を防ぐためにできることをまとめました。

 

 

(2) 認知症チェックリストで自分や家族の現状を知る

 東京都福祉保健局*9をはじめ、ネットには自分でできる認知症のチェックリストがたくさん出ています。

 

このようなものを上手に利用し、自分の物忘れが病的なものかどうか、また以前よりも進行が見られないかどうかを定期的に確認しておきましょう。

 

認知症が疑わしい場合は早めの受診をしてください

 「認知症かな?」と思ったら、早めに専門医を受診してみましょう。症状が軽い段階のうちに認知症であることに気づき、適切な治療が受けられれば、薬で認知症の進行を遅らせたり、場合によっては症状を改善したりすることもできます。

 

 (3) 生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)に気をつける

 認知症の大部分を占めるアルツハイマー型や脳血管性認知症は、生活習慣病(高血圧、糖尿病、高脂血症など)との関連があることがわかっています*3

 

生活習慣病を適切に管理するためには、以下のようなことに気をつけると良いでしょう。

 

  • バランスの良い食事を1日3回規則的に摂る
  • 食事は腹八分目を目安とする
  • 野菜・果物・魚介類を積極的に摂る
  • 定期的な運動習慣を身につける
  • 内服薬は忘れずにきちんと飲む

 

(4) 認知症を予防するために、毎日できることから始めましょう。

 以上、単なる物忘れと認知症の違いを簡単に解説し、日常生活で手軽にできる認知症の予防方法についてお話ししました。

簡単にできることで、将来の認知症の危険を減らすことが可能です。早速今日から、今できることを少しずつ始めましょう。

 

 

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