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40歳代、社会人人生ど真ん中における「起業」という選択肢

40歳代、社会人人生ど真ん中における「起」という選択肢

孔子の言葉にこのようなものがあります。

孔子の言葉 意味

吾十五にして学に志す。

私は十五歳のとき学問に志を立てた。
三十にして立つ。 三十歳になって、その基礎ができて自立できるようになった。
四十にして惑わず。 四十歳になると、心に迷うことがなくなった。
五十にして天命を知る。 五十歳になって、天が自分に与えた使命が自覚できた。
六十にして耳順(したが)う。

六十歳になると、人の言うことがなんでも素直に理解できるようになった。

七十にして心の欲する所に従えどものりをこえず。

七十歳になると、自分のしたいと思うことをそのままやっても、人の道を踏み外すことがなくなった。

 

新卒採用から20年、人生の半分を社会人として過ごしてきたことになる40歳代。職場内での地位も確立され、若手に対して責任ある言動・行動をとる立場にいることでしょう。

 

孔子の言葉でいうところの「四十歳になると、心に迷うことがなくなった。」という状態でしょうか。

 

しかし現代の社会人の場合、定年退職までの約20年をこのまま労働者として過ごすのか、はたまた一念発起し、起業の道を選ぶのか、ちょうど過渡期ともいえる年代となっています。

 

そこで今回は、40歳代の「このまま会社に属し続けるのか」という悩ましい問題に対して

「起業」をすることの、実際に必要な準備(資格や許認可、自己資金と融資、その他)をご紹介します。

今後のキャリアを決める一助となれば幸いです。

 

1.40歳代、社会人人生ど真ん中における「起業」という選択肢

 

図1をご覧ください。これは「男女別に見た起業家の年齢構成の推移」です。過去10年で比較してみると、40歳~49歳の起業家の割合だけが、男女とも順当に高まっています。なお、『ここでいう「起業家」とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職についた者のうち、現在は「会社等の役員」または「自営業主」と回答し、かつ「自分で事業を起こした」と回答した者をいう。なお、副業としての起業家は含まれていない』*1とされているため、副業での起業(ダブルワーク)を含めると、さらに多くの起業家が存在すると思われます。

 

男女別に見た、起業家の年齢構成の推移

図1:中小企業庁「小規模企業白書2019 フリーランス・副業による起業」p78より「男女別に見た、起業家の年齢構成の推移」(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/shokibo/04sHakusho_part2_chap2_web.pdf)

 

 

また、図2「男女別に見た起業の担い手の推移(49歳以下)」を見ると、起業希望者の割合は減少しているものの、起業準備者と起業家の割合は、過去5年でほぼ横ばいとなっています。これは、潜在的な起業家が一定数存在することを裏付けています。

気力、体力、経験値、すべてが充実している40歳代こそ「起業適齢期」と言えるのではないでしょうか。

 

 

男女別に見た、起業の担い手の推移(49歳以下)

図2:中小企業庁「小規模企業白書2019 フリーランス・副業による起業」p79より「男女別に見た、起業の担い手の推移(49歳以下)」(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/shokibo/04sHakusho_part2_chap2_web.pdf)

 

 

2.40歳代が起業適齢期のワケ

 

では実際に、40歳代が起業の適齢期と言えるかどうかを検証してみましょう。

3は「開業時の年齢」のグラフです。直近20年の平均年齢の推移では、40.9歳~43.5での開業となっています。また2019年の開業時の年齢は、40歳代が最高の36.0で、次いで30歳代の33.4%となっています。年々、開業時の平均年齢が高くなっていますが、ここ数年で40歳代の開業が30歳代を逆転し、起業の主要な担い手として位置づけられています。

 

 

開業時の年齢

図3:日本政策金融公庫「2019年度新規開業実態調査」P2「開業時の年齢」(https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_191122_1.pdf)

 

 

起業の際、重要かつ重大な準備事項の一つに「開業費用」の問題があります。図4「開業費用と資金調達」を見ると、開業費用は500万円未満の割合が最も高く40.1%)、2019年度は直近約30年間で最も高い割合となりました。つまり、開業にかかるコストは年々低下しているということです。それでも平均1,055万円(調査開始以来過去最低額)という金額を使って開業するためには、ある程度の自己資金は必要です。自身の給与や職場環境に余裕が出てくる40歳代だからこそ、可能な起業の準備と言えるでしょう。

 

 

開業費用と資金調達

図4:日本政策金融公庫「2019年度新規開業実態調査」p9「開業費用と資金調達」(https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_191122_1.pdf)

 

 

とは言うものの、開業にかかる資金の調達先のトップは「金融機関等からの借入」で68.4%、次いで「自己資金」が21.2%で、この二つの調達方法で全体の約90%を占めています(図5)。

 

 

資金調達額(平均)

図5:日本政策金融公庫「2019年度新規開業実態調査」p10「資金調達額(平均)」(https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_191122_1.pdf)

 

 

開業にかかる費用が減少している理由の一つは、固定費となる地代・家賃がマストではない業種が増えてきていることが挙げられます。自宅兼事務所として開業することで、初期費用を大幅に抑えることもできますし、安価なシェアオフィスやコワーキングスペースを借りることも一つの方法です。また、法人登記の目的のみで格安に契約ができるバーチャルオフィスも人気です。

 

ITWeb業界の場合、自宅でも十分仕事はできますが、法人設立が禁止されている賃貸物件に居住していると自宅での登記はできません。そんな時、バーチャルオフィスを利用しての法人登記が可能です。さらに、郵便物や電話の転送サービスがあったり、コンシェルジュサービスが利用できたりと、通信費や人件費まで抑えられるサービスもあります(契約内容により異なります)。

 

このように、場所や形にこだわらない「イマドキの仕事のしかた」もあっての開業費用の減少もありますが、やはり、自己資金として開業資金全体の30%程度は準備をしておきたいものです。なぜなら、開業資金のなかには「設備投資(起業に必要な経費)」と「運転資金」の2種類の資金があるからです。設備投資だけでは起業はできません。開業後の運転資金もある程度の準備が必要です。

さらに、自分や家族の生活費も頭に入れておかなければなりません。つまり、金融機関等での借入が希望する額(満額)ではなかった場合のことも考え、ある程度の自己資金は準備しておきましょう。

 

資金調達の代表的なもの

日本政策金融公庫の新創業融資制度:https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/04_shinsogyo_m.html

都道府県・市区町村など自治体の制度融資、創業を支援する各種保証制度(信用保証協会)

http://www.zenshinhoren.or.jp/model-case/sogyo.html

商工会議所の小規模事業者経営改善資金融資制度

https://www.jcci.or.jp/sme/marukei/

民間金融機関からの借入、ベンチャーキャピタル(VC)、クラウドファンディングなどがあります。

 

そして、金融機関等から融資を受ける際は、必ず「審査」があります。起業する中身(業種)にもよりますが、これまでのキャリアを生かした起業をする場合、勤務年数やその業務にどのくらい従事していたかが重要なポイントになります。これまでに転職をしていたとしても、ある程度の勤続年数は確保できるであろう40歳代は、まさに「起業適齢期」と言えるでしょう。

 

次に、年齢別での起業分野を見てみましょう(図6)。

40歳代で最も高い割合を占めるのは「学術研究、専門:技術サービス業」で16.9%です。ここには士業関係が含まれるため、働きながら資格取得の勉強をし、士業者として開業するケースも考えられます。続いて「建設業」で15.2%です。やはり現場での業務はキャリアが最も重要ですし、なにより建設業は「人と人とのつながり」で成り立っている業界です。ある程度の実務経験と信頼関係が構築できる40歳代が妥当な年齢なのでしょう。

 

 

年齢別に見た起業家の起業分野(2017年)

図6:中小企業庁「小規模企業白書2019 フリーランス・副業による起業」p85「年齢別に見た起業家の起業分野(2017年)」(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/shokibo/04sHakusho_part2_chap2_web.pdf)

 

 

3.起業をためらう理由は?

 

では、起業を考えているのに起業に踏み切れない理由があるとすると、どのようなものがあるのでしょうか。図7によると、40歳~60歳未満の男性の48%を占める理由は「病気・けがのため」でした。40歳未満(男性)だと「知識・能力に自信がない」21.1%、同女性だと「出産・育児のため」57.7%となっています。女性に関しては、出産・育児がひと段落ついた40歳代からが、第二の社会人人生のスタートと言えるでしょう。

 

60歳以上を見ると、男女ともに「高齢のため」という理由の割合が突然増えています。年齢は誰もが平等に重ねるものですので、自分自身で「高齢だから無理」と感じてしまう前に起業に踏み切れると、選択肢をフルに保ったまま進んで行けるのかもしれません。

 

 

男女別に見た起業希望者(無業者)が開業準備をしていない理由

図7:中小企業庁「小規模企業白書2019 フリーランス・副業による起業」p82「男女別に見た起業希望者(無業者)が開業準備をしていない理由(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/shokibo/04sHakusho_part2_chap2_web.pdf)

 

 

4.働き方改革が起業を後押し

 

日本政策金融公庫総合研究所は、1週間当たりの事業に充てる時間を基準とし、35時間以上を「起業家」、35時間未満を「パートタイム起業家」として、起業に関する調査*2を行っています。この基準でいう「起業家」の66.4は、勤務を辞めてから事業を始めています。しかし「パートタイム起業家」は、実に52.7勤務をしながら起業したと答えています*3。つまり、方法としては「ダブルワーク(副業)」の形を取りながらの起業も可能なのです。

 

これに関しては、20194月より順次スタートしている、働き方改革の一環として「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の中で、「副業・兼業は、社会全体としてみれば、オープンイノベーションや起業の手段としても有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資する面もあると考えられる」*4との見解が示されています。

 

さらに、女性にとって朗報があります。経済産業省は、地域の金融機関や産業・創業支援機関等を中心とした「女性起業家等支援ネットワーク」を全国10箇所に形成し、女性の起業を支援する体制を整備しています*5。女性ならではの起業課題・多種多様な起業目的に即した支援が行えるよう、キャリアカウンセリングや子育て支援のノウハウを持つ支援者、地域のNPOや教育機関等との連携し、一気通貫型の支援の実現を目指しています*6

 

起業するのに遅すぎるということはありません。その年齢に合った業種、職種、起業のしかたがあるはずです。また、完全に独立開業の「起業」ではなく、別の収入源も確保した状態での「パートタイム起業」という、新たな起業の方向性も視野にいれておくことで、自分がやりたいことへの挑戦、すなわち、自己実現の追求にもつながるでしょう。

 

参照データ
*1中小企業庁「小規模企業白書2019」p78第2-2-4図(注)より引用
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/shokibo/04sHakusho_part2_chap2_web.pdf
*2参照:日本政策金融公庫「2019年度起業と起業意識に関する調査」p1
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_191223_1.pdf
*3引用:日本政策金融公庫「2019年度起業と起業意識に関する調査」p8 図-15「開業時の勤務状況」より
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_191223_1.pdf
*4引用;厚生労働省/政策について「副業・兼業の促進に関するガイドライン」p2(2)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf
*5参照:経済産業省/女性起業家等支援ネットワーク構築事業
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/joseikigyouka/index.html
*6参考:経済産業省/女性起業家等支援ネットワーク構築事業「平成30年度女性起業家等支援ネットワーク構築事業活動報告書」p8
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/joseikigyouka/pdf/30houkokusyo.pdf
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執筆者 浦辺

早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。

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