近年、キャリア教育の重要性が叫ばれるようになり、学校でもキャリアについて教える授業が増えてきています。
一方で、すでに社会人になった人は、自分のキャリアについて考える機会といういうのは、それほど多くはありません。
若い頃には「やりたいことがハッキリしない」、「自分は、何に向いているのか分からない」といった悩みをお持ちだった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ただ、ある程度の人生経験を積んでくると、自分の価値観やアイデンティティといった方向性が見えてきます。
そのため、40代は若い世代とは異なるキャリアプランの考え方が必要になってきます。
そこで今回、40代を対象としてキャリアプランの考え方を紹介いたします。
1.40代は果たす役割が大きい
40代ともなると、それなりの知識や経験を積み、職場での信頼も厚くなります。
一方で、子供の進学のことや、親の介護のことなど、対処しなければらない課題もあり、自分のことばかりも考えていられません。
会社や組織の一員としての役割もありますが、子供の進学については、親としての役割があり、自分の親の介護については、息子・娘としての役割があります。
キャリアというと、どうしても仕事というイメージを持ちがちです。
それに対して、人生で果たす役割という視点で、キャリアを大きくとらえたのが、ドナルド・スーパーのキャリア理論です。
スーパーによると、人が人生の中で果たす役割は、「①子供、②学生、③余暇人(余暇を楽しむ人)、④市民(地域活動など地域への貢献の役割)、⑤労働者、⑥配偶者(妻・夫)、⑦家庭人(自分の家庭を維持管理する)、⑧親、⑨年金生活者」があります。*1
人は時や場所によって、これらの役割を演じ分けていると考え、それぞれの役割のバランスをいかにうまくとれるようにするのかが、スーパーのキャリア理論です。
例えば、労働者としての役割に全ての力を注いでしまうと、配偶者や家庭人、親としての役割を果たすことが難しくなってしまい、家庭内でのトラブルの原因になってしまいます。
また、退職して労働者としての役割が無くなった時のことを考え、どんな役割があるのかを今から考え準備することで、退職後に燃え尽きた状態で止まってしまわずに、スムーズに次の役割に移ることができます。
このように、その時点における役割のバランスを調節したり、これから先にどのような役割の変化があるのかを考えたりということが重要になってきます。
ですので、それぞれの役割のバランスをチェックし、うまくいくように調節できるように、まずはそれぞれの役割を表形式にして書き出してみるといいでしょう。
役割 | 現在 | 10年後 | 20年後 |
子供 | |||
学生 | |||
余暇人 | |||
市民 | |||
労働者 | |||
配偶者 | |||
家庭人 | |||
親 | |||
年金生活者 | |||
合計 | 100 | 100 | 100 |
上記の表のように役割全体を100と考えて、どの役割にどれだけ時間と労力を配分するのかを考えます。
それぞれの役割について、現在、10年後、20年後にどのような変化があるのかを考えていけば、これからどのような準備を進めていけばいいのかということも見えてきます。
2.満足のいくキャリア選択に大事なこと
成長を取るのか、安定を取るのかは、キャリア選択の大きな分かれ目です。
とりわけ40代ともなると、後悔することにならないだろうかという不安や、新しいことにチャレンジして、うまくやっていけるのかという疑問も出てきます。
そのような中で役立つのが、キャリア理論家のホールが提唱するプロティアン・キャリアと呼ばれるものです。
プロティアンとは、ギリシャ神話に登場する自在に変身する能力を持つプロテウスが由来であり、変幻自在であることを意味します。
プロティアン・キャリアと従来のキャリアの違いとは、何でしょうか?
それを比較したものが、以下の表です。
これを見ると、プロティアン・キャリアが、いかに組織に縛られないものであるかがわかります。
キャリアというと、どうしても組織内での出世をイメージしがちです。
しかし、ホールの理論によれば、「キャリアにおける成功や失敗はキャリアを歩んいる本人によって評価されるのであって、研究者・雇用主・配偶者・友人といった他者によって評価されるわけではない。」とあり、キャリアの主体はあくまで個人であることが述べられています。*2
プロティアン・キャリアには、アイデンティティとアダプタビリティという二つの軸があります。*3
アイデンティティについては、自分の価値観、能力、興味に気づくことができれば、適切なキャリアプランを選択することができます。
これがわかっていないと、ただ変化に自分を合わせるだけの状態になってしまい、心理的な成功を体験することができなくなってしまいます。
また、アダプタビリティとは、適応性という意味ですが、これには能力だけでなく、適応していこうというモチベーションも含まれています。
適応するための能力とモチベーションがそろっていることが重要であり、どちらか片方がゼロの状態だと、アダプタビリティもゼロの状態になってしまいます。
満足のいくキャリア選択のためには、まずアイデンティティをはっきりさせること、そして、アダプタビリティを高めることが重要になってきます。
3.これまでの自分の人生を振り返ってみる
自分の価値観やアイデンティティをはっきりさせるといっても、少し難しく感じる方もいらっしゃるかもしれません。
そこで、簡単にできる方法として、ライフラインチャートをご紹介します。
これは、横軸に年齢、縦軸に幸福度をとり、何歳のときに、どれくらい幸福を感じていたのかを、感覚的にグラフにして描き入れていくものです。
企業でも研修で使われることも多く、もしかしたらやったことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。
軸の描き方や目盛りの取り方には、特に決まりはありません。
上記の図はあくまで一例であり、このように軸を取れば、幸福を感じていた時とそうでなかった時の区別がしやすくなります。
人によって、どのやり方が一番しっくりくるのかは異なるので、自分に合った方法で、ライフラインチャートを描いてみましょう。
幸福感が高くなっているところが価値観が満たされているところであり、どんな共通点があるのかを調べれば、自分の価値観が見えてきます。
4.さまざまな選択肢を書き出して検討する
選択肢として考えられるものは、たくさんあります。今の組織に残りながら、さらにキャリアアップを目指すということや、転職、副業、起業といったことも考えられます。
さらに、それぞれの選択肢について、収入や安定性はどうかや、自分のスキルでどこまで対応可能なのかなど、検討すべき項目はたくさん出てきます。そうなってくると、一度にたくさんのことを考えなければなりません。
ここで大事になってくるのが、書き出して比較するということです。
このように、いくつもの要素が複雑にからむ問題を処理する時に、私たちの脳は無意識のうちに、条件や要素を大幅にカットして問題を簡略化するということが知られています。これらの要素の簡略化のプロセスは「編集」と呼ばれ、ノーベル経済学賞を受賞したカーネマンと共同研究者の心理学者トベルスキーによって明らかにされました。*4
表形式にして比較することで、脳の中で編集されてしまうのを防ぎ、最良の判断ができるようになります。さらに、それぞれの選択肢について、収入や安定性といった要素を5段階評価や10段階評価といった数字での評価を書き加えていき、スコア化することで、合計得点を比較すれば最良の選択肢が見つかりやすくなります。
キャリアの選択というと、人生を左右する大きな判断ですが、書き出して比較するという作業をすることで、より合理的に意志決定を行うことができます。
一度ご自身のキャリアプランについて、考えてみてはいかがでしょうか。
*1 引用)「新時代のキャリアコンサルティング」労働政策研究・研修機構編著 P22
*2 引用)「新版キャリアの心理学」渡辺三枝子編著 P170
*3 参考)「新版キャリアの心理学」渡辺三枝子編著 P172~175
*4 参考)「知識ゼロからの行動経済学入門」川西諭著 P42~43