一億総活躍社会の実現に向けて、政府は、働き方改革をスタートさせました。
そしてそのタイミングで新型コロナウイルスによるパンデミックが発生したのですが、働き方改革の一つ「多様な働き方の実現」が、この災禍により急速に推し進められる結果となっています。
なかでも、「テレワーク」の急速な拡大は目を見張るものがあります。
パーソル総合研究所は「新型コロナウイルスによるテレワークの影響」について、2020年3月9日から15日に、全国2万人規模の緊急調査を実施しました。
その結果によると、「現在の会社で初めてテレワークを実施した人」はテレワーク実施者の47.8%*1と、新型コロナウイルス対策によるテレワーク実施であることがうかがえます。
また、テレワーク導入に伴う「4月上旬の出社率・都道府県別」では、東京都の出社率が、4月3日の64.5%から、約1週間で48.9%まで減少しました*2。
実際、筆者の顧問先でテレワークを実施している企業は、出社を週1回とし、業務内容や人員配置について再検討を始めています。
ここからみえてくるアフターコロナの新しい働き方として、「ダブルワーク」のさらなる普及が予想できます。
これまでは、ダブルワーク(兼業・副業)の必要性として、「本業における所得不足を補完するためにパート・アルバイトで働くイメージが強いものでした。
実態としても『パート・アルバイト』形態が多い*3」という見方が大半でした。
しかし、テレワークが浸透し、労働時間の管理を労働者自身が行うようになれば、起業を含む“多様なダブルワーク”の可能性が広がります。本稿では、「副業・兼業・複業」をトータルして「ダブルワーク」と捉え、その必要性や方向性について話を進めていきます。
1.労働時間の減少が導くダブルワークの可能性
急速なテレワークの拡大により、企業は、勤怠管理について今までにない対応を迫られることになります。
それに伴い、人事評価制度も刷新する必要があるでしょう。
テレワークが常態化すると通勤が不要となります。
また、業務内容も整理され、必然的に長時間労働の削減が図れます。
そのため、既存の「労働時間による管理」から「アウトプットによる評価」へと舵を切った結果、“労働時間の効率化”が実現するでしょう。
実際のところ、長期的に見ると労働時間は減少傾向にあります。
一人当たりの労働時間の変化の寄与度について、一般労働者の労働時間を「所定内労働時間」と「所定外労働時間」に分け、さらに「パートタイム労働者の労働時間」「パートタイム労働者比率」の4つの要素を寄与分解したものが図2です。

図2:内閣府/日本経済2019-2020第2章第1節働き方の変化と働き方改革(第2-1-1図 労働時間の長期的推移)(https://www5.cao.go.jp/keizai3/2019/0207nk/n19_2_1.html)
グラフから見てとれるように、一人当たりの労働時間の減少に伴い、パートタイム労働者比率が大きく上昇しています。
これは、パートタイム労働者の労働時間は一般的に短いため、パートタイム労働者の増加が、一人当たりの労働時間の減少に寄与していることを意味します。
そしてこの変化は、ダブルワークの推進につながる可能性を秘めています。
2.ダブルワークの現状
多様なキャリア形成の選択肢の一つ、ダブルワーク。
2016年中に副業を実施した雇用者は12.9%(正規10.8%、非正規16.1%)でした*4
同調査から「収入が一番多い副業の内容」についてみると、「主な仕事と同じ内容」と回答した人が約20%となっています。
メインの仕事のスキルアップ等を目的に副業を行っている可能性が考えられます(図3)。
次いで「アンケートの回答」や「軽作業」「飲食・小売店のスタッフ」といった、比較的軽易な仕事を副業としており、この時点での副業は、収入の追加的な側面が強いものとなっています。

図3:内閣府/日本経済2017-2018第2章第1節職業キャリア形成の変化(第2-1-9図 副業の現状)(https://www5.cao.go.jp/keizai3/2017/0118nk/n17_2_1.html)
さらに、副業をしている人の特徴を、男女別にプロビットモデルを用いて分析した結果が図4です。
男女ともに、テレワーク制やフレックス制といった、労働時間をある程度コントロールできる労働環境にいる人の副業率が高いことから、テレワークの拡大は副業を後押しすると予測できます。
また、転職の意向がある人や、自己啓発活動がある人の副業率も高いため、キャリアアップの目的で副業を行っている人が一定数いることを示しています。
女性に関しては、分析を行った全ての年代でプラスの結果となり、男性と比べて副業を身近なものと捉えている可能性が考えられます。
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図4:内閣府/日本経済2017-2018第2章第1節職業キャリア形成の変化(第2-1-10図 副業する人の特徴2016年)(https://www5.cao.go.jp/keizai3/2017/0118nk/n17_2_1.html)
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図4:内閣府/日本経済2017-2018第2章第1節職業キャリア形成の変化(第2-1-10図 副業する人の特徴2016年)(https://www5.cao.go.jp/keizai3/2017/0118nk/n17_2_1.html)
3.ダブルワークの意外な目的
では、実際にダブルワークを選択する働き方の実例とは、どのようなものがあるのでしょうか。
一般的なダブルワークの目的とは少し異なるのですが、筆者の友人が先日、格闘技の女性指導者として、新たなキャリアをスタートさせました。
彼女は15年、都内の料理店で働いています。
料理好きなこともあり、将来は自分の料理店を開くつもりで邁進していました。
しかし今から9年ほど前、とある格闘技を始めたことがきっかけで、夢の方向が「自分のお店を開く」から「格闘技を中心に生活したい」へと変わっていきます。
勤務年数が増えるとともに任せられる業務も多岐にわたり、今では店舗に関するあらゆる業務をこなす重要な人材となりました。
そんな矢先での「指導者」のスカウトについて、どのように感じたのか尋ねてみました。
「お店には感謝しているし、料理が好きなことは変わらない。ただ、私の目標に近づけるチャンスは生かしたいと思った。両方とも大切な場所だから、両方とも続けていきたい」
つまり、指導者一本ではなく、料理店での勤務も続けながら、新たな生活をスタートさせる道を選んだのです。
メインの仕事が指導者となるため、料理店での勤務時間は減りますが、あえてダブルワークを選んだ理由は「感謝」だそう。
「この9年間、私の練習や試合のためにお店のみんなが協力してくれた。責任ある仕事もまかせてもらった。つぎは、私が恩返しをする番だと思ってる」
新型コロナウイルスの影響で、勤務先の料理店もダメージを受けているとのこと。
かつての活気が戻ったとき、人材確保の問題をクリアするためにも、ベテランスタッフの彼女の存在は大きいものとなるでしょう。
単に「収入の足しにするため」や、「自身のキャリアアップのため」ではなく、こういうかたちのダブルワークも存在するということを知り、温かい気持ちになりました。
4.ダブルワーク≒パラレルキャリア
筆者の友人は、「ダブルワークの目的」としてはレアケースだと思います。
しかし、見方を変えると、それはパラレルキャリアの概念に近いともとれます。
パラレルキャリアは、「本業を持ちながら、第二のキャリア(社外活動)を構築し、そこで得た経験や知識を本業で生かし、人生をより豊かなものにする」という考えで、経営学者のピーター・ドラッカーが提唱しました。
一般的には、自身のスキルアップや社会貢献活動を行うことが多いパラレルキャリアですが、趣味から広がる場合や、起業の準備として行う場合もあり、活動内容はさまざまです。
友人に「料理店でのキャリアが、格闘技の指導者の役に立ったか」と、ちょっといじわるな質問をしてみました。
すると、
「料理の仕込みは手際のよさが重要。指導も、テンポよく教えないと時間内に終わらない。あと、スタッフ教育の経験も指導の役に立ってるかな」
と、はにかみながら答えてくれました。
女性は男性と比べ、家事や育児のために時間や場所を制限される生活環境になりがちです。
そのため、フルタイムではなく短時間のパートや、自宅でスモールビジネスを始めるなど、柔軟な対応でキャリアを継続または再開することが可能です。
さらに、仕事の選択肢が増えれば、自己実現やキャリアアップにつながります。
そして、ライフスタイルの多様化が進む女性にとって、複数のキャリアを確保しておくことは、今後の各ライフステージにおいても有効でしょう。
新型コロナウイルスの影響でテレワークの実施が不可避となり、ICT環境が整わないままのスタートを余儀なくされた企業がほとんどです。
しかし、労働者にとっては新たな働き方、新たなキャリアプランを考える良い機会でもあります。
今後、広がりをみせるであろう“多様なダブルワーク”を上手に活用し、より充実した社会生活を目指しましょう。
https://rc.persol-group.co.jp/news/202003230001.html
*2参考:パーソル総合研究所/4月上旬の出社率・都道府県別
https://rc.persol-group.co.jp/news/files/news-data.pdf
*3引用:中小企業庁/兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言p10
http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hukugyo/2017/170330hukugyoteigen.pdf
*4参考:内閣府/日本経済2017-2018第2章第1節職業キャリア形成の変化-3副業・起業はどこまで進んでいるか
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2017/0118nk/n17_2_1.html