キャリア形成 働くコラム

「定年」の概念がなくなる時代 転職や就職時に考えるべきこと

「定年」の概念がなくなる時代 転職や就職時に考えるべきこと

”定年70歳”を掲げた「改正高齢者雇用安定法」がいよいよ来年(令和3年)4月1日から施行されます。

企業に対して定年を70歳まで引き上げるか、70歳までの継続雇用制度の導入を努力義務とするものです。

 

もちろんこれらは努力義務であり強制ではありませんが、これから転職や就職を考える人にとっては、気になる話題ではないでしょうか。

 

「定年」の概念が崩れ去っていくこれからの時代でいかに振る舞っていくか、まずは何がどう変わるのかを再確認し、そして就職・転職活動のあり方について考えていきましょう。

 

 

1.「70歳定年法」が来年度から

 

改正法では、企業に対して以下のような努力義務が設けられます(図1)。

改正高齢者雇用安定法の努力義務

図1 改正高齢者雇用安定法の努力義務(出所:「改正高年齢者雇用安定法概要」厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000626609.pdf)

 

かつ、上記④⑤(雇用雇用以外の措置)を取る場合は、労働者の過半数を代表する者などの同意を得た上で導入されるものとする、としています。

 

そして現在、66歳以上になっても働ける制度のある企業は、大企業では25.3%、中小企業では31.4%にのぼっています(図2)。

 

66歳以上でも働ける企業の割合

図2 66歳以上でも働ける企業の割合(出所:「令和元年『高年齢者の雇用状況』集計結果」厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/11703000/000569181.pdf p7)

 

中小企業では特に人手不足感が高いことから、すでに高年齢になっても働ける環境を整えている企業の割合が大企業を大きく上回っています。

 

一方で「希望者全員が66歳を超えても働ける」企業の割合はまだ低く、大企業(301人以上)で4.2%、中小企業(300人以下)で12.6%にとどまっています。

 

しかし今後、老齢厚生年金報酬比例部分の支給開始年齢の引き上げに伴い、2025年には65歳までの雇用が①定年引き上げ②継続雇用制度の導入③定年の廃止、のいずれかの措置を取ること、という形で完全義務化されます(図3)。

少子化が解消されない以上、その先に70歳までの雇用義務付けという時代がやってきてもおかしくありません。

 

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律

出所:「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律」の概要」(前回=平成24年改正時)厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/dl/tp0903-gaiyou.pdf)

 

現時点で、十分な定年延長制度が無い会社でも、これから大いに変わっていく可能性があるでしょう。

 

2.高年齢者の雇用継続の具体的導入方法

 

しかしながら、定年引き上げ、あるいは継続雇用の制度といったものは、すぐに決めてすぐに適用されるものではありません。

 

会社側も、現在と同じ給料を払い続けることは現実的には難しくなります。

そうなると経営側は、比較的高年齢の社員だけでなく、幅広い年齢層の社員の了承を得なければなりません。

 

高齢・障害・求職者雇用支援機構が公表している「65歳超雇用推進マニュアル」では、定年の引き上げや継続雇用制度の導入について、手順や事例などが紹介されています。

 

いずれも基本は、

 

①現状把握~基本的方針決定

②制度検討から設計、具体的検討と決定

③実施

④見直し・修正

 

の流れを手順としています。

 

そして、例えば定年引き上げの場合、会社側が検討すべきこととして以下の項目を挙げています(図4)。

 

定年引き上げの検討事項

図4 定年引き上げの検討事項(出所:「65歳超雇用推進マニュアル」高齢・障害・求職者雇用支援機構)(https://www.jeed.or.jp/elderly/data/q2k4vk000000tf3f-att/q2k4vk000000tf6h.pdf p30)

 

検討事項は多岐に渡ります。これが、制度変更が一朝一夕には完成しない理由です。

 

そして、大企業の導入例として、大まかなタイプ分けが紹介されています(図5)。

 

定年65歳以上の企業と雇用形態

図5 定年65歳以上の企業と雇用形態(「65歳超雇用推進マニュアル」高齢・障害・求職者雇用支援機構)(https://www.jeed.or.jp/elderly/data/q2k4vk000000tf3f-att/q2k4vk000000tf6h.pdf p33)

 

対象、役割、就業自由度、賃金の4つの要素での大まかな分類ですが、ここには企業の現在の課題が反映されています。

 

タイプAは、現場に人手不足の課題がある、あるいは強いポリシーという背景から採用され、中小企業もこれにあたるケースが多くあります。

それだけに少なくとも 40 歳くらいからは、職務によって賃金が決まる職務給を賃金制度の柱にする必要があります。

 

そしてタイプA’の野村證券の場合は、コンサルティング営業専任といった特定職種という限定された範囲でタイプAを実現しています。

 

タイプBは、下の世代に経験を積ませることと併せ、高齢者の力の発揮の両立をいかに図っていくかが課題となっている企業であると分析されます。

 

この場合、高齢社員の役割を変えることになりますので、同時に待遇、評価制度も変わります。

この点について、ルール化などわかりやすい説明が必要になるでしょう。

理解を得なければ高年齢者のモチベーションが大きく下がってしまうからです。

 

B’は、転居を伴う異動がなくなるといったケースです。

 

そしてB’’の企業には大きな共通点があります。

製造や配達の現場を持っているというところです。

このような業態では、立場が変わってもそれまでと同じ現場での業務継続が可能です。

よって短時間勤務などを導入しやすく、定年引き上げの対象を広げやすいという特徴があります。

 

 

3.定年なき時代のキャリア形成

 

ここまでみてきたように、法律の枠組みによる雇用対策では、

 

・社内で制度は作られても、未実施になりがち

・「大量退職」の時期はいずれやってくる、後ろ倒しになっただけ

 

という性格があります。

 

自身のキャリア形成としてはまず、ここから新たな就職活動をする気持ちでスキルの棚卸しをすることが必要です。

また、新型コロナウイルスのパンデミックがジョブ型雇用を後押しする中、ジョブ型の働き方ができるようになっていなければ厳しいでしょう。

 

そして他の選択肢に「起業」があります。

60歳でライフネット生命を開業し、著書「還暦からの底力」で還暦からの生き方を説いて話題を読んだ出口治明氏は、60歳からの起業を勧める一人です。

 

雑誌のインタビューでは、

 

「人生100年時代が訪れると、20歳で社会人になったとして、残りの人生は80年ある。60歳はマラソンで言うと折り返し地点だ。

(中略)

 僕は60歳前後の人に起業を勧めている。人生を半分走っていて酸いも甘いも知り、仕事経験も十分。それなのに日本では、起業は若い人のものだという考えが根強い。これは根本から間違っている。知識もノウハウもない若い人ほどリスクが大きいのは当然だ」

<引用:東洋経済2020年10月17日号 p49>

 

と指摘しています。

 

実際、起業家の男性の場合50代、60代を合わせると3割を占めています(図9)。少ない数字ではありません。

 

起業家の年齢構成

図9 起業家の年齢構成(出所:「2019年版 中小企業白書」)(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap2_web.pdf p168)

 

また「副業起業」も十分に検討に値するでしょう。

会社勤めの一方で自分で起業するという働き方で、一種のリスクヘッジになるかもしれません。

起業が順調であれば、将来的にはそれを本業にすることも可能でしょう。

 

4.組織と自身のリフレッシュを今

 

日本の健康寿命が上がっているのもまた定年引き上げの動きにつながっていますが、法律に対応するだけという受け身の対応は避けたいところです。

 

というのは、日本の人口構造を考えれば、小手先の対策だけでは根本的な問題はなくならないからです。

「ダイバーシティ」「ジョブ型」へと変化しなければ企業活動が成り立たなくなりつつあるという事実は解消できそうにありません。

むしろそちらの方が世界ではスタンダードです。

 

従来の「一括採用」「メンバーシップ型雇用」「終身雇用」「年功序列」「定年」といった日本型雇用の特徴は今度どんどん消滅していきます。

20年後30年後の自分を再設計する必要のある時代になっています。

 

また、年金支給年齢の引き上げを考えたとき、70歳までのマネープランも同時に考え直しておきたいものです。

 

参考文献/参考サイト
*1「2020年3月期決算 上場企業1,792社 『従業員平均年齢』調査」東京商工リサーチ
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20200819_01.html
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執筆者 清水

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に記者として勤務。社会部記者として事件事故やテクノロジー、経済部記者としては企業活動から金融まで経済全般を幅広く取材。CSニュース番組のプロデューサーも務める。フリーライターに転向後は、取材経験や各種統計の分析を元に、お金やライフスタイルなどについて関連企業に寄稿。趣味はサックス演奏。自らのユニットを率いてライブ活動を行う。

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