労働を取り巻く環境が大きく変化している昨今、どんな状況にあっても企業から求められる人材でありたいものです。
そのために自己投資をしてスキルを磨き、知識や資格を取得し自分の市場価値を高めることに努める人も多いでしょう。
資格取得は市場価値を高めるための有効手段のひとつではありますが、自己投資をする際には、コストとリターンの関係をしっかり見極めて実行することが大切です。
そこで本記事では、企業が求める人物像および職業人として磨くべき力にはどのようなものがあるか説明するとともに、コストパフォーマンスも考えた自己投資の方法についても紹介します。
1.自分の市場価値を知っていますか?
昇格・昇給、より良い条件での転職などを目指し、知識の向上や資格取得に努めることはこれからの長いキャリア・プランにおいて大切なことです。
そのためにも、まずは今の自分の市場価値がどの程度であるかを知っておくことも必要です。
一般社団法人・経済団体連合会(経団連)が公表している
「Society 5.0時代を切り拓く人材の育成(2020年3月)」
によると、働き手には、自身のキャリアビジョンを描き、主体的に社内外における自身の価値(エンプロイアビリティ)を磨いていく意識と行動力を持つことが求められています*1_6。
社内外における自身の価値(エンプロイアビリティ)とは、働き手が雇用され得る能力のこと。現在働いている企業だけではなく、それ以外の企業でも通用する能力を意味します。
IoTやAIなどの技術革新、少子・高齢化の進展、外国人雇用など、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。
働き手自身も単にスキルアップに努めるだけでなく、自分のスキルや経験に需要があるかどうかを知ることの重要性が高まってきていると言えるでしょう。
自分の市場価値を知るためには、ジョブ・カードを作成しながら過去から現在に至るまでの職務経歴、過去の業務で得た経験、スキル、知識、雇用形態、役職・役割などをすべて棚卸しする方法もあります。
しかし、自分で自分の価値を測るのはなかなか難しいもの。客観的に測ってもらうのがおすすめです。
ビジネスパーソンの市場価値を客観的に測定してくれる会社もありますが、多くの転職サイトが提供している適性診断や年収査定、スキルチェックなどのサービスを利用してみるのもおすすめです。
実際に転職を検討している・いないに関わらず、無料で利用することも可能ですから気軽に取りかかってみてはいかがでしょうか。
今までの自分の経験、職歴などを元に、今の社会で別の企業に勤めるとしたらどのくらいの年収が相場なのか。何を「売り」にできるのかというようなことを知ることができます。
ただし、年収相場は業界や職種の動向に左右されることがあります。予想外の結果にがっかりする可能性もありますが、その場合には逆にスキルアップの必要性を感じられるようになるかもしれません。
2.市場価値を高める自己投資のすすめ
自分の市場価値を知ることができれば、それを高めるための自己投資を実行していきましょう。
しかし、ここで考えて欲しいのは「コストパフォーマンス」です。
具体的に言うと、「投じたお金と時間に対してどれだけリターンを期待できるか」ということです。
投資というと、資産形成を目的として株や投資信託などで運用する投資があります。
通常、これらの金融商品を購入する際にはリスク・リターンの割合や、収益率などさまざまな指標を比べながら、どの銘柄に投資するか選ぶものです。
自己投資も同様です。自己投資としてビジネス本を買って読んだり、ビジネスセミナーに通ったり、または資格取得に励む人は多いのですが、投資にはリスクはつきものです。
資格を取れば市場価値が高まるというわけではありませんから、その努力や投じたお金、時間などがキャリアや収入アップという形で返ってくるかどうかを考えながら行うことが大切です。
たとえば、資格取得をするなら、何の資格を取るのか、その資格をどう活かすのかなど、将来に照準をあてて考えてみることが大切なのです。
3.企業が求める人材とは?
自己投資を効率的に行うためには、産業界が求める人材像を知っておくこともおすすめです。
経団連は「今後の採用と大学教育に関する提案(2018年12月)」のなかで、企業が学生を採用するにあたり、重視している能力を明らかにしています。
それによると、理系・文系の別や職種にかかわらず、「創造性」、「チャレンジ精神」、「行動力」、「責任感」、「論理的思考能力」、「コミュニケーション能力」、「忍耐力」、「協調性」などが重視されているとのことです*2。
また同時に、学生に求める能力としてリベラルアーツが重視されています。
リベラルアーツとは古代ギリシアで生まれた概念で、
「人間を良い意味で束縛から解放するための知識や、生きるための力を身につけるための手法」
のこと*3。
現代のビジネスパーソンとして必要な能力に例えれば、専門の学科や職業課程とは別に、基礎的な教養や実行力、判断力、論理性など多くの「力」と言えそうです。
同提案のなかでは具体例として、語学(英語)力、情報リテラシー、地球規模課題や世界情勢への関心等を求めている企業が多いとしています*2。
これらは、社会人としてすでに働いている人にとっても求められることでしょう。
これまで業務で専門的に取り組んできた知識の領域を越え、異なる分野の知識や考え方を取り入れられる能力があるかどうかは市場価値の高低に影響するかもしれません。
たとえば新しい製品やサービスを生み出すことが必要な時には専門知識だけでなく、新しい発想も必要です。
熱心に業務に取り組むことは、時として知識を偏らせ、視野を狭めたり、新たな発想をしにくくすることもあるのです。
つまり、企業人・職業人・専門家として長く求められるためにはさまざまな学問や知識を幅広く身に着けることが必要なのかもしれませんね。
4.コストパフォーマンスの高い自己投資とは
企業に求められる資質が分かれば、自分に不足する資質を身につけ、もっと高めたい能力を伸ばすことに注力してみましょう。
まずはコストがかからないことから始めることでコストパフォーマンスも高まります。
たとえばコミュニケーションスキルや協調性を高めようと思えば、社内・社外を問わず、周囲の人の話で賛同できたり、良いなとおもう言葉を聞いたときにメモしたり、話し方を真似てみるのもいいでしょう。
リベラルアーツが求められているのであれば、たとえばテレビで地球環境や世界情勢に関する番組を積極的に見てみたり、関心を持ったテーマをネットでより詳しく調べて、知識を付けることもできるでしょう。これらはコスト不要です。
気になる専門知識や資格がある場合には、まずはオンラインで無料の動画を見てみるのもいいでしょう。
資格によっては専門用語が多くありますから、自分に向いているかどうかを知ることもできるでしょう。
興味を持てれば、特定企業や業界団体のサイトを閲覧したり、本を買って読んでみるのもいいでしょう。投資額に何万円もかかることはありません。
知識を得たら、アウトプットしてみるのもおすすめです。たとえば、ブログで自分の知識や考えを披露する方法もあります。
どういう内容を書けばアクセスが伸びるとか、どういう書き方をしたら読者の反応がいいかということを分析することで主体的にビジネススキルを習得することが期待できます。
テーマを考え、多くの文章を書くことは、思考スピードや資料作成力の向上に役立ちます。
時間の投資は必要ですが、金銭的な投資は不要な場合もあります。
勤務先が副業を解禁している場合には、そこから収入を得ることも考えてみるのもいいでしょう。
利益が出ればプラスの自己投資です。
冒頭で紹介した経団連の報告書で、企業の人材育成は
「『会社からの指示で行われるもの』という意識から、『社員が自身のキャリアビジョンに基づき、必要なスキルや経験が何かを考え、計画的に取り組んでいく』といった意識へ変えていくことが重要である」
ことが示されています*1_13。
せっかくスキルアップをするのなら、資格を取れば評価が上がるから、上司に言われたから……という受け身のスキルアップではなく、自ら積極的に幅広い知識・教養を身につけ、チャレンジしていくことが、これからますます必要になってきそうですね。
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/021_honbun.pdf
*2:一般社団法人 日本経済団体連合会「今後の採用と大学教育に関する提案(2018年12月4日)」
https://www.keidanren.or.jp/policy/2018/113_honbun.html?v=p
*3:桜美林大学「リベラルアーツとは」
https://www.obirin.ac.jp/academics/arts_sciences/what_is_liberal_arts.html