記憶力に自信がなく、どうしても暗記ものは苦手だという方は多いものです。
ビジネスの現場では、うっかり「忘れてた!」や「覚えてない」となると大きなトラブルになりかねません。
そうはいうものの、ビジネスにおいて覚えなければいけないものはたくさんあります。
・上司の指示
・資格の勉強内容
・会議やプレゼンに必要な情報
・重要書類の中身・・・
細かいものまで挙げると、きりがありません。
大事な情報を自分の頭の中にインプットし、いつでも取り出せるようにするにはどうすればいいのでしょうか。
1.スマホ任せで起こってしまう問題点
仕事で覚えないといけないことというのは、かなりの量です。
特に、入社して間もない頃には、全く何も分からずに大変だったという経験をされた方も多いでしょう。
何度も同じことを言われないようにと、新入社員の頃に「ちゃんとメモを取るように」と指導された人も多いはずです。
しかし中には、どうしてもメモを取るスピードが遅い、字が汚くなってしまい何を書ているのか分からなくなってしまうというという悩みを抱える人もいます。
そんな時に便利なのが、スマホです。
メモ用のアプリに加え、写真やボイスレコーダーといった機能を使えば、簡単に記録を残すことができます。
一度に大量の情報を覚えきれないという時でも、スマホの中に記録を残しておけば、自分の好きな時に何度も見直すことができます。
記憶力に自信が無くても、スマホさえあれば何とかなると思うかもしれません。
しかし、便利に見えるスマホでも、問題点はあります。
それが、次の4つです。
大量の情報を記録しておくことができるからといって、うっかりスマホ内にメモを残しておいたことを忘れてしまっては、せっかくのメモが役に立ちません。
また、件名に分かりやすいタイトルをつけておいて、後から検索によって探し出す場合にも、検索画面上でキーワードを入力するなど、必要な情報を見つけ出すまでに時間がかかってしまいます。
さらに、仕事で重要になってくるのが、優先順位をつけて処理していくということです。
しかし、大量の情報を乱雑に記録しているだけでは、うまく優先順位をつけられません。
その他の弊害としては、アイデアが出にくくなるということも挙げられます。
アイデアは、頭の中で複数の情報が結びつくことによって生まれてきます。
アイデアのもととなる情報が、頭の中ではなくスマホの中にある状態では、いいアイデアも出にくくなってしまいます。
スマホも便利ですが、できる限り自分の頭で覚えた方が素早く行動でき、いいアイデアも得やすいはずです。
2.進化の歴史から見た記憶法とは
とはいえ、いざ自分の力で覚えようと思っても、なかなか大変なものです。
覚えようとするものの中でも、覚えやすいものと、覚えにくいものがあるでしょう。
両者の違いとは、なんでしょうか。
その違いを知る手がかりが、人類の進化の歴史の中にあります。
脳科学的には、感情を伴った情報の方が記憶されやすいということが知られています。
これは、感情によって、脳に入ってきた情報が生存に必要なものか、そうでないものなのかの選別が行われているためであると考えられています。*1
それをまとめたのが、以下の図です。
例えば、おいしい食べ物に関する情報は、生存にプラスの影響があるので、喜びの感情が出てきて生存するために必要な情報として記憶されやすくなります。
一方、自分に不快感を与えるような情報に関しては、生存に関してマイナスに影響するため、こちらも生存に関わる重要な情報として記憶されやすくなります。
しかし、生存に何の影響も及ぼさないと脳が判断した情報に関しては、無関心な状態になってしまい、どうでもいい情報として記憶されにくくなります。
このように感情が働くことで脳に入ってきた情報に意味づけがされ、生きていくうえで必要だと判断されたものが優先的に記憶されるという仕組みになっています。
このような仕組みが、自然界の厳しい生存競争を勝ち抜くうえで有利に働いたと考えられています。
感情は、自分の気持ちを表現するだけでなく、生きるために必要な情報を蓄えるために重要な働きをしているというのがお分かりいただけたのではないでしょうか。
感情が記憶するためには重要だということを踏まえると、資格の勉強なども黙々と機械的にこなすのでは効率が悪いと考えられます。
興味を持てるようにしたり、ワクワク感が出るように工夫するといったことが大事になってきます。
3.興味がないものをどうやって覚えればいいのか
興味のあることばかりであれば記憶もスムーズにできますが、実際には、なかなかそうもいきません。
感情が伴わない情報というのは記憶されにくいものであるため、効率的に記憶するためには、それなりに工夫が必要になってきます。
重要になってくるのが、繰り返しインプットすることです。
人間の記憶は、繰り返し学習するほど定着率が高まることが知られています。
感情を伴わない情報であっても何度もインプットを行うことで、脳はその情報を重要なものであると判断し、記憶するようになります。
大事になってくるのが、復習を行うタイミングです。
一度学習した情報は、脳の中の海馬と呼ばれる部分に蓄えられます。
この海馬に記憶が保持されている期間は、一ヶ月ほどと言われています。
そのため、復習するのに一ヶ月以上の間が開いてしまうと、復習による記憶力の増強の効果が無くなってしまいます。
参考書や問題集で学習する際に、一ヶ月以上かけてコツコツやり進め、一通りやり終えてからさらにもう一回やるという方法は、非常に効率が悪いので注意が必要です。
それでは、どのようなスケジュールで復習を行うのが一番よいのでしょうか。
科学的に見てもっとも能率的とされているのが、まず一週間後に一回目、次にこの復習から二週間後に二回目、そして、最後に二回目の復習から一か月後に三回目、というように一回の学習と三回の復習を少しずつ間隔を広くしながら二カ月かけて行うのがよいとされています。*2
このように繰り返しインプットを行うことで、海馬はその情報を必要なものだと判断して記憶するようになります。
覚えにくいけど、どうしても覚えないといけないというものは、繰り返し学習するということと、学習の間隔を一ヶ月以上開けすぎないということが大事だということは押さえておきましょう。
4.自分に一番合ったインプット方法を探る
記憶は、繰り返し学習することで強化されますが、中には思ったように学んだ内容が定着しないということもあるかもしれません。
そのような場合には、インプットのやり方が自分に合ったものであるのかをチェックする必要があります。
人間の手には、右利きや左利きがあるように、インプットのやり方にも、その人にとって得意とするやり方が存在します。
自分に一番合ったやり方でインプットをするというのが、記憶の効率を高めるうえでも大事になってきます。
例えば、英単語を覚える場合を考えてみましょう。
覚え方として・・・
・同じ単語を何度も書く
・何度も発音して覚える
・単語カードを作って何度も見直し
というように、いろいろなやり方があります。
教わったやり方でちゃんと覚えられたのであれば、それが自分に合ったやり方だと言えます。
同じ先生から同じようなアドバイスを受けていたとしても、得意な覚え方は人によってバラバラです。
みんなが同じように覚えられるというわけではありません。
自分が得意な覚え方を知るために大事になってくるのが、「認知特性」と呼ばれるものです。
認知特性とは、「外界からの情報を頭の中で理解したり、記憶したり、表現したりする方法のこと」であり、大きく分けると次の3つのタイプに分かれます。*1
この3つのタイプのうち、自分はどれが一番強いのかを知ることによって、自分に一番合った覚え方を知ることができます。
図やイラストを使ってイメージしながら覚えるのが得意なのは、視覚優位者の人です。
また、何度も書いて覚えるというのは、言語優位者向けのやり方であり、何度も口に出したり、リズムで覚えるというのは、聴覚優位者向けです。
繰り返しても覚えられないというのは、頭が悪いからではなく、自分の認知特性に合ってないやり方をしてしまっている可能性が高いです。
いろいろなやり方を試してみて、自分に合ったやり方を見つけましょう。
*2 参考)「記憶力を強くする」池谷裕二著 P208