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試用期間中はいつでも解雇される?各種保険も入れない?のウソホント

試用期間中はいつでも解雇される?各種保険も入れない?のウソホント

就職や転職の際、提示された雇用契約書に

3か月の試用期間後に本採用とする」

「入社から6か月を試用期間とする」

このような文言が記載されていることがあります。

 

この試用期間について、

「試用期間中であればいつでもクビできる」

「試用期間中は、雇用保険や社会保険の加入はできない」

などという噂を聞いたことはありませんか?

 

さまざまな憶測を呼ぶ「試用期間」とは、一体どのような期間をさすのでしょう。

 

 

まず、法律上「試用期間」についての定めはありません。

試用期間を設けるケースとして、労働者を本採用するにあたり採用過程で確認できなかった適格性の判断を行う目的で、企業が任意に行うことがあります。

 

ではこの試用期間、企業側はいつでも解雇を行えて、各種保険の加入を拒否できるのでしょうか。

 

 

 

1.試用期間中の解雇

 

企業が必要に応じて設定する試用期間に、解雇や保険関係、最低賃金についての特別な扱いはありません。

 

ではなぜ、「試用期間中はいつでも解雇ができる」という噂が流れるのでしょうか。

 

労働基準法第20条で、解雇の予告についての定めがあります。

「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも 三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。」

 

つまり、解雇を予告する場合は、30日前に予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと定められています。

 

そして労働基準法第21条で、解雇予告の例外となる労働者が列挙されています。

「前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。

一 日日雇い入れられる者

二 二箇月以内の期間を定めて使用される者

三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者

四 試の使用期間中の者」

 

この「四 試の使用期間中の者」について、

「入社から14日以内であれば『30日前の解雇予告』をしなくてもいい」

と示されています。

 

誤解してはいけないのは、

「入社から14日以内であれば、どんな理由でも解雇ができる」

と言っているわけではありません。

 

解雇はあくまで、

「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当とされる場合」

にのみ許されます。

これは、いかなる場合の解雇でも共通する要件です。

 

本来、解雇は慎重に行うべきもので、「試用期間」という名称によって左右されるものではありません。

 

しかしながら、さまざまな情報が錯綜した結果、いつのまにか

「試用期間であればいつでも解雇できる」

という、誤った解釈が広まったのではないかと推測します。

 

いずれにせよ、試用期間を設けている場合でも雇用契約は成立しており、通常は、試用期間経過後に本採用へと移行するのが原則です。よって、不当な本採用拒否は解雇権の濫用にあたり無効となります。

 

ただし、試用期間中に「それ以前には知ることができなかった事実等」が判明した場合で、そのことが採否決定の重要な要素であり、労使の信頼関係が破綻した場合などは、試用期間満了時の解雇が認められるケース(東京地判平21.8.31 労判995-80)もあるので注意が必要です。

 

 

 

2.試用期間中の保険関係

 

つぎに、試用期間中の各種保険の加入について、どのような扱いとなるのかを確認しましょう。

 

 

①雇用保険

まずは雇用保険についてです。

 

厚生労働省は、雇用保険の適用基準として次のように示しています*1

 

1.31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること。

・期間の定めがなく雇用される場合

・雇用期間が31日以上である場合

・雇用契約に更新規定があり31日未満での雇止めの明示がない場合

・雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合

2.1週間の所定労働時間が20時間以上であること

 

この2つの基準が雇用保険加入の要件です。

たとえ試用期間であっても、週20時間以上の労働時間、かつ、31日を超える雇用期間であれば、強制的に雇用保険加入となります。

 

 

②社会保険(健康保険・厚生年金保険)

では、社会保険(健康保険・厚生年金保険)についてはどうでしょう。

こちらは雇用保険とは異なり、加入要件に幅があります。

 

社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者となるためには、厚生年金保険法第9条で

「適用事業所に使用される七十歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする。」

と定められています。

 

つまり、就職先が社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用事業所であることと、年齢が70歳未満であることが、被保険者となるための必要最低条件となります。

 

しかしこれにも除外規定があります。

厚生年金保険法第12条第1項には、

「次の各号のいずれかに該当する者は、第九条及び第十条第一項の規定にかかわらず、厚生年金保険の被保険者としない。

一 臨時に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く。)であつて、次に掲げるもの。ただし、イに掲げる者にあつては一月を超え、ロに掲げる者にあつては所定の期間を超え、引き続き使用されるに至つた場合を除く。

イ 日々雇い入れられる者

ロ 二月以内の期間を定めて使用される者」

とあります。

 

フォーカスすべきは、2か月の期間を定めた雇用期間(=試用期間とする)の場合、現行の法律では社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務がないということです。

当該有期雇用期間満了後に引き続き雇用される場合はその時点で加入となりますが、そこまでの2か月間は社会保険(健康保険・厚生年金保険)未加入となる可能性があります。

 

これには理由があります。

社会保険料は被保険者と事業主で折半するため、事業主の負担を減らす目的であえて2か月間の有期雇用契約を締結することがあるからです。

 

このような「制度の穴」を埋めるため、厚生労働省は被用者保険の適用拡大に向けた見直しを行いました。

 

見直し内容として、

「雇用保険の規定等も参考にし、『二月以内の期間を定めて使用され、当該期間を超えて使用されることが見込まれない者』を適用除外にすることにより、雇用契約の期間が2か月以内であっても、実態としてその雇用契約の期間を超えて使用される見込みがあると判断できる場合は、最初の雇用期間を含めて、当初から被用者保険の適用対象とする。(適用拡大と同時に施行)」*2

とまとめ、202210月より施行されることとなりました。

 

これにより、雇用期間(=試用期間)が2か月以内の場合であっても、

・雇用契約書や就業規則等により「更新される旨」または「更新される場合がある旨」が明示されている場合

・同一の事業所において同様の雇用契約に基づき雇用されている者が、更新等により最初の雇用契約期間を超えて雇用された実績がある場合

以上に該当する場合は、入社当初から社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用が義務付けられます。

 

 

 

3.試用期間満了時の本採用拒否は「解雇」

 

試用期間満了時の解雇(留保解約権行使)について参照される判例(最大判昭48.12.12 民集27-11-1536)によると、

「(中略)後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解されるのであって、今日における雇傭の実情にかんがみるときは、一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるというべきである。それゆえ、右の留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない。」

とされています。

 

つまり、試用期間満了時の本採用を拒否することは、通常の解雇よりも緩和された基準による判断が認められます。

 

 

冒頭で、「法律上、試用期間についての定めはない」と述べましたが、概念としての試用期間は存在し、判例でもたびたび登場します。

しかし、「試用期間について」と「雇用について」は別であり、雇用(雇用契約含む)については、法律上の定めがあることを覚えておいてください。

 

 

最後に、試用期間と解雇(本採用拒否)のあり方についてまとめると、

・試用期間満了時の解雇(本採用拒否)は、試用期間中の適格性の判断という観点から、緩和された基準で判断される

・試用期間満了前の解雇は、試用期間の趣旨や目的からも、試用期間満了時の解雇より厳格に判断される

といえます。

 

 

「試用期間」という名称にとらわれず、誠意をもって業務に従事することで、不当な解雇を防ぐことが可能です。試用期間満了後のみなさんの本採用を、本稿を通して応援しています。

 

参考文献/WEBサイト
*1参考:厚生労働省/適用基準及び加入手続き
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147331.html
*2参考/厚生労働省/年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要p17
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/000636611.pdf
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執筆者 浦辺

早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。

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