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あなたの体調の悪さ、病気不安症かも?ビジネスパーソンを苦しめる症状を現役内科医が解説

あなたの体調の悪さ、病気不安症かも?ビジネスパーソンを苦しめる症状を現役内科医が解説

 

転職や休職を考える理由として、「身体の調子が悪い」と考えるビジネスパーソンの人は多いのではないでしょうか。

もし、身体の調子がいつもとほんの少し違うだけで不安になって仕事が手につかなくなったり、病院に行ってもいつも「何ともない」と言われる方は、もしかしたら「病気不安症」というココロの病気かもしれません。

 

今回は、病気不安症について、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医である本間さんに解説をしてもらいました。

 

 

1.病気不安症ってどんな病気?

 

病気不安症とは、身体の症状がない、もしくは本当にささいな症状があるだけで、「自分は重い病気にかかっているかも」という強い思い込みに囚われて不安となり、仕事や家事などの日常生活に支障が出るココロの病気です。

20代から30代の比較的若い人に多いとされています。50代以降に初めて症状が出ることはまれです。男女差はありません。

 

病気不安症は、以前は心気症(心気障害)と呼ばれていたものの一部です。

米国精神医学会による最新の診断基準(DSM-V;Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)から「病気不安症」という呼び名が使われることになりました*1。

 

ちなみに、同じ心気症のうち、「お腹が痛い」「頭が痛い」などはっきりとした自覚症状があるのに病院に行っても病気が見つからないという場合は「身体症状症(身体表現性障害)」と呼ばれます。

 

 

 (1) 病気不安症の症状

 

症状の本体は「健康に対する不安」です。

自分の身体には重大な病気がある、または重大な病気になるかもしれないという強い思い込みから不安となり、その不安に対処するために日常生活に支障が出ます。

 

例えば、常に身体のことが気になって仕事や家事が手につかず、胸のしこりを探す、皮膚の色やでっぱりがないか見る、血圧を測る、など不安を解消するための行動をひんぱんにとり続けます。

 

病院で検査を受け、なんともないと言われても納得せずに複数の病院を回り続ける方もいます。これを「ドクターショッピング」と呼びます。

ドクターショッピングも病気不安症の症状の一つです。逆に、いつも「具合が悪い」と言うのに頑なに病院を受診しようとしない人もいます。

 

病気不安症の方は、こんなに健康が心配で深く悩んでいるのに、明らかな身体の症状はないことがほとんどです。

症状があっても、ごく軽い身体のだるさやめまいや耳鳴り、吐き気くらいです。

「何となく調子が悪い」といった、はっきりとしない訴えも多くみられます。

中には、心臓の脈を感じる、汗をかく、お腹が鳴るなど、身体の正常なはたらきが気になる人もいます。

 

 

(2) 病気不安症の原因

 

病気不安症となる原因は、よくわかっていません。

 

「性格的な要因や基礎疾患に環境的な要因が加わるといった複合的な原因も関与している」*2とする精神科医もいます。

 

この場合の「性格的要因」とは、神経質であったり、完璧主義といった性格的な傾向を指します。またストレスや苦痛を無意識のうちに抑え込んだり、

「身体の症状があることで現在直面している問題と向き合わなくて済む」

「具合が悪いと周りの人が心配してくれる=病気でいる方が得(疾病利得:しっぺいりとく)」

といった考え方のクセなども、病気不安症となる一因です。

 

「基礎疾患」として他のメンタル系の病気をお持ちの方も多く、病気不安症の患者さんの80%はうつ病性障害あるいは不安障害を持っているとされています*1。

 

「環境的な要因」とは、急に大きなストレスに見舞われた、忙しくて気持ちに余裕がない、小さい頃に大きな病気をしたことがある、虐待された経験がある、などいろいろな状況が考えられます。

 

 

(3) 病気不安症の診断

 

DSM-V *1に基づいて診断されます。診断に必要な検査などは特にありません。

診断のポイントとなるのは、何といっても症状です。

 

「重い病気にかかっている、またはかかりつつある」という思いにとらわれていること。

また「身体の症状はない、またはあってもごく軽度である」こと。

そして「健康に対する強い不安がある」ことです。

 

これらの症状が6ヶ月以上続き、うつ病や他のココロの病気だけでは十分に説明できない場合に「病気不安症」と診断されます。

 

 

(4) 病気不安症の治療

 

まずは精神科を受診することが最大の治療です。

そもそも病気不安症の方は、ご自分がココロの病気であると思っていないことがほとんどです。

身体の病気を疑って内科など身体に関する診療科を受診したときに、この病気の可能性を伝えて精神科の受診を勧められても、激しい拒否反応を示すことが多くみられます。

その点をなんとかクリアし、精神科へ受診することができれば、症状を和らげる非常に大きな一歩となります。

 

精神科でまず行うのが、医師と信頼関係を構築することです。信頼できる医師に症状がつらいことや不安なことなどをじっくりと聞いてもらえるだけで不安が和らぎ、症状が解消されることすらあります。

 

必要に応じて、考え方のクセを自覚し修正するための認知行動療法や、ストレスを軽くするためにリラクゼーション、マインドフルネス(瞑想)などを行います。

適度な睡眠や運動などの規則的な生活習慣も、不安を和らげるのに役立ちます。

 

うつや不安障害など他の病気が合併している場合は、薬物療法を行うこともあります。

 

 

2.病気不安症と普通の心配の境目〜精神科受診を検討する目安

 

病気や身体のことが気になる人全てが「病気不安症」というわけではありません。今まで経験したことのない知らない症状や、これまでよりも強い症状が突然出たら、何か大きな病気がないか心配するのは当たり前のことです。

また良い仕事をする上でも、常に自分の体調に注意を払い、気になることがあったら早めに病院を受診するのは極めて普通のことです。

 

・病気や健康に対する不安で仕事が手につかない

・いつも何となく調子が悪く仕事を休みがち

・病院受診が頻繁で仕事に支障が出ているのにいつも「正常」「なんともない」と言われてしまう

というように、「病気かもしれないという不安」に対応することが生活の中心となって場合は、ココロの病気の可能性を考える必要があります。

 

 

精神科の受診のコツ

 

精神科というとものすごく敷居の高いところという印象を受ける方が大半かと思いますが、精神科のお医者さんはココロの病気の専門家です。例えばお腹が痛いときは消化器内科、心臓が痛いときは循環器内科というように、ココロの症状は精神科におまかせするのが確実です。

 

精神科の診断は、症状が大きな手がかりとなります。気になっている症状や不安に思うことを正確に伝えるために、メモに控えておくと良いでしょう。

 

また、精神科の場合は特に、医師との相性が大切です。話しやすい医師を見つけましょう。

 

 

 

3.まとめ:病気不安症かな?と思ったら

 

病気不安症を放置することによって、ささいな身体の症状にこだわりすぎ、日常生活に影響が出るようになると、キャリア設計にも影響を及ぼしかねません。相性の合う精神科のかかりつけ医を見つけることができれば、不安な症状が出てもすぐに相談することができ、仕事に支障が出て転職を余儀なくされる可能性も少なくなります。

ここまでのお話で少しでも思い当たることがあれば、精神科の受診を検討してみてはいかがでしょうか。

 

執筆者
名前:本間
プロフィール:日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医。働く人のココロとカラダの健康を守ります。

 

参考資料/参考サイト
*1 ハートクリニック 心気障害
*2 医療法人社団平成医会 健康への過度な不安と精神疾患
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