現在の職場環境に不満がある、給料がよくない、もっと自分の力を活かしたい、など、転職を考える人の理由は様々です。
特に、40代になると社内である程度の責任ある立場になり、同時に自分の今後の会社生活や定年について具体的な想像をする人も多いでしょう。
40代で転職を考えた人、実際に転職した人の動機やその後の生活とはどのようなものでしょうか。
1.40代の退職者の割合と動機
厚生労働省の平成30(2018)年の調査によると、離職する人の数は年齢とともに大きく減少し、
男性では
・40~44歳 8.6%
・45~40歳 7.5%
女性では
・40~44歳 13.4%
・45~40歳 13.5%
となっています(図1、図2)。

図1 男性の年齢別離職・入職率(出所:「平成 30 年雇用動向調査結果の概況」厚生労働省)

図2 女性の年齢別離職・入職率(出所:「平成 30 年雇用動向調査結果の概況」厚生労働省)
この統計では「会社都合」での離職も含まれますので、実際はもう少し少ない割合になるでしょう。
近年では、新卒など若い世代にとって就職は「売り手市場」ですから、職場環境に違和感があると早い段階で転職する社員が多い傾向にあります。
一方で、年齢を重ねるにつれ離職率は低くなっています。
職場に慣れてきたり、仕事内容でもある程度の責任が伴うようになったりする中で、「いずれ転職したい」と考えていながらも、実行に移せないまま時間が経ってしまったり、リスクが気になって思いとどまったりする人が増えていくのが理由だと考えられます。
また、厚生労働省のこの統計によると、40代で転職した人の理由はこのようなものです。
40~44歳では
労働時間、休日等の労働条件が悪かった | 12.6% |
会社の将来が不安だった | 11.2% |
職場の人間関係が好ましくなかった | 11.1% |
45~49歳では
給料等収入が少なかった | 14.4% |
会社の将来が不安だった | 11.6% |
労働時間、休日等の労働条件が悪かった | 7.2% |
(転職入植者が前職を辞めた理由 出所:「平成 30 年雇用動向調査結果の概況」厚生労働省)
「会社の将来」「労働条件」といった、ある程度年齢を重ねたからこそ将来について現実的かつ冷静に見えてくる部分が、転職の決断を後押ししているとも考えられます。
2.転職で収入は上がるのか
ここのところの人手不足の影響もあり、また図1、2をみても離職者の割合と入職者の割合がほぼ同じですので、転職市場そのものは悪くはない状況と言えるでしょう。
ただ、ここからが肝心なところです。
実際に、転職後に収入が上がったという人はどのくらいいるのでしょうか。
こちらは、エン・ジャパンが224人の転職コンサルタントを対象に行なったアンケート調査の結果です。
「転職後に現在よりも収入が上がる人と下がる人では、どちらが多いですか?」との質問に対し、「上がる人が多い」「どちらかというと上がる人が多い」と答えたコンサルタントの割合は7割にのぼっています(図3)。

図3 転職後の年収について(出所:「『ミドルの転職』転職コンサルタントアンケート」エン・ジャパン株式会社)
また、注目すべきは職種と年齢です。
転職後の収入が上がる具体的なケースとして、職種は「経営・経営企画・事業企画系」、年齢層は「40代前半」という結果も挙げられています。
また、年収が下がるのは「営業」、「40代後半」で、業種はいずれも「メーカー」となっています。
コンサルタントを通じた転職であっても、40代前半と後半では、少し違いが生まれています。
厚生労働省の統計でも、転職入職者の賃金変動について、40代の場合では、賃金が増加した人の割合は40~44歳で41.4%、45~49歳では38.9%とやや減少しています*1。
それより高い年代になればなるほど、収入が増えた人の割合は減少しています。
40代の転職は、前半と後半でひとつの分かれ目になっています。
3.企業が求める中途採用者の人物像
また、40代の転職者に対して企業が求める人物像ははっきりしています。
労働政策研究・研修機構の調査では、企業が中途採用を実施する理由についてのアンケートがあります*2。
2016年に正社員の中途採用を実施した企業で、企業側が転職者に求める人物像(複数回答可)
専門分野の一定程度の知識・スキルがある人 | 46.3% |
ポテンシャルがある人 | 30.0% |
若年層の人 | 27.3% |
一定程度のマネジメントの能力・経験がある人 | 21.4% |
幅広い経験がある人 | 18.7% |
平成28(2016)年に正社員の中途採用を実施した企業で、企業側が転職者に求める人物像(複数回答可)
となっています。
ただ、この中で「ポテンシャルがある人」というのは、ある程度までの年齢に限られていることでしょう。
若者の転職活動も多い中で、40代での中途採用となると、「ポテンシャル」が売りになるとは考えにくいからです。
自分が、これまでの経験を元にどのような仕事を提供できるかが明確で、かつ企業の需要に合うものでない限り、収入が上がる転職には繋がらない可能性が非常に高いと言えます。
企業側が40代の転職者に求めるのは、「一定の専門スキルがあり、かつマネジメントの経験や能力がある人」です。
特に、「マネジメント能力」はこの年代の転職者に最も求められる要素でしょう。
若い人と同じ仕事をできるというだけではなんの強みにもなりません。
4.成長なのか現実逃避なのか
ここまで、40代の転職についてみてきましたが、成功する転職とそうでない転職には一定の傾向があります。
「専門性」「マネジメント能力」は前提条件であり、また、スタンスとして、自分の能力を活かし、ステップアップのための転職であるかどうかは基本的な分かれ目です。
「ゼネラリスト」が良いとも限りません。
転職先の企業をよく知り、その企業で「どんな経験に基づいて、何をできるか」を具体的、現実的に提案できる場所でなければ、失敗のリスクは高まります。
また、業界全体の動向も見ておく必要があります。好調な業界であれば、その分収入アップを期待できるでしょう。
一方で、条件だけに目が行き、実際の仕事については漠然としたままの状態で転職活動を行なっても、あまり良い結果は得られないでしょう。
成功する転職は、「キャリアアップが先にありきで、結果として収入がついてくる」形が多いです。
実際、転職を繰り返す人は、ひとつの企業を経験するごとに、一定の専門性の中で多くの経験を積み、「オンリーワン」として自分の市場価値を高めているケースが多く見られます。
転職の理由が「もっと自分の能力を活かしたい」からなのか、「単に現在の環境に不満があるから」なのかでは、真反対の結果になってしまう可能性が高いと言えるでしょう。