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履歴書に虚偽記載をしたらバレる?転職活動では正しく職歴を申告しないと大変なことに

履歴書に虚偽記載をしたらバレる?転職活動では正しく職歴を申告しないと大変なことに

転職や就職の際、必ず提出を求められるのが履歴書です。

企業によっては、履歴書とは別にエントリーシート(ES)を提出することもありますが、面接前の書類選考として、これらの資料を元に検討されることがほとんどです。

 

当然ですが、履歴書は事実を記載しなければなりません。

内定が欲しいあまりに、虚偽の内容を記載するなど言語道断です。

 

履歴書には求職者のこれまでの人生が反映されます。

つまり、転職や就職を考える人は、これまでの自分の仕事や活動について改めて思い返し、限られた文字数で企業側に有効なアピールができるよう、整理しておくことをお勧めします。

 

 

筆者は社労士として、顧問先の採用や人事に関与しています。

これまでに目を通した履歴書の数は、数千枚を超えます。

たかが履歴書と思われがちですが、そこから読み取れる人物像というものは、ほぼ、実際と一致します。

 

これまでの採用経験から、求職活動に際し注意すべき履歴書の書き方や、知っておいてもらいたい記載内容を紹介します。

 

1.実際にあった話、偽りの職歴を持つ求職者

 

昨年の秋、顧問先の不動産会社へ一人の求職者から応募がありました。

この会社では、通年で社員採用を受け付けているため、毎月数名の応募があります。さらに当時は、営業職の補充に力を入れていたため、応募者全員と面接をしていました。

 

そんな中、採用担当者から筆者へ届いたメールには、素晴らしい内容の履歴書が添付されていました。

30代前半のその男性は、大学卒業後から現在まで、名だたる有名企業で働いていました。

 

しかし筆者は、わずかな違和感を覚えました。

企業名と部署名は書かれているのですが、従事していた業務や職務内容がまったく見えないのです。

たしかに履歴書の職歴欄には業務内容まで書く必要はありませんが、自分を売り込みたい人、自分の仕事に自信のある人は、どこかにその片鱗が見えるものです。

 

社労士としての経験上、特に有名企業で働いていた人はその傾向が強いため、それらが一切なかったことに引っかかりを感じながらも、面接当日を迎えました。

 

 

現れた男性は履歴書の写真よりも細身で、ややナーバスな表情をしていました。

そして緊張した面持ちで役員室へ入室してきました。

 

現在、履歴書の職歴欄の最終行に記載のある企業で就業中ということで、早速、従事している業務について尋ねました。

 

「今のお仕事はどのような内容ですか?」

 

「つい最近、部署が異動になったばかりなので、まだ仕事についてお話できることがありません」

 

男性はこのように答えました。

筆者は続けて、

 

「では、これまでの部署のお仕事はどのようなものでしたか?」

 

「パソコンを使った事務作業がメインでした」

 

この返答を聞き、すぐさま男性の履歴書の自己PR欄を読み返しました。そこには、

「(中略)現在までの豊富な営業経験をいかして、貴社でも確実に結果を出します」

と書かれています。

 

筆者は質問を変えました。

 

「これまでに営業経験があると思いますが、どのような企業へ営業に行かれたのですか?」

 

すると、一瞬間を挟んでから、

 

「いつも上司と行動していたので、ちょっと覚えていません・・・」

 

この返答には、さすがに驚きました。

その後も質問を進めるにつれ、色々と辻褄の合わないことが発覚しましたが、役員たちは男性の履歴書に記載された

「複数の大手企業での営業経験」

という文言に惹かれ、内定を出したいとのことでした。

 

採用は経営判断のため、企業の決定に従います。

筆者がその男性の入社準備に着手した矢先、事件は起きました。

 

 

入社時の必要書類として、前職での雇用保険の資格喪失年月日を確認する目的で、離職票を提出してもらいました。

するとそこには、1年前の日付で離職日が記載されており、勤務先の名称も履歴書とは異なる企業が記載されていました。

 

筆者は、採用担当者と相談をし、その男性と再び面談をしました。

そこで根掘り葉掘りキャリアについて確認をしたところ、職歴は全て嘘であることがわかりました。

 

それではなぜ、嘘の企業、しかも大手ばかりを記載したのか尋ねると、

 

「職歴に書いた大手企業で清掃スタッフをしていました」

 

という、予想だにしない答えが返ってきました。

 

職種も業種も全て嘘で、実際は派遣社員として清掃業務に従事していたとのこと。

そして、派遣先の企業名を使い、あたかもそこで勤務していたかのような履歴書(職歴)を作成していたのです。

 

自ら事実を暴露した後、男性のほうから内定辞退の申し出がありました。

実際、この男性の職務遂行能力が低いとは限りませんが、企業に対して虚偽の申告をするような人間を信頼し、仕事を任せることはできません。

 

むしろ、自分の仕事に誇りを持ち、どれほどの技術や経験があるのかをアピールしてくれたほうが、よっぽど採用に近づきますし、人物像の判断材料としても有効です。

 

大手企業に勤務していたということは、ある程度の好材料となる場合があるのも確かです。

しかし、ここ最近の採用事情としては、そのひと個人にどの程度の能力や技術、経験があるのかを重視する傾向にあります。

よって、これまでの勤務先や役職で判断をする、ということはまずありません。

今まで培ってきた仕事のスキルや経験を、存分に伝えてもらうことのほうが、企業にとっては何倍も有益な情報となるのです。

 

2.判例で示される経歴詐称のリスク

 

今から5年前、今回のケースに類似する事件の判決が出ました。

経歴詐称等を理由とする労働者に対する解雇・損害賠償請求が認められた裁判例として、「KPIソリューションズ事件(東京地判平2762)」が有名です。

 

労働者X(以下「X」)が、WEBマーケティングのサービスを提供している株式会社Y(以下「Y」)へ入社する際、提出した履歴書の職歴欄に虚偽の記載がありました。

また、面接時の言動でも経歴等の詐称を否定することなく、さらには賃金の増額を求めたことが不法行為(詐欺)を構成するものとして、損害賠償請求が認められた事例です。

 

この事件の主な争点は、Xの解雇の有効性と、Xによる不法行為(詐欺)の成否およびYの損害についてでした。

 

通常、解雇は

「客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上も相当である」

と判断される必要があります。

そのため、経歴詐称のみを理由に解雇が有効かどうかを判断するには、当該労働者の職種や業務内容が大きな要素を占めます。

 

また、在籍期間の詐称について、短期間で退職を繰り返していたような場合は、労働者の能力等を判断する上での重要事項といえる点からも、それが信義則の義務に反すると解される場合があります。

 

その結果、本件解雇については、企業秩序への危険の程度や労使相互の信頼関係の破綻からみても有効であると判断されました。

 

もう一つの争点となる不法行為(詐欺)に当たるかどうかについて、経歴の詐称が直ちに不法行為として損害を発生させるものではありません。

しかし、Xが事前に申告した職歴、職業上の能力などを詐称しただけでなく、当該申告を前提に積極的に賃金の上乗せを求めたことが、詐欺という不法行為にあたると判断されました。

 

このように、入社前についた嘘や経歴の詐称が発端となり、最終的にXは大きな痛手を負いました。

もちろん、Xが提示した職歴や能力のある人材を求めていたYにとっても、時間的・金額的に大きな損害となりました。

最終的に、労働者も企業も何一ついいことはありませんでした。

 

3.履歴書は人生の鏡

 

転職や就職は人生の転機となります。

そして、できれば希望する企業で働きたいと考えるのが当然です。

しかし、その希望を追求するあまり、履歴書や職務経歴書に嘘を書くなどということは論外です。

 

これまでの職務内容や勤続年数は、求職者にとって大きな武器となります。

前述しましたが、大手企業に勤めていたことで転職が有利に進むとは限りません。

むしろ、その人がどのような仕事に携わってきたのか、どのような人間性の持ち主なのか、それらを生かして自社でどのように活躍してもらえるのか、そういった部分を企業は知りたいのです。

 

この先、転職や副業・兼業を検討している方は、ぜひ、これまでの自身の仕事の取り組みについて整理してみてください。

 

自分は何をしてきたのか、どんなことができるのか――

 

たとえそれが些細な技術や能力、単純な業務内容であったとしても構いません。

これまでの人生を十分に反映させた履歴書やES、職務経歴書を作成することで、転職活動がスムーズに進むだけでなく、自分自身を見つめ直すきっかけとなるでしょう。

 

企業側は、

「見栄や嘘ではなく、魅力ある誠実な人間と仕事がしたい」

と、求職者に期待しています。

 

 

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執筆者 浦辺

早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。

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