情報が氾濫する今の時代、読まれる文章を書くというのは、ビジネスでは必須ともいえるスキルです。
しかし、まともに文章の書き方を習ったという人は、それほど多くはありません。
文章なんてセンスが無いと書けないんじゃないかと思っている人も多いかと思います。
そこで今回は、脳科学や心理学も交えながら、読まれる文章を書くためのコツを紹介します。
履歴書の書き方、上司や顧客へのレポートなど、応用できる分野は数多いと思いますのでぜひ、実践してみて下さい。
1.ちゃんと読んでもらえるはずだという思い込み
多くの人にとって、資料や報告書作りを大変だと感じることは、よくあることです。
ただ、がんばって書き上げた書類も、全部をちゃんと読んで理解してもらえるというわけではありません。
脳は毎秒、四億ビットもの情報を処理しており、そのうち意識的に処理される情報は、わずか二千ビットとされています。*1
つまり、大部分の情報は、無意識的にカットされてしまうということなのです。
脳は、五感から入ってくる情報の全てを処理していると、一瞬にしてパンクしてしまいます。
そこで必要になってくるのが、膨大な情報の中から自分にとって重要な情報だけを選び出すシステムです。
脳の中でこの役目を担っているのが、RAS(網様体賦活系)と呼ばれるものです。*1
何か特別な物事に関心があるときに、それに関する情報に瞬時に反応できるのは、このRASがあるおかげです。
心理学的にも、ある一つの物事に意識を集中すると、それに関連した情報が無意識的に集まってくる現象は「カラーバス効果」として知られています。
このことからも分かるように、いくらこちらが文章を書いても、相手の脳がそれを重要な情報だと判断しなければ、相手は文章の内容をちゃんと理解してくれないのです。
読まれる文章を書くためには、相手の意識がどちらを向いているのかということだけでなく、どれだけ理解しやすい情報であるのかということも重要です。
これは「認知容易性」と言われ、鮮明に印刷された文章、繰り返し出てくる文章、先行刺激のあった文章は認知しやすく、脳内でスムーズに処理されるということがわかっています。*2
このことを考えるのであれば、フォントやレイアウトが見づらかったり、相手にとって馴染みが薄い言葉ばかりを使ってしまうと、相手の理解をさまたげてしまいます。
とりわけ専門的な言葉を含んだ言い回しをする際には注意が必要です。
読まれるようにするためには、情報がスムーズに頭の中に入ってくる必要があり、そうなるためには分かりやすさが必要になってきます。
以上のことを考えると、相手に読んでもらうためのポイントは2つあります。
1つ目が、相手の関心が向いている方向に注意することです。
相手にこちらからの情報を拾ってもらうためには、相手の注意や関心が向いているところに情報を投げ込む必要があります。
2つ目が、表現やレイアウトなどは、分かりやすさにこだわることです。
一目見た時に、何を言いたいのかよく分からないなと相手に感じさせてしまう文章であれば、相手はすぐに読む気を無くしてしまいます。
相手に文章を読んでもらい、かつ、内容を理解してもらうためには、これらのポイントが重要になってきます。
2.コンサルタントに学ぶ採用選考書類の作成テクニック
人気企業の求人ともなると、応募が殺到します。
そのような中で、いかに採用担当者に読んでもらうような応募書類を書き上げるのかが大事になってきます。
そうはいっても、書き方のポイントがわからず、どうすればいいのか迷ってしまう方も多いかもしれません。
そこで参考にしたいのが、就職難易度が非常に高いコンサルティング業界に通る書類です。
具体的に、コンサルタントファームの一つであるマッキンゼーに通る人の書類の共通点を見てみましょう。
共通している部分をまとめると、以下のようになります。*3
①長文でダラダラ書くのではなく、項目立てて読みやすくする。
②得意分野、スキルは、2,3点に絞ってアピールする。
③結果よりも、どのように考えて行動したのかというプロセスに重点を置く。
④貢献できそうなところに的を絞り、余計なことは書かない。
それでは、これらの項目の何がすごいと言えるのでしょうか。
まず、項目立てて読みやすくするというのは、認知容易性が高まり、相手に受け入れられやすくなります。
また、人間が一時的に脳に保持できる情報のまとまりは「チャンク」と呼ばれていますが、このチャンクは3つくらいが限界だと言われています。*4
つまり、たくさん書きすぎてしまうと、記憶に残らなくなってしまうので、読み手の記憶に残りやすいように3つ程度に絞るわけです。
さらに、プロセス重視でまとめるのは、活躍できる人材であることをアピールするためです。
採用担当者が興味があるのは、「会社の利益に貢献してくれる人なのか」ということです。
結果のみのアピールだと採用担当者は、
「単に運が良かっただけなのではないか?」
「周囲のサポートがあったから出せた結果なのでは?」
と感じてしまうことがあるかもしれません。
「この人なら、うちでも活躍してくれそうだ」
と思ってもらうためにも、結果を出すまでのプロセスを明らかにし、働く場所が変わっても活躍できる人材だということをアピールするということが大事になってきます。
3.メールや報告書で意識したい書き方
デスクワークが中心の仕事ともなると、一日に大量のメールをやり取りしたり、頻繁に報告書を作成したりすることがあります。
そのような時に、どんなふうに書こうかと悩んでいては、生産性が上がりません。
そこで、よく使われる「型」を使えば、効率よく相手に読んでもらえる文章を書き上げることができます。
ビジネスでよく使われるのが、PREPと呼ばれる文章の型です。
PREPとは、P(Point、結論)、R(Reason、理由)、E(Example、具体例)、P(Point、結論)の4つで構成されています。
ビジネスではスピードが要求されますので、最初に結論を持ってきます。
そして、その結論を出すに至った理由や具体例について述べます。
最後に再度、結論を述べて締めくくります。
PREPは非常にシンプルであり、使いやすい型ではないでしょうか
PREPには、以下に示す優れた特徴があります。
①初頭効果や終末効果をうまく利用している
心理学的には、最初の部分や最後の部分というのは記憶に残りやすいということが知られており、それぞれ初頭効果、終末効果と呼ばれています。
PREPでは、最初と最後の部分に重要な結論を持ってくることで、こちらの言いたいことが相手の記憶に残りやすいようになっています。
②全体像と詳細をうまく捉えている
人によっては、物事の全体像を大雑把に把握する人もいれば、具体的かつ詳細に把握しようとする人もいます。
PREPでは、全体像を示しつつも具体例も示すことで、どちらのパターンの人にも対応できるようになっています。
③脳全体に働きかける
PREPにおいて、理由を示す部分は論理的であり、脳でいえば左脳が対応する部分です。
一方、具体例を示す部分はイメージがわいてくるので、右脳的です。
このように、脳全体を使って情報を伝えようとするため、相手に情報が伝わりやすくなります。
PREPは一見すると、あまりたいした印象は受けないかもしれませんが、シンプルさとは裏腹に、心理学や脳科学が巧みに使われています。
PREPは、このような特徴を有しているため、伝えたいことが効率よく相手に伝わります。
さらに、PREPが使えるのは、メールや報告書だけではなく、プレゼンや会話にも使えます。
なかなか言いたいことをまとめられないという人や、思うように伝えられないという人も、「型」を使えば伝えやすくなります。
型に沿った文章というのは、論理的で読みやすく、読み手の記憶にも残りやすいものです。
どうしてもメールや報告書の作成に時間がかかってしまうという人は、PREPを取り入れてみてはいかがでしょうか。
4.こちらが思ったことをそのまま文章にするだけではダメ
お客様に渡す提案書や資料でありがちなのが、相手のことをよく考えていない文章になってしまうことです。
ひたすら押し売りするような形になってしまうと、相手から断られ続けてしまい、心が折れそうになることもあるでしょう。
営業なんて苦手だという方でも、ポイントを押さえれば相手に振り向てもらえるようになります。
相手から「イエス」を引き出しやすくするためには、3つのステップがあります。*5
ステップ① 自分の頭の中をそのままコトバにしない
最初のステップは、「自分の頭の中をそのままコトバにしない」ことです。
ちゃんと言わないと伝わらないんじゃないかと感じるかもしれません。
しかし、ちゃんと言ったところで、相手がメリットを感じなければ反応してもらえません。
あまりにも自分都合な言葉だと、相手から嫌われてしまいます。
ステップ② 相手の頭の中を想像する
言いたいことは一旦横において置き、次のステップは「相手の頭の中を想像する」ことです。
コミュニケーションは相手がいて初めて成立しますので、相手のことをよく考えるのは重要です。
何が好きで、何が嫌いなのか、積極的か、消極的か、どんな価値観を持っているのかといったことを考えます。
そうすることで、どのように働きかければ相手は反応してくれるのかが分かってきます。
ステップ③ 相手のメリットと一致するお願いをつくる
最後のステップが、「相手のメリットと一致するお願いをつくる」ことです。
相手とWin-Winの関係を築くといえば、分かりやすいかもしれません。
相手が動いてくれないというのは、こちらから伝えたい内容が相手にとってWinではないからです。
ちゃんと相手のメリットに合うような形で提案ができるようになれば、相手は興味を示し、動いてくれるようになります。
これらの3つのステップを踏めば、相手に読んでもらえる提案書や資料を作れます。
お客様に向けて文章を書く際には、ぜひとも意識されてみてはいかがでしょうか。
*2 参考)「ファスト&スロー」ダニエル・カーネマン著 P110,111
*3 参考)プレジデント2013.4.1号「図解資料の作り方」P88~91
*4 参考)「篠原式勉強脳の作り方」篠原菊紀著 P46,47
*5 参考)「伝え方が9割」佐々木圭一著 P56~61