社会人として、ある程度の経験を積んでくると、ふと「このままで、いいのだろうか?」と疑問がわいてくることがあります。
このままキャリアを積み上げていくのか、それとも、新しいことにチャレンジするのか。「もし後悔するようなことになったら…」と不安になることもあるかも知れません。
そこで今回は、後悔を残さず、満足のいく決断をサポートしてくれるキャリア理論とキャリアプランの立て方についてご紹介します。
ぜひ、新たな生き方を考える上での参考にして下さい。
1.自分の適性や価値観を知る
社会人になったばかりの頃というのは、仕事を覚えることで頭がいっぱいで、他のことを考えている余裕がありません。
しかし、30代になってくると、ある程度の経験やキャリアも積んできて、仕事に対する不満も出始めます。
転職を考える方もいらっしゃるでしょうが、転職するともなると、かなりの決意と覚悟も必要であり、よほどのこと。
実際に転職に踏み切った人の転職理由について、大手転職サイトのリクナビNEXTが行ったアンケート調査によると、以下のような結果が得られました。
1位 |
上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった |
23% |
2位 |
労働時間・環境が不満だった |
14% |
3位 |
同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった |
13% |
4位 |
給与が低かった |
12% |
5位 |
仕事内容が面白くなかった |
9% |
6位 |
社長がワンマンだった |
7% |
7位 |
社風が合わなかった |
6% |
8位 |
会社の経営方針・経営状況が変化した |
6% |
9位 |
キャリアアップしたかった |
6% |
10位 |
昇進・評価が不満だった |
4% |
引用)リクナビNEXT「転職理由と退職理由の本音ランキングBest10」から引用し一覧化
実際に転職に踏み切った理由の大半は、人間関係に関するもので、キャリアアップしたかったという理由は、あまり多くありません。
ただ、人間関係が嫌だったからという理由で転職をしてしまうと、転職先でも同じような問題が起きてしまう可能性があります。せっかく転職したにもかかわらず、転職先の職場でも同じことになってしまわないかどうかは、注意が必要です。
そのうえで、転職するのかどうかを決める際に、何を判断基準にするのかというのが重要になってきます。給与や仕事内容など、検討すべき項目はたくさんあるかもしれませんが、とりわけ重視したいのが、適性と価値観です。
30代での転職ともなると、ゼロから育ててもらうというわけにはいきませんので、それなりの能力が求められるようになってきます。即戦力としての期待を持たれることもあるので、適性がないと、仕事で思うように結果を出せません。
また、適性があり、ある程度の成果を出せたとしても、価値観が満たされていないと、満足感が得られません。「何か違う」と違和感が出てきてしまい、そうなってしまうと、違和感を解消するために、何度も転職ということになりかねません。
だから、自分の適性と価値観の両方を知ることが大事になってきます。適性や価値観が最も満たされた選択肢が、最良の選択肢ということになります。
2.適性を知るためのホランドの6つのタイプ
適性を知るためには、職業心理学者のホランドの理論が重要です。
ホランドは、職業に関するパーソナリティを6つのタイプに分類しています。職業に関しても、同じように6つのタイプの組み合わせで分類されており、このマッチングがうまくいくほど、その職業は、その人の合ったものだと考えられます。
R |
現実的
(Realistic) |
物、道具や機械、動物などを対象とした、明確で、秩序立った、かつ体系化された操作を伴う活動を好む傾向を示す。 |
I |
研究的
(Investigative) |
物理学的、生物学的、文化的諸現象を対象とした、実証的、抽象的、体系的および創造的に研究する活動を好む傾向を示す。 |
A |
芸術的
(Artistic) |
芸術的作品の創造を目的とした、物理的素材、言語的素材、あるいは人間自身などを巧みに扱うことが必要な、あいまいで、自由で、体系化されていない活動を好む傾向を示す。 |
S |
社会的
(Social) |
他者に影響を与えるような、情報伝達、訓練や教育、治療や啓蒙のような活動を好む傾向を示す。 |
E |
企業的
(Enterprising) |
組織的目標の達成や経済的利益を目的とした他者との交渉を伴う活動を好む傾向を示す。 |
C |
慣習的
(Conventional) |
資料を系統的、秩序的、体系的に扱うことを必要とする活動(簿記、ファイリングなど)を好む傾向を示す。 |
引用)「新時代のキャリアコンサルティング」、労働政策研究・研修機構編著 P31から引用し一覧化
この6つの要素を図で表したものが、次に示すホランドの六角形と呼ばれるものです。隣り合っている要素同士は親和性が高く、対角線上にある要素同士は相反する傾向にあると言われています。

引用)「新時代のキャリアコンサルティング」、労働政策研究・研修機構編著 P32
また、この6つの要素の配置について詳しく見ていくと、「モノ」対「ヒト」、「データ」対「アイディア」という軸が浮かび上がってきます。
モノ、ヒト、データ、アイディアという仕事上で扱う対象による分類でみると、ヒトの軸を持っているのが社会的、モノとアイディアの軸を持っているのが研究的というように、6つの要素がどんな軸上にあるのかが分かります。
自分は、データを扱うのが好きなのか、それともアイディアを扱うのが好きなのか、あるいは、ヒトと接するのが好きなのか、モノを扱う方が好きなのかを考えれば、およその方向性が見えてきます。
自分の適性をもっと詳しく知りたいという場合には、ホランドの理論は、職業適性検査に取り入れられていますので、そちらで確認することができます。
3.価値観を知るためのシャインのキャリア・アンカー
適性以外にも、価値観が満たされているのかどうかも、非常に重要です。自身の価値観について知ることができれば、どうすれば自分は一番満たされるのかが分かります。
それには、組織心理学者であるシャインのキャリア・アンカーという考えが役に立ちます。キャリア・アンカーとは、自身の強み、モチベーション、価値観からなるセルフイメージのことです。
具体的なキャリア・アンカーは、次の8つに分類されます。
1 |
専門・職種別コンピテンス |
自分の専門性や技術が高まること |
2 |
全般管理コンピテンス |
組織の中で責任ある役割を担うこと |
3 |
自律と独立 |
自分で独立すること |
4 |
保障、安定 |
安定的に1つの組織に属すること |
5 |
起業家的創造性 |
クリエイティブに新しいことを生み出すこと |
6 |
奉仕・社会献身 |
社会を良くしたり他人に奉仕したりすること |
7 |
純粋な挑戦 |
解決困難な問題に挑戦すること |
8 |
生活様式 |
個人的な欲求と、家族と、仕事とのバランス調整をすること |
引用)「新時代のキャリアコンサルティング」、労働政策研究・研修機構編著 P92~93から引用し一覧化
学生時代や社会人になったばかりの頃というのは、仕事を通して十分な経験を積んでいないこともあり、まだあまり価値観がはっきりしないことがあります。しかし、30代ともなり社会人経験を積んでくると、自分の価値観がだんだんと分かるようになってきます。
自分の価値観を知ることは、自分に合った仕事を選ぶうえで、非常に重要です。
4.ハローワークでも適性検査を受けられる
適性や価値観を、客観的に一目でわかるようにしたいときにお勧めなのが、適性検査です。適性検査というと、採用選考に用いられるイメージがありますが、仕事を探すうえで一番手軽に適性検査を受けることができるのが、ハローワークです。
事前に予約が必要ですが、無料で受けることができます。ハローワークごとに、どんな検査を受けることができるのかは異なりますが、おもな検査をまとめたものが次の表です。
一般職業適性検査
(GATB) |
15 種の下位検査(紙筆検査 11 種、器具検査 4 種)から 9 種の適性能(言語能力や数理能力など)を測定します。これらの適性能と適性職業群を比較することで、職業選択のための情報を得ます。 |
VPI職業興味検査 |
6つの興味領域(現実的、研究的、芸術的、社会的、企業的、慣習的)尺度と5つの傾向(自己統制、地位向上など)尺度から、職業興味や職業認知における心理的特徴が得られます。 |
キャリア・インサイト |
利用者自身がコンピュータを操作して、適職診断や職業情報の提供、キャリアプランニングを行えるシステムです。 |
参考)「キャリアコンサルティング 理論と実際」、木村周著 P235~238をもとに作表
この他にも多数の適性検査がありますが、おもなものは上記の3つです。自分の意外な一面に気づくこともありますので、なんとなく仕事を選んでしまっているという方は、一度受けてみることをお勧めします。
5.適性と価値観をもとにキャリアプランを立てる
自分の適性と価値観が分かれば、次は具体的なキャリアプランを立てます。自分の適性を生かし、価値観を満たしながら、どのように収入を得ていくのかを考えます。
選択肢としては、今の仕事を続けてキャリアアップを目指すということや、転職だけでなく、副業、起業という選択肢もあります。
特に最近では、働き方改革の影響もあり、副業もやりやすくなってきています。キャリアアップとして、いきなり転職や起業はハードルが高いと感じる方は、まずは副業からやり始めてみるというのもいいかもしれません。
また、どの選択肢を取るのかによっても、相談相手が変わってきます。転職するのであれば、ハローワーク以外にも、転職エージェント に相談することもできます。副業、起業に関しては、税金や経理のことが絡んできますので、税理士に相談することになるでしょう。
いずれにしても、適性と価値観が満たされているというのが大前提です。
自分の仕事をどうしていこうかで迷った時には、ぜひとも自分の適性と価値観がどうなっているのかを調べてみてはいかがでしょうか。