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コロナ禍の離職で転職活動を始める前に 休業手当をもらえなかった時に使える制度とは

コロナ禍の離職で転職活動を始める前に 休業手当をもらえなかった時に使える制度とは

一時に比べ、小康状態を保っているかのような新型コロナウイルス感染症の拡大。

しかし、景気減速による市場規模の縮小を受け、離職を余儀なくされた労働者は63,347人が見込まれます*1102日現在)。

 

離職は労働者にとって生活を脅かす非常事態ですが、事業主にとっても大きなダメージとなります。

雇用の維持に尽力するも、営業自粛からの減収・減益など、雇用調整やむなしの状況は続きます。

 

そして労働者を休業させる場合、事業主に「休業手当」の支払い義務が生じます。

 

労働基準法第26条は、

「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」

と定めています。

 

「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たるか否かは、休業の原因や使用者の休業回避努力の状況などを総合的に勘案し判断されます。

 

判例では、

・親会社の経営難から下請工場が資材、資金の獲得ができず休業した場合(昭和23.6.11基収1998号)

・会社が業務を受注できなかったために休業となった場合(東京地判平11.5.21労判776-85

などが、使用者の責に帰すべき事由と判断されています。

 

 

一方で、「天災事変等の不可抗力の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらない」とされており、

その原因が事業の外部より発生した事故であること

事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること

この2つの要件を満たすものでなければならない、と解されています*2

 

過去の事例では、東日本大震災について、

「休業の原因が事業主の関与の範囲外のものであり、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故に該当すると考えられる*2

とされ、当該震災による休業は、使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しない、という見解でした。

 

これらの判例や見解を参照した上で、今回の新型コロナウイルス感染症による休業が「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たるかどうかの判断は、非常に難しいものであると感じます。

 

この判断の狭間に翻弄された、事業主と労働者についての事例を紹介します。

 

1.会社は休業を命じていない

 

介護事業所Aでパートタイム労働者として勤務するXさんから、社長へ連絡がありました。

 

数日前に行動を共にした友人が、新型コロナウイルス感染症に感染していたことが分かり、濃厚接触者となるXさんも保健所で検査をしてきたとのこと。

 

その時点ではまだ検査結果は出ていませんが、いずれの結果であってもしばらく欠勤となるため、その説明を社長にしたそうです。

 

筆者は社長から、

「先ほど保健所からも電話があり、うちは高齢者が集まる介護事業所のため、Xさんを2週間ほど出勤させないでほしいとの要請がありました」

と報告を受けました。

 

さらに、

「この休業に対して、休業手当を支払う必要はないですよね?」

という質問が続きました。

 

人手不足の介護事業所Aにおいて、パートタイム労働者とはいえ、Xさんの存在は貴重です。

それにもかかわらず、検査結果が陰性であっても保健所からの要請があるため、2週間は出勤停止となります。

 

仮に、保健所の要請を無視してXさんを出勤させたことで、高齢の利用者に感染し重症化してしまった場合、企業責任を問われる可能性があります。

その懸念がある以上、保健所の要請に従わざるをえません。

 

果たしてこれが、「使用者の責に帰すべき事由による休業」となるのでしょうか。

 

社長へは、「休業手当を支払ったうえで雇用調整助成金を活用すること」を提案しました。

しかし、

「あくまで保健所からの要請による休業であり、使用者の責に帰すべき事由ではないと思います」

という社長の考えは固く、休業手当の支払いは困難でした。

 

Xさんは、新型コロナウイルス感染症による休業のため、「休業手当がもらえる」と思っており、考えが食い違う社長との間で軋轢が生じました。

 

その結果、Xさんから退職届が送られてきました。

 

2.新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の活用

 

筆者は社長に、「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金制度*3」について説明し、Xさんへ制度に関する情報提供と、支援金申請の打診を勧めました。

 

この支援金は、新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止のための措置の影響により、中小事業主に雇用される労働者が、事業主の指示により休業(41日から930日までの期間)し、休業中に休業手当を受けることができなかった場合に支給されます。

 

支援金額は、休業前の平均賃金の8割(日額上限11,000 円)とされ、労働者本人の金融機関口座へ振込まれます。

 

申請書類には事業主による記入欄もありますが、事業主の協力が得られなかった場合や事業所の倒産等で事業主と連絡が取れない場合は、その事情を記入することで、所轄労働局から当該事業主へ直接確認が行われます。

 

「新型コロナウイルス感染症対応支援金・給付金」は、退職後でも遡って申請することができます。

しかし、ハローワークで雇用保険の基本手当を受給している場合、その受給期間中は支援金の対象になりません。つまり、離職前の休業期間についてのみ、申請が可能です。

 

実際にXさんは求職活動を行っており、基本手当も受給していました。

それでも、在籍期間中の休業期間に対する支援金の申請ができることを伝えると、喜んで書類作成に取りかかったそうです。

 

 

この事業所Aのように、保健所や都道府県から休業の要請があったにもかかわらず、「使用者の責に帰すべき事由による休業」とすることに納得がいかないため、休業手当の支払いを拒む企業は少なくありません。

 

また、雇用調整助成金の活用ができるとはいえ、企業へ助成金が振込まれるまでの期間として2か月ほどかかるため、そこまでの資金繰りが難しいという理由から、対応をスルーしてしまう企業も見受けられます。

 

さらに、雇用調整助成金は「売上高または生産量が前年同月(特例措置あり)比で5%以上減少していること」という条件があるため、売り上げが低下していない場合は、当該助成金の受給はできません。

 

このような理由からも、雇用調整助成金の申請は伸び悩んでいました。

しかし、これらを受けて6月に、よりスムーズかつ労働者本人からの申請により受給できる支援金として、「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」が新設されました。

 

雇用調整助成金は企業による申請・受給ですが、この支援金であれば労働者自らによる申請・受給ができるため、ぜひともチェックしてもらいたい制度です。

 

 3.求職活動中における離職者の特例

 

前出のXさんのように離職後すでに求職活動を行っている場合でも、離職理由によって基本手当の受給日数が60日(一部30日)延長される特例が設けられました*4

 

この特例により、新型コロナウイルス感染症の影響で離職を余儀なくされた失業者は、通常よりも長期間にわたる基本手当の受給が可能になりました。

 

また、自ら退職を申し出た場合でも、

・本人の職場で感染者が発生したこと

・同居の家族が基礎疾患を有すること

・妊娠中であること

・高齢であること

これらの理由により、感染拡大防止や重症化防止の観点から自己都合離職した場合、「特定受給資格者」として、基本手当を受給する際の給付制限がなくなり、所定給付日数が手厚くなる特例措置も発表されました*5

 

新型コロナウイルス感染症の影響は、未だ収束の目途が立ちません。

しかし、生活を維持するためにも、社会経済活動を止めるわけにはいきません。

 

とくに求職活動中の人にとって、再就職先を決めることが最優先の課題ですが、それまでの間の収入確保も重要な問題でしょう。

 

前職の離職理由が新型コロナウイルス感染症によるもので、在籍期間中の休業について何らかの支払いがなかった場合は「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」の活用を、そして、基本手当の受給に関して要件に該当する場合は、ハローワークの担当者へ相談してください。

 

参照データ
*1参考:厚生労働省/新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について(9月11日現在集計分)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000671470.pdf
*2参考:厚生労働省/地震に伴う休業に関する取扱いについてA1-4
https://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/koyou_roudou/2r98520000017f9e.html
*3参考:厚生労働省/新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金
https://www.mhlw.go.jp/stf/kyugyoshienkin.html#limit
*4参考:東京労働局/新型コロナウイルス感染症等の影響に対応した給付日数の延長に関する特例について
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/newpage_00583.html
*5参考:東京労働局/新型コロナウイルス感染症に伴う雇用保険求職者給付の特例について
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/newpage_00577.html
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執筆者 浦辺

早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。

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