グローバル化が進む中、海外への就職を考える人が増えています。
海外で働くといえば、一昔前なら、日本企業の駐在員として滞在する形が一般的でした。
ところが、駐在員が減るのと同時に、最近増えているのが、「現地採用」と呼ばれる現地正社員です。
人材派遣大手パソナの2020年の調査によると、海外で直接現地企業や、現地の日本法人に雇用される「現地採用」=「現地正社員」は全地域で増加する見込みです。
ただし企業の「駐在員」は東南アジア及びインドでは増加、東アジアでは減少の傾向にあります。(*1)
現地採用を目指す理由は、人それぞれです。
「語学力を身に付けたい」「世界で働ける能力を身につけたい」「海外で働いてみたい」など、いろいろな理由があります。
今回は、日本人にどんな求人があるのか、どんな風に就職活動をするのが一般的かを、主にマレーシアでの取材や経験を通してお話します。
1.東南アジアにはどんな求人があるのか
「現地採用」と一口にいっても、いろいろな形態があり、その実態は千差万別です。
現地のローカル企業や外資系企業が日本人を採用するケースもあれば、日本企業や日系企業が現地と日本本社の橋渡しとして、現地で日本人を雇う場合もあります。
社風や社内の雰囲気は、それぞれの国の慣習や中で働く人がどんな人たちかによっても異なります。同じ会社でもローカル主体のところと、日本人がほとんどの職場では、雰囲気が異なります。
工場のマネージャーや、秘書、営業、メディアなど、業務内容はさまざま。
また、伝統的な日本企業では、管理職のサポート業務などを期待するケースもありす。
2020年現在は、コロナのため、求人数は極端に減っていますが、その直前まで、マレーシアの日本人向け求人で増えていたのが、 BPOやSSCと呼ばれる企業です。
BPOとは、Business Process Outsourcing ビジネスプロセスアウトソーシングの略。企業が自社の業務を、外部企業に委託することです。
委託するのは、カスタマーサポートや、経理、システム開発、マーケティングなどさまざまですが、マレーシアの日本人向け求人の中では、このBPOが最近急激に増えています。
仕事の内容は、カスタマーサポートが有名です。
このほか、ITサポート関連、システム開発などさまざまですが、最近では、SNSのコンテンツ・チェックといった業種も登場しています。
仕事内容は、委託先企業の規定に従うことが多いようで、内容が明かされることは少ないのですが、誰もが知るような有名企業もあります。
SSCは、Shared Service Center(シェアードサービスセンター)と呼ばれるもので、グループ内の共通業務を行います。こちらは人事や法務・経理が多いです。
さて、日本人を求人する場合、たいてい求められるのは、日本人・または日本語スピーカーです。
英語ができれば優位ですが、できなくてもできる仕事もあります。
ただし、マニュアルが英語だったり、研修が英語だったりすることもあります。
なお、日本人を雇う理由には、日本的な気を使った対応や、日本の商慣習に基づいた対応を、日本以上に求められることがありますので留意が必要です。
2.エージェントを経由して応募するのが一般的
では、どうやって就職活動をすればいいのでしょうか。
ここでは、例として、マレーシアの現地企業に直接採用してもらうケースをご紹介します。
まず、応募は「人材紹介会社」に登録するのが一般的です。
人材紹介会社のホームページやメールなどで、自分のスキル(英語力や学歴など)や働きたい国、条件などを登録しておくと、適当な仕事があったときにコンサルタントがメールをくれることがあります。
また、会社によっては、日本で説明会を開いたり、面接のアドバイスや、生活面の相談にのってくれるところもあります。
応募することが決まれば、先方の会社に英文の職務経歴書と履歴書を送ります。
スタイルは日本の履歴書とかなり違うので、インターネットなどを参照に綴りミスがないように書きます。
この段階で、うまくいけば面接にいきます。
応募者が日本にいる場合、スカイプで行われることも多いです。
面接は日本語で行われることも、英語で行われることもあります。
人材紹介会社の中には、模擬面接をしてくれるところもあるそうです。
合格となれば、企業からオファーレターと言われるドキュメントが出ます。
そうしたら、今度は就労ビザの申請です。
私が住むマレーシアの場合、実はここが最もハードルが高くなっています。
マレーシアの就労ビザは、その会社が何故日本人を雇う必要があるのか、その人がしかるべき経験を持っているかを厳しく見られます。
なお、関連する学歴がないとビザが降りないこともあるので、注意が必要です。
近年、せっかく会社が採用通知を出しても、学歴などの面でビザが降りず、断念してしたケースも見られます。
どの人が降りて、どの人が降りないのか、と言うことについても、今一つ外からわかりにくいこともあります。
そして、この就労ビザが出るまでは1ヶ月以上かかることがあります。
通常日本で待機し、イミグレーションからの承認がおり次第、マレーシアに行って働き始めることになります。
このとき、マレーシアに住んでいる人も、いったん日本に帰らなければならないことがあるので、注意が必要です。
私の場合も、いったん日本に帰って待機し、1ヶ月くらいして、入国許可が出ました。
こんな感じで、就職活動にも、日本と違ってかなり時間がかかるのが現実です。
なお、このときの航空券代などは会社が持ってくれる場合も、自己負担となる場合もあります。
事前に確認しておくと良いでしょう。
3.新卒の就職活動は難しいことも
また、注意しなくてはならないのは、多くの国で、外国人を雇うには、正当な理由が必要となることです。
外国人の最低給与額が決まっており、給与額的には、管理職相当となるケースが多いのです。
誰でもできるような、店員などの求人は日本人向けにはほとんどなく、ビザも降りにくいと考えた方が良いでしょう。
ビザのところでも触れましたが、意外に必要となるのが学歴です。
多くの国では自分の国の国民の雇用を優先しています。
そのため、外国人に限って、大卒以上などの学歴を必要とされることが多いのです。
シンガポールでは、早稲田大学や慶應大学卒の30歳の日本人の場合、月給が50万円以上ないと専門職のビザが降りなくなってます(*2)。
マレーシアでも、四年生大学の卒業資格がないと、ビザが降りないことが増えてきました。
ただし、業界によっては、高卒や新卒でもビザが降りることがあるようなので、諦めずに、エージェントに相談してみても良いでしょう。
また、新卒の就職活動も、日本より少し厳しくなります。
ビザの条件に職歴が必要となることも多く、大学を卒業したばかりだと採用OKになっても、ビザが降りないことがあります。
ただし、IT企業やBPOなどは優遇もあります。
ですので、ある程度日本で職歴を積んでから、同じ職種で海外就職を目指す人もいます。
海外特に新興国ではビザの状況や、法律がよく変わりますので、最新情報はエージェントに問い合わせてみるのが良いでしょう。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000793.000016751.html
*2出典 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63888630V10C20A9FFE000/

プロフィール:早稲田大学法学部卒業。損保会社を経て95年アスキー入社。マレーシア渡航後は、現地オンラインメディア「マレーシアマガジン 」編集長。著書に「日本人には「やめる練習」が足りていない」(集英社)「いいね!フェイスブック」(朝日新聞出版)ほか。