新型コロナウイルス感染症の流行にともない、マスクの着用を従業員に義務付けている職場も増えています。
しかし、マスクの着用時間が長くなると、暑さや息苦しさのほか、肌の赤みやニキビなどの肌トラブルが生じやすくなります*1。

引用)小林製薬「企業情報>ニュースリリース一覧>ニュースリリース2020>小林製薬 2020年7月 マスクの使用実態調査」*1(https://www.kobayashi.co.jp/corporate/news/2020/200731_01/index.html)
そこで今回は、マスク着用による悩みの中から特に“肌トラブル”に焦点を絞り、赤みやニキビなどが生じる原因と、ケア方法などを解説します。
1.マスクで肌トラブルが生じる原因
マスクの着用で肌トラブルが生じる原因は、大きく分けて4つあります。
①摩擦
マスクの脱着時やズレを直す際には、どんなに気をつけても肌とマスクの間で摩擦が起きてしまいます。
そして、摩擦により肌表面の角質層にキズがつくと、肌のバリア機能(水分の蒸発を防いだり、異物の侵入を防いだりする機能)が低下して、ちょっとした刺激にも敏感に反応するようになります。
結果として、赤みやかぶれ、吹き出物などが生じやすくなります。
②蒸れ
マスクの内側は呼気がこもるため、湿度も温度も高い状態になっています。
皮膚の温度が上昇すると、汗をかきやすくなるだけではなく、皮脂の分泌量も増加します。
それにともない、コメド(吹き出物になる前の毛穴詰まり)の数が増えることも明らかになっています*2。
左:皮脂量と気温・肌温度の関係 右:皮脂量とコメド数の関係

引用)資生堂「SHISEIDO GINZA TOKYO>BEAUTY TOPIX>熱中症リスクが上がる夏、マスクの下の肌状態は?」*2(https://brand.shiseido.co.jp/beauty-topics_20aw_ultimune_02.html)
また、高温多湿は雑菌が好む環境でもあります。摩擦によるバリア機能の低下も相まって、長時間マスクを着用すると、吹き出物が生じやすくなります。
③乾燥
乾燥はマスクの着用とは無関係と思われがちですが、マスク装着時ではなく、マスクを外した際に肌の乾燥が起きやすくなります。
マスクを外すと、汗や湿気とともに肌の水分が奪われて乾燥し、かさつきやごわつきが生じやすくなります。バリア機能が低下していると、肌の乾燥はさらに進みやすくなります。
④マスクそのものによる刺激
不織布マスクは、長時間使用するとマスクの表面が毛羽立ってきます。また、布マスクやウレタンマスクであっても、マスクの素材が肌への刺激となったり、洗濯後に残るわずかな洗剤が肌を刺激したりすることもあります。
このような物理的刺激が原因となり、肌の赤みやかゆみが生じることもあります。
2.マスクで肌が荒れた場合のケア方法
マスクによる肌荒れを防ぐためには、保湿ケアをして肌のバリア機能を保つことが重要です。
ここでは、肌トラブルの原因ごとに、普段の保湿ケアにプラスすると良い方法を紹介します。
①摩擦
マスクによる摩擦が気になる場合は、赤みやかゆみの生じている部分にワセリンを少量塗るのがおすすめです。
べたつきが気になる場合は、指先で軽く温めてから使用すると伸びが良くなるため、塗る量を減らせます。
また、マスクの大きさや形、素材を変えるのも選択肢のひとつです。
大きすぎるマスク・きつすぎるマスクもまた、摩擦の原因となります。
そして、一般的に不織布マスクよりも天然素材のマスクの方が肌へのあたりがやさしく、摩擦による肌荒れが生じにくいため、綿やシルク素材のマスクを選ぶのも方法のひとつです。
職場でマスクの指定がない場合は、顔にフィットするやわらかめのマスクを選ぶようにしましょう。
②蒸れ
蒸れ対策としては、汗をふくことをおすすめします。ただし、汗をふいたら保湿ケアも同時に行いましょう。
マスクを外すと肌が急激に乾燥するため、保湿ケアも重要です。
吹き出物ができてしまっている場合は、可能な限りこまめにマスクの交換をしましょう。マスクの表面についている雑菌が、吹き出物の症状をさらに悪化させる可能性があります。
マスクの交換が難しい場合は、マスクと顔の間に薄いガーゼをはさみ、ガーゼだけをこまめに交換するという方法でも良いでしょう。
③乾燥
乾燥対策としては、蒸れにくい素材のマスクを使うのがおすすめです。
マスク内の湿度をおさえれば、マスクを外した時の急激な乾燥をおさえられるからです。もちろん、マスクと顔の間に薄いガーゼをはさみ、こまめに交換するのも良い方法です。
女性であれば、化粧直しのタイミングで保湿ケアをすると良いでしょう。
皮膚の薄い口まわりだけでもケアすると、乾燥による肌荒れを減らせます。
スプレータイプの化粧水で保湿ケアをするのもおすすめです。
④マスクそのものによる刺激
マスクそのものが刺激になっている場合は、マスクのサイズや素材を変えるだけで肌トラブルが解消しやすくなります。
不織布マスクは、摩擦が起きやすいだけではなく肌への刺激が強く、毛羽立ちもしやすいというデメリットがあります。
また、繰り返し使用できるウレタンマスクも、肌質によってはかぶれやかゆみが生じることがあります。
可能ならば、天然素材の綿やシルクのマスクで肌荒れを防ぎましょう。
マスクの種類を選べない場合は、ガーゼなどをはさんで肌への刺激を防ぎましょう。
メリット | デメリット | |
不織布マスク | ・ 飛沫を防ぐ効果が比較的高い*3。 ・ 汚染されたものは使い捨てできる。 |
・ 吸湿性が低い。 ・ 蒸れやすい。 ・ 摩擦が起きやすい。 ・ 再利用できない。 |
綿やシルクなど天然素材のマスク | ・ 肌への刺激が少ない。 ・ 吸湿性が高い。 ・ 通気性が良い。 ・ 繰り返し使える。 |
・ 飛沫を防ぐ効果が低い*3。 ・ 洗濯が不十分だと肌荒れの原因になる。 |
ウレタンマスク | ・ 通気性が良い。 ・ 繰り返し使える。 |
・ 飛沫を防ぐ効果が低い*3。 ・ 素材自体が肌への刺激になることがある。 |
3.マスク焼けや耳の痛みにも要注意!
マスクによる肌トラブルは、肌の赤みやかゆみ、吹き出物だけではありません。いわゆる“マスク焼け”や、耳の痛みにも注意が必要です。
マスクをしていると、マスクしていない部分だけが日に焼けてしまう“マスク焼け”をすることがあります。もちろん、マスク焼けは紫外線ケアで予防が可能です。ただし、マスクをしていても日焼けを完全に防ぐことはでないため、露出している部分だけではなく、マスクで覆われている部分も含めて紫外線ケアをする必要があります。
また、マスクのゴムによる耳の痛みも、無視できません。
マスクのゴムが交換できる場合は、丸ゴムではなく平らなゴムを使うのがおすすめです。ゴムの交換ができない場合は、ゴム部分が幅広のものを選ぶようにしましょう。
頭のうしろでゴムを止めるグッズを利用するのも良いでしょう。
感染症との共存を考えなければならない今、肌荒れを理由にマスクの着用を拒否するのは難しいのが現実です。
肌トラブルに対する対処法を理解して、マスクを上手に利用しましょう。
https://www.kobayashi.co.jp/corporate/news/2020/200731_01/index.html
*2参考)資生堂「SHISEIDO GINZA TOKYO>BEAUTY TOPIX>熱中症リスクが上がる夏、マスクの下の肌状態は?」
https://brand.shiseido.co.jp/beauty-topics_20aw_ultimune_02.html
*3参考)国立大学法人豊橋技術科学大学「News & Topics>10月15日に令和2(2020)年度第3回定例記者会見を行いました。>会見配布資料」P.6
https://www.tut.ac.jp/news/201015-13080.html
https://www.tut.ac.jp/docs/201015kisyakaiken.pdf

プロフィール:公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。