会社による人員削減だけでなく、雇用される側の会社に対する帰属意識の薄れもあり、終身雇用制度は崩壊し始めています。働き方が多様化している昨今、ミドル世代とも呼ばれる40代では今の仕事を定年退職まで続けるのか、続けるなら何歳まで働くのか、このままで老後の資金は十分だろうか、と考え始める人も多いのではないでしょうか。
40代となると、一から何かを始めるには遅い、と感じてしまう人もいますが、この世代は日々の生活から培った知識や経験を活かせる可能性を持っています。どのような資格があれば役に立つのか、未経験からでも始められる仕事にはどのようなものがあるのか。
見ていきましょう。
1.40代からのキャリアチェンジ
総務省の労働力調査によると転職者数は年々増加傾向にあり、2018年は全世代で329万人、そのうち45歳以上が124万人を占めています。2014年の93万人と比べると、この5年間で3割以上の増加が見られ、この世代におけるキャリアチェンジが決して少なくはないと言えるでしょう*1。
定年退職後には、従来のように時間的に縛られる生活ではなく、自分のペースで仕事をしていきたいと考える人も増え、起業も注目を集めています*2。手に職を、と資格取得を目指す人も多い中、職業資格の取得とキャリア形成に関する調査では、「資格を活かした仕事に就きたい」がどの年代でも圧倒的に1位ですが、資格を使って「独立・自営したい」との志向は高齢層ほど強く、特に50代、60代以上が15%と他の年代より高い結果となりました。

(図1)引用)独立行政法人労働政策研究・研修機構「調査シリーズ No.129職業資格の取得とキャリア形成に関する調査」
2.取得したいと考える人が多い人気の資格
資格区分 | 人数 |
語学検定(英検・TOEIC・TOEFLなど) | 126人 |
ファイナンシャル・プランナー | 104人 |
簿記 | 101人 |
宅地建物取引主任者 | 82人 |
IT関連企業の能力認定 | 82人 |
社会保険労務士 | 70人 |
行政書士 | 65人 |
大型自動車免許 | 63人 |
ITパスポート | 61人 |
医療事務 | 61人 |
(図2)引用)独立行政法人労働政策研究・研修機構「調査シリーズ No.129職業資格の取得とキャリア形成に関する調査」
これらの受験資格に年齢上限はないため(社会保険労務士に関しては、学歴等の条件あり)、何歳になっても挑戦することは可能です。しかし、上位に並ぶ専門職は、未経験者の場合、資格があるというだけで仕事につなげることは難しいかもしれません。
この中で経験がなくても始めやすいのが、医療事務です。全国にある公共職業安定所、通称ハローワークで実施されている公的職業訓練のうち、以下に一例を見てみましょう。
・受講者のほとんどが初心者(受講対象者の条件:特になし)
・全国どこでも働ける
・長く安定して働ける
・3か月間のコースで3つの資格取得を目指せる
①医療事務…患者対応から月末の医療費の請求まで、専門スキルで医療と福祉に貢献する仕事
②医師事務作業補…病院勤務医の負担軽減のため、カルテ代行入力、診断書や処方せんの
作成、 検査予約など医師の事務作業を補助
③調剤薬局事務…受付・会計や薬剤師への薬の処方の依頼、月末には調剤報酬明細書を作成し
保険請求
(図3)引用)厚生労働省熊本労働局「求職者支援訓練」医療事務分野より一部抜粋
超高齢化社会で医療業界へのニーズは高まっており、需要も増加傾向で、専門性も高く、さらに医療機関や薬局は日本全国にあるため、近所で見つけやすく自分のペースで長く働けるのが魅力的です。
ただし、資格は人気があるからという理由で選ぶと、逆に競争率が高くなる恐れもあります。転職に活かしたいのであれば知名度の高い資格が有利となり得ますが、独立や起業を考えるなら、いわゆる隙間産業を狙ったあまり知られていない資格取得や独自のアイデアを形にすることも考えられるでしょう。
3.人材不足の業種に絞ってみる
仕事とすぐに直結させたいのであれば、まずは「人材不足」の業界を探してみるのも一つの手です。日本商工会議所の調査では、「介護・看護」の人手不足感が急激に高まっていることが見えてきます。

人員の過不足状況(業種別集計) (図4)引用)日本・東京商工会議所 「人手不足等への対応に関する調査」
人材不足:介護業界
少子高齢化が進み政府も人材確保に力を入れているのが、「介護」に関わる職種です。厚生労働省によると、2015年度の段階で要介護者608万人に対して介護従事者は183万人にとどまっており、2025年度には約250万人必要としています*3。下記のグラフからは、介護関連職種の有効求人倍率が地方も含めてかなり高くなっていることがわかります。

都道府県別有効求人倍率(2018年6月) (図5)引用)厚生労働省 「福祉・介護人材の確保に向けた取組について」P3
政府は人材不足を補うために、中高齢者が未経験でも始めやすいよう入門的研修の充実等を図っています*4。
また国家資格でもある介護福祉士を目指すのであれば、実務経験が3年以上必要となりますが、未経験者の場合、介護職員初任者研修を130時間受講し、修了認定を受けることで介護職に携わることができます*5。介護士の助手として、介護の現場で働きながら国家資格への挑戦という次のステップを視野に入れられるため、キャリアアップを考えたい未経験者にもおすすめです。
人材不足:観光業界
上記の図4では、「宿泊・飲食業」において人手不足企業の割合が約8割で高止まりしています。観光庁は観光業界における人材不足が深刻であるとし、「地域における観光産業の実務人材確保・育成事業」を促進しています*6。新卒学生だけでなく、女性・シニア等の潜在労働力の確保を目標に、旅館等における勤務体制の見直しや体験プログラム、キャリアアップ研修の実施で人材確保とその定着を目指しており、未経験からでも挑戦しやすくなってきました。
また、2018年に初めて訪日外国人旅行者数が3000万人を突破。インバウンド観光に力を入れたい政府は、通訳案内士という国家資格保有者のみに認められていた通訳ガイドの仕事を無資格者でも行えるよう条件を緩和しました*7。しかし、有資格者とは待遇で差別化されるため、語学に興味のある人は10言語から選んで年に1回行われる筆記試験(語学と地理、日本史、一般常識)に挑戦してみてはいかがでしょうか。アジアからの訪日外国人旅行者が増加する中で、特に中国語や韓国語における通訳案内士の不足も指摘されており、今後の需要が期待できます*8。
4.女性が活躍、美容関連で独立も視野に入れてみる
ネイリストやアロマセラピスト等、美容関連の職種は必須の資格や行政の認可を受ける必要がない場合もあります。たとえば、ネイリストとして独立するには下記の3パターンが一般的であり、特に多いのが店舗勤務で修業を積む方法です。
・スクールに通い、卒業後独立する
・スクールに通って卒業後、サロンに就職し、ノウハウを学んでから独立する
引用)J-Net21 経営課題を解決する羅針盤「業種別開業ガイド」ネイリストより一部抜粋
アロマセラピストにおいても、まずはスクールに通うのが一般的です。アロマセラピーに使用するオイルは、通常、医薬品ではないため、アロマセラピー自体も医療行為にはあたりません。知識や技術さえあれば、アロマセラピストとして開業するために必須となる資格はないのです*9。
あくまでこれらは一例ですが、民間資格としては日本ネイリスト協会が主催する「ネイリスト技能検定試験」や日本アロマ環境協会が主催する「アロマテラピー検定」等があり、年齢や経験等の受験資格は一切定められていないため、いつでも挑戦可能。資格を持っていれば、信頼性が高まるとして推奨されています。
起業資金については、経済産業省が日本政策金融公庫を通じ、女性等を対象とする低利融資制度(女性、若者/シニア起業家支援資金)を設けています*10。女性、または35歳未満か55歳以上の男性も対象で、新たに事業を始める場合に利用が可能です。他にも、公的機関によって起業セミナー等も開かれているため、まずは情報収集に足を運んでみるのも良いでしょう*11。
5.まとめ
取得しやすいという理由だけで資格を選ぶと続かない恐れもあります。挫折しないためにも、自分の興味と照らし合わせることが肝心です。また、独学や通信講座は時間の融通が利き、家庭や仕事と両立して勉強を進めやすい一方、学校に行くと仲間も増え、情報交換ができたり就職サポートを受けられたりする利点もあるため、自分の状況にあった学習方法を選びましょう。
資格取得には年齢制限がないものも多くありますが、資格以外に大卒などの条件が求められることが多い業界もあるため、目指す職業に資格以外の要件がないか事前に調べておくことも重要です。仕事を得るため、転職やキャリアアップのため、もしくは独立のため、と資格やスキルの取得を目指す理由は人それぞれ。まずは目的をはっきりさせて下調べから始めてみましょう。
*2 参考)J-Net21 経営課題を解決する羅針盤「起業マニュアル:今、なぜ起業する人が多いのか」
*3 参考)厚生労働省 社会・援護局 福祉基盤課 福祉人材確保対策室「福祉・介護人材の確保に向けた取組について」P38 左上の「背景」
*4 参考)厚生労働省 社会・援護局 福祉基盤課 福祉人材確保対策室「福祉・介護人材の確保に向けた取組について」P6-7
*5 参考)厚生労働省「介護員養成研修の取扱細則について」P2
*6 参考)観光庁「平成31年度 地域における観光産業の実務人材確保・育成事業」
*7 参考)観光庁「通訳ガイド制度」
*8 参考)観光庁「通訳案内士の現状及び制度見直しの検討経緯」P18
*9 参考)J-Net21 経営課題を解決する羅針盤「業種別開業ガイド」アロマセラピスト
*10 参考)内閣府男女共同参画局「第5節 再就職,起業,自営業等における支援」
*11 参考)J-Net21 経営課題を解決する羅針盤「起業マニュアル:起業セミナーを受ける」