面接の場でもよく取り上げられるコミュニケーション力。
企業は中途採用1人を獲得するために、紹介会社を通すと150~200万円、リクナビネクストやマイナビ転職などへの媒体掲載の場合は1回40~120万円をかけています。面接の人件費もと考えると大変な投資になります。
そのため中途入社の方へは、期待値通りのパフォーマンスと、長く戦力として働いてもらうを求めるのです。
「アピール通りのパフォーマンスの再現性」
「長期的に根付いて働いてもらうための定着性」
が転職で採用されるための最重要ポイントとなります。

この、定着性と再現性を発揮するために、大前提として備わっていなければならないスキルがコミュニケーション力なのです。
コミュ力。コミュニケーション力の略ですが、「新しい職場の人たちとうまく関係性を構築し活躍していけるか」は、コミュニケーション力によって決まります。
面接では、だからこそコミュニケーション力を見るのです。
転職したはいいけれど、うまくコミュニケーションが取れなくてストレスを感じ、辞めてしまう。そのような事態にならないよう、注意しておきたいところです。
1.コミュニケーション力が低いと言われる理由
いま採用を担当しているくらいの年齢の人が「最近の若い人はコミュニケーション能力がない」と感じている、というのはよく漏れ聞くところです。言われる側も聞き飽きたことで、「最近の若い人」と括られることに嫌な思いをしている人も多いことでしょう。
ここで言われるコミュニケーション力の無さを示す具体例の多くは「物事を筋道立てて説明することができない」「話は長いが言いたいことがわからない」といったものです。
「話が通じない」。お互いにそう思ってしまい、ストレスの原因になるのは防ぎたいところです。
まず、コミュニケーションの上で最も大切なのは「相手が何を知りたがっているか」を考えることです。そのためにも必要なのが「言語能力」です。
文部科学省は言語能力を構成する要素を大きく分けて「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力、人間性等」としています。
それぞれを見ていきましょう。
最初に、「知識・技能」についてです(図1)。
知能・技能 |
○言葉の働きや役割に関する理解 ○言葉の特徴やきまりに関する理解と使い分け ・音声、話し言葉 ・文字、書き言葉 ・言葉の位相(地域や世代、相手や場面等による言葉の違いや変容) ・語、語句、語彙 ・文の成分、文の構成 ・文章の構造(文と文の関係、段落、段落と文章の関係) など ○言葉の使い方に関する理解と使い分け ・話し方、書き方、表現の工夫 ・聞き方、読み方 など ○言語文化に関する理解 ○既有知識(教科に関する知識、一般常識、社会的規範等)に関する理解 |
図1 言語能力を構成する資質・能力(知識・技能)(出典:「言語能力の向上に関する特別チームにおける審議の取りまとめ」文部科学省)
中でも重要なのは、「話し言葉と書き言葉の使い分け」「語彙」「文章の構造」でしょう。
近年、「『ら』抜き言葉」を用いる人が多くなっています。
「食べられる」→「食べれる」、「見られる→見れる」、といったものです。
筆者の年代だと話し言葉でも強い違和感を覚えるのですが、ましてや「書き言葉」でこの「『ら』抜き言葉」が使われているのを見るとぎょっとします。話し言葉と書き言葉の判別がついていないなあ、と感じます。
また、長文を構成できない、伝えられないのはおそらく「語彙」の少なさが原因の一つと考えられます。文章に一定の長さを求められると、同じ言葉を何回も使ってしまう状況になっている、あるいは接続詞をうまく使えないということも考えられます。
こうしたコミュニケーション力の変化について、内閣府の資料には以下のような指摘が掲載されています*1。
「超便利化社会」というものです。
例えばコンビニに行って漫画を立ち読みして、コーラを1本買って帰る。この時、一言も発する事なく用事が済んでしまいます。コミュニケーションの必要なく自分の目的を達成できてしまうのです。
発したとしても文章ではなく、単語だけで済む場合が多いでしょう。
また、メールやLINEなどでは、思いつくままに相手に言葉を送信できます。長文でなくても、バラバラに文章を何回にも分けて瞬時に送ることができるので、頭の中で順序立てた文章構成をする必要がない、といったものです。
言葉の構成の基本は「起承転結」ですが、筆者としてはこれが意識されていないことが多いように感じます。
2.「音読」こそ言語能力の強化方法
次に、「思考力・判断力・表現力等」についてです。このような項目が挙げられています(図2)。
思考力・判断力・表現力等 |
テクスト(情報)を理解したり、文章や発話により表現したりするための力
【創造的・論理的思考の側面】 ○情報を多面的・多角的に精査し、構造化する力 ・推論及び既有知識・経験による内容の補足、精緻化 ・論理(情報と情報の関係性:共通-相違、原因-結果、具体-抽象等)の吟味・構築 ・妥当性、信頼性等の吟味
○構成・表現形式を評価する力
【感性・情緒の側面】 ○言葉によって感じたり想像したりする力、感情や想像を言葉にする力
○構成・表現形式を評価する力
【他者とのコミュニケーションの側面】 ○言葉を通じて伝え合う力 ・相手との関係や目的、場面、文脈、状況等の理解 ・自分の意思や主張の伝達 ・相手の心の想像、意図や感情の読み取り
○構成・表現形式を評価する力
【考えの形成・深化】 ○考えを形成し深める力 ・情報を編集・操作する力 ・新しい情報を、既に持っている知識や経験・感情に統合し構造化する力 ・新しい問いや仮説を立てるなど、既に持っている考えの構造を転換する力 |
図2 言語能力を構成する資質・能力(思考力・判断力・表現力等)(出典:「言語能力の向上に関する特別チームにおける審議の取りまとめ」文部科学省)
難しい表現の羅列に見えますが、特に意識したいのは「情報を構造化する力」と「言葉によって感じたり想像したりする力、感情や想像力を言葉にする力」でしょう。
そしてこれらは、訓練することができます。
「情報の構造化」というのは、実はわたしたちの脳内で毎日のように無意識に行われています。
「今日はお昼に何を食べようか、よしあの店のラーメンにしよう」と考えた時、実は脳内にはとても複雑なあみだくじが生まれています。
今日の体調はどうか?あっさりしたものを食べたいのか濃いものを食べたいのか?
今日は時間やお金に余裕があるかないか?
ここ最近は何を食べたか?同じものを食べたか食べていないか?その結果どうだったか?同じ店に前回行った時は店の様子はどうだったか?なにのメニューを頼んでどんな感想を持ったか?
等々です。
「直感」「なんとなく」で決めることもあるでしょうが、ちょっと考えている間に、こんなに多くの情報が脳内で選択され統合されています。そして、結論にたどり着くまでの思考は非常に理論的です。
普段は意識しませんが、基本的に頭の中は「言葉」で物事を考えています。ただ、実はこれらは「口に出さないと身につかない」という特性を持っています。「アウトプット」が必要だということです。
少し前に「声に出して読みたい日本語」という本が流行りましたが、これは音読の大切さを伝えるものでもあります。
また、これを繰り返すうちに、「心地よいリズム感」をつかめるとなお良いでしょう。話し手が発する言葉のリズム感は、相手にものを伝える上でとても大切な要素です。
ちなみに筆者は長く、テレビニュースの原稿を書いてきました。
テレビの原稿の最大の特徴は、「一度聞いて理解できる」書き方が求められることです。新聞のように「戻って読み直す」ことができないからです。
当時、先輩が原稿の苦手な後輩に「上手いと思った原稿は文字に起こして読み直すと練習になる」という指導をしていたのを聞いたことがあります。
これは非常に有効な手段だなあと、今改めて思います。「どうしてあの人の話はわかりやすいんだろう」ということを探るのです。
「5W1H」の並べ方とテンポ感がカギを握っていることが多々あります。
3.言語化の習慣づけ
では、「学びに向かう力・人間性等」について見ていきましょう。文部科学省が示すのはこのようなものです(図3)。
学びに向かう力・人間性等 |
・言葉が持つ曖昧性や、表現による受け取り方の違いを認識した上で、言葉が持つ力を信頼し、言葉によって困難を克服し、言葉を通して社会や文化を創造しようとする態度
・言葉を通じて、自分のものの見方や考え方を広げ深めようとするとともに、考えを伝え合うことで、集団としての考えを発展・深化させようとする態度
・様々な事象に触れたり体験したりして感じたことを言葉にすることで自覚するとともに、それらの言葉を互いに交流させることを通じて、心を豊かにしようとする態度
・言葉を通じて積極的に人や社会と関わり、自己を表現し、他者を理解するなど互いの存在についての理解を深め、尊重しようとする態度
・自分の感情をコントロールして学びに向かう態度
・歴史の中で創造され、継承されてきた言語文化の担い手としての自覚 |
図3 言語能力を構成する資質・能力(学びに向かう力・人間性等)(出典:「言語能力の向上に関する特別チームにおける審議の取りまとめ」文部科学省)
流石に普段から「言語文化の担い手」などということは意識しないでしょうが、重要なのは「様々な事象に触れたり体験したりして感じたことを言葉にすること」です。一つのことや感情を言葉で表現する時、「同義語」「類義語」というのがあります。これをいかに駆使できるかで表現力も変わるでしょう。
そして、最大の壁だと感じられているのが「言葉が持つ曖昧性や、表現による受け取り方の違い」ではないでしょうか。
「誤解されたらどうしよう」という気持ちが働き、結果的に「雰囲気」で済ませようとしてしまうことが多いです。
しかしビジネスの中では、これが一番嫌われることです。相手は具体的な話を聞きたがっています。「こういう感じ」と言われても困りますし、むしろそちらの方が相手の解釈の幅を広げてしまうので、誤解されるリスクが高まります。
ここでの誤解は、伝言ゲームのように広がってしまいます。物事を報告して、あとで指摘されたことに対して「そういう意味で言ったつもりはない」と思っても、それは最初の報告が曖昧すぎるのが最大の理由ということがあるからです。
4.コミュニケーションをアピールしたい時
逆に、これまでの経験で培ったコミュニケーション力に自信があるという人もいるでしょう。ただ、履歴書や面接などでその点をアピールしたい時にも注意が必要です。
コミュニケーションには自信があります、と言われた時に採用側として知りたいのは「その力を使ってこの会社で何をしてくれるのか?」という点です。
コミュニケーション力、と言われても、これもまた曖昧な言葉です。
特にビジネスシーンでは、接客でのコミュニケーションなのか、営業向きのコミュニケーションなのか、プレゼンテーションでのコミュニケーションなのか、時と場合によってそれぞれ違うからです。選ぶ言葉も話し方のトーンも全てが異なるのです。
ここでもまた「話の具体性」が求められます。逆にそれがなければ、話は伝わりません。
繰り返しになりますが、相手が求めている情報は何なのかをまず考えることが、コミュニケーションの上では何よりも大切なのです。