平成19年、内閣府の「官民トップ会議」において、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が策定されました。*1
日本の社会は、仕事と生活が両立しにくく、人々の働き方が社会経済構造の変化に適応しきれていないという問題に直面していたためです。
「ワークライフバランス」とは、「仕事と生活の調和」を意味する言葉です。
全ての働く人々が、やりがいや満足感を得られながら働くことができ、子育てや介護、個人の時間などが持てる、健康的で充実した生活が実現するような働き方が、現代でも社会の課題となっています。
近年では、就職する際に、年収だけでなくワークライフバランスを重視する若者も増えてきました。
今回は、充実したプライベートを実現できる「有給取得が多い大企業」や「日本の有給取得の現状」について、詳しく解説をしていきましょう。
1. 有給を多く取得できる大企業ランキングTOP15
有給休暇を多く取得できる大企業のトップ15社のランキングは下図の通りです。
図1のデータを参照しながら特徴を見ていきましょう。
順位 | 社名 | 業種 | 有給取得(日/年) | 3年後の離職率(%) | 平均年収(万円) | 残業時間(時/月) |
1位 | 東武鉄道 | 鉄道 | 22.5 | 0 | 713 | 18.7 |
2位 | DMG森精機 | 機械 | 21.8 | NA | 805 | 28.6 |
3位 | パナソニックインフォメーションシステムズ | システム・ソフト | 21.2 | 0 | NA | 25.1 |
4位 | JXTGエネルギー | 石油 | 20.9 | 8.6 | NA | 23.9 |
5位 | SOMPOひまわり生命保険 | 生保 | 20.7 | 15.8 | NA | 16.3 |
5位 | キオクシア | 電子部品機器 | 20.7 | NA | 810 | 35.5 |
7位 | ダイキン工業 | 機械 | 20 | 9.2 | 824 | 18.1 |
7位 | エイチワン | 自動車部品 | 20 | 9.1 | 697 | 17 |
9位 | コマツ | 機械 | 19.5 | 4.4 | 820 | 26.4 |
9位 | 関西電力 | 電力 | 19.5 | 5.1 | 791 | 20.5 |
11位 | ルネサスエレクトロニクス | 電子部品機器 | 19.4 | 12 | 804 | 16.3 |
11位 | SCREENホールディングス | 電子部品機器 | 19.4 | 5.8 | 962 | 21.1 |
11位 | 東海理化 | 自動車部品 | 19.4 | 4.9 | 796 | 22.8 |
14位 | 本田技研工業 | 自動車 | 19.3 | NA | 819 | 18 |
15位 | 大和総研ホールディングス | シンクタンク | 19.2 | 4.9 | NA | 8.4 |
15位 | NTT東日本 | 通信 | 19.2 | 6.7 | 800 | 16.2 |
15位 | NTTファイナンス | 信販 | 19.2 | 11.4 | 824 | 10.5 |
15位 | 京阪電気鉄道 | 鉄道 | 19.2 | 0 | NA | NA |
平均 | 20.1 | 6.5 | 805 | 20.2 |
図1)就職四季報2021年総合版「有給取得ベスト100」P38を参照し執筆者作成
①有給取得ナンバーワンは東武鉄道
1年間の有給取得が一番多いのは、東武鉄道の22.5日です。
東武鉄道は、3年後の離職率も0%となっており、新卒の定着率も申し分ありません。
社員の平均年齢は46.6歳で平均勤続年数は25.3年という数値からも、長く安心して働ける優良企業と言えるでしょう。*2
2位は、工作機械製造大手のDMG森精機です。有給取得が21.8日で、1位に僅差で迫っています。
3年後の離職率は非公開で、残業時間は日本のサラリーマンの平均よりやや多いのですが、有給取得が多いため、ワークライフバランスは取りやすい会社と言えるでしょう。
平均年収も805万円と高収入です。
3位のパナソニックインフォメーションシステムズは、パナソニックグループのIT部門の中核的存在で、21.2日の有給実績があります。
3年後の離職率も0%で、安定して働ける会社です。
②有給取得日数と平均年収は日本のサラリーマンの約2倍
図1によると、1位から15位までの会社の有給実績は、全て19日から22日程度となっています。
下図2の「厚生労働省の労働者1人平均年次有給休暇の取得状況」のデータによると、日本のサラリーマンの平均有給取得日数は9.4日となっています。

図2 引用)厚生労働省 平成31年就労条件総合調査 第5表「労働者1人平均年次有給休暇の取得状況」P5(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/19/dl/gaikyou.pdf)
日本の平均と比較すると約2倍になっており、今回ランキングに挙げられたトップ15社の有給取得日数は、かなり多い方と言えるでしょう。
また、15社の平均年収は約805万円と高めです。
日本のサラリーマンの平均年収は約441万円ですから、平均年収も一般の約2倍ということになります。*3
2.有給取得が多い企業の特徴
ランキングを見ますと、有給取得が多い企業には、ある一定の特徴があります。
ここでは、業種や定着率、残業時間についても解説していきましょう。
①業種は機械や部品の製造業が多い
ランキング入りした企業の業種は、機械や部品などの製造業が多くなっています。
15社中、機械と電子部品機器が各3社ずつ、自動車部品が2社、自動車が1社と、製造業だけで合計9社となっています。
鉄道では1位に東武鉄道、15位に京阪電鉄が入っており、民鉄の中でも特に有給取得が多くなっています。
②新卒が辞める確率はかなり低い
新卒が辞める確率がかなり低いのも特徴です。
今回ランクインした企業の3年後の離職率は平均6.5%ですが、下図3における平成28年の新規大卒就職者の3年以内の離職率は32.0%ですから、かなり低いことが読み取れます。
入社年 |
就職者数 | 1年目の離職率 | 2年目の離職率 | 3年目の離職率 | 3年間の離職率 |
2007年4月 | 438,375 | 13.0% | 10.4% | 7.7% | 31.1% |
2008年4月 | 446,208 | 12.2% | 9.5% | 8.3% | 30.0% |
2009年4月 | 429,019 | 11.5% | 8.9% | 8.4% | 28.8% |
2010年4月 | 365,500 | 12.5% | 10.0% | 8.5% | 31.0% |
2011年4月 | 377,606 | 13.4% | 10.1% | 8.8% | 32.3% |
2012年4月 | 398,320 | 13.1% | 10.3% | 8.9% | 32.3% |
2013年4月 | 412,636 | 12.8% | 10.0% | 9.1% | 31.9% |
2014年4月 | 427,932 | 12.3% | 10.6% | 9.4% | 32.3% |
2015年4月 | 441,936 | 11.9% | 10.4% | 9.5% | 31.8% |
2016年4月 | 448,309 | 11.4% | 10.6% | 10.0% | 32.0% |
図2 引用)厚生労働省 平成31年就労条件総合調査 第5表「労働者1人平均年次有給休暇の取得状況」P5https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/19/dl/gaikyou.pdf
3年後の離職率が0%の企業は、1位の東武鉄道、3位のパナソニックインフォメーションシステムズ、15位の京阪電気鉄道の3社が名を連ねています。
③残業時間は日本の平均の2倍も多い
有給取得日数が多い企業は3年後の離職率も低いということで、安定して働ける企業が多いことが分かりました。
しかし、15社の1カ月の残業時間の平均は20.2時間となっております。
令和1年6月の日本のサラリーマンの平均残業時間は10.8時間ですから、約2倍も多いと言えるでしょう。*4
特に多いのは、電子部品機器を製造しているキオクシアで、残業時間が35.5時間にもなっています。
一番少ないのは、シンクタンク大手の大和総研ホールディングスの8.4時間が挙げられますが、日本の平均残業時間よりやや少ない水準に留まっています。
有給取得日数と3年後の離職率は良好ですが、残業時間だけはそうも行かないというのが実情でしょう。
3.日本の有給取得の現状とは
ここでは、日本の有給取得の現状について、詳しく解説をしていきます。
平均取得日数や、特徴、世界での日本の立ち位置などについてまとめてみましたので、ぜひ、ご覧ください。
①日本の有給取得の平均日数は9.4日
厚生労働省の「労働者1人平均年次有給休暇の取得状況」(上図2)によると、日本のサラリーマンの有給取得の平均日数は、9.4日となっています。
図1にランキングされている会社の有給実績は、全て19日から22日程度となっていますから、平均より約2倍多いと言えるでしょう。
日本の労働者一人当たりの有給付与日数は平均18日ですから、ランキング入りした企業は、かなり良好な状況であることが分かります。
②性別や会社の規模にはあまり関係性がない
図2の平成31年データを参照すると、付与日数は平均18.0日、有給休暇の取得日数は9.4日となっており、性別や会社の規模には、ほぼ関係性がないことが分かります。
例を挙げますと、男性の付与日数は18.4日で取得日数は9.0日。女性の場合は付与日数が17.1日で取得日数は9.9日となっています。
会社の規模では、30~99人規模は付与日数が17.3日で取得日数が8.2日。1000人以上は付与日数が18.6日で、取得日数は10.9日と、規模が大きい会社ほど多くなっていますが、あまり大差はありません。
前年度の平成30年も付与日数は18.2日、平均取得日数は9.3日となっており、毎年、同程度の状況であると言えるでしょう。
③取得率は52.4%で世界19ヶ国の中では最下位
下図4のエクスペディアが作成した「世界19ヶ国 有給休暇・国際比較調査2018」のデータによると、日本人の有給休暇の取得率は52.4%で、世界19ヶ国の中では最下位となっています。
ブラジル、フランス、スペイン、ドイツは30日の付与日数の内、30日全てを取得しており、100%の取得率を誇っています。
イギリスも26日中25日を取得して96%、イタリアは28日の付与日数があるにもかかわらず、21日で取得率は75%と、各国によって様々な取得状況が読み取れます。
日本と同じ付与日数が20日のニュージーランドやインドは15日の取得日数で75%、オーストラリアは14日で70%という結果です。
日本は世界と比較すると、付与日数は20日と多めですが、実際に取得できたのは10日程度に過ぎません。
有給休暇を取りやすい国と言えるには、まだまだハードルが高いと言えるでしょう。
4.まとめ
今回は、有給休暇を多く取得できる企業の概要と、日本の有給取得の現状について詳しく解説をしていきました。
世界各国と比較すると、日本の有給取得状況は、まだまだ達成されているとはいえず、会社によっては取りにくいのが実情です。
したがって、日本の会社で働いている社員は、現状では仕事と生活が両立しやすいとは言えないでしょう。
そのような状況のもと、この記事でランクインされた15社は、有給取得日数が20日前後と高い取得日数を実現しています。
残業時間がやや多いという問題もありますが、平均年収も多く、有給休暇を利用して心身のリフレッシュがしやすいのがメリットです。
調和のとれたワークライフバランスを実現できる会社で、プライベートも充実させながら、生き生きと働いていきましょう。
http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/index.html
*2 参考)就職四季報2021年総合版 P751「東武鉄道(株)」
*3 参考)厚生労働省「平成30年分民間給与実態統計調査」P12
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2018/pdf/001.pdf
*4 参考)厚生労働省「毎月勤労統計調査 月間実労働時間及び出勤日数」第2表
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r01/0110p/0110p.html

プロフィール:フリーランスの就職・不動産ライター。複数のメディアで執筆中です。宅建の資格を活かし、家族が所有する投資用不動産の管理もしています。趣味は整理収納と料理。