転職をする際に避けたいのは、当然のことですが「離職率が高い企業」です。
せっかく大変な思いをして転職活動をするわけですから、できるだけ失敗したくないのが本音ではないでしょうか。
今回は、これから就活や転職を考えている方に、「離職率が高い企業」について詳しく解説をしていきますので、ぜひ、参考にしてください。
1.離職率の高い業界とは
日本には様々な仕事のジャンルがありますが、特に離職率が高い仕事というものが存在します。
平成30年の入・離職率を主要な産業別に表した厚労省のデータをまとめた表がこちらです。
順位 |
業種 |
離職率 |
1位 |
宿泊業・飲食サービス業 |
26.9% |
2位 |
生活関連サービス業・娯楽業 |
23.9% |
3位 |
その他サービス業 |
19.9% |
4位 |
教育・学習支援業 |
16.6% |
5位 |
医療・福祉 |
15.5% |
6位 |
不動産業 |
13.7% |
7位 |
小売業 |
12.9% |
8位 |
情報通信業 |
11.8% |
9位 |
金融業・保険業 |
11.1% |
10位 |
運輸業・郵便業 |
10.5% |
図1 参考) 厚生労働省 平成30年雇用動向調査結果の概況図3 産業別入職率・離職率(平成 30 年)P11を参考に筆者作成(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/19-2/dl/gaikyou.pdf)

図2 引用)厚生労働省 平成30年雇用動向調査結果の概況図3
産業別入職率・離職率(平成 30 年)P11
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/19-2/dl/gaikyou.pdf)
ここでは、離職率の高い業界についてデータをもとに詳しく解説をしていきましょう。
①離職率が高いのはサービス業
平成30年の入・離職率を主要な産業別に表した厚労省のデータによると、いずれの場合でも宿泊業・飲食サービス業が26.9%と最も高く、次いで生活関連サービス業・娯楽業の23.9%となっています。
トップ3をサービス業関連が占めており、他の業種に比べて極めて離職率が高いと言えるでしょう。
特徴的なのは、入職率の割合も離職率と同様に高いということです。
つまり、新しく入る人も多いけれど辞めてしまう人も多いというように、従業員の定着率が低いことがわかります。
②教育・学習支援業は離職率の方が高い
教育・学習支援業も新しく入る人より辞める人の割合の方が多く見られます。
教育・学習支援業には中学校などの学校教育も含まれていますが、中学校の部活動顧問の教員は、運動部の場合は試合などで休日出勤を余儀なくされるケースが多々あり、ハードな労務環境です。
少し古いデータですが、平成18年度教員勤務実態調査報告書(第2部 教員の勤務実態)によると、中学校においては残業時間も個人によって様々であり、休日の残業時間が5時間を超える教員も実に5.5%いるという事実が読み取れます。
続いては仕事内容が大変ハードである「医療・福祉」も5位にランキングされています。
新型コロナにより、医療従事者の方の過酷な労働環境が問題となっていますが、今後もますます負担が増えそうな状況が心配です。
また、ある意味「ブラック企業」の代名詞になりがちな不動産業ですが、統計的には意外にも低く、入職率より離職率の方が低いことが読み取れます。
ただ、不動産業の場合、入る会社によって待遇面や労務環境などが大きく違います。
例えば財閥系不動産会社で有名な三井不動産(株)に入社した人の場合、離職率は0.7%と非常に低い数値です。*1
いわゆるブラック企業と呼ばれるような不動産会社に入ってしまった場合、離職率が13.7%を超えることも考えられるでしょう。
2.離職率が高い企業とは
これから就活や転職を考えている方にとってもっとも気になるのが、実際に離職率が高い企業ではないでしょうか。
ここでは「就職四季報」に記載されている384社の企業について、入社3年後の離職率が高い企業トップ10を表にまとめてみましたのでご覧ください。
【入社3年後の離職率が高い企業 トップ10】
順位 |
企業名 |
入社3年後の離職率(%) |
年間平均ボーナス(万円) |
平均残業時間(時間/月) |
有給取得実績(日/年) |
業種 |
1位 |
テンアライド(株) |
65.2 |
42 |
非公開 |
非公開 |
外食 |
2位 |
(株)グルメ杵屋 |
60.0 |
51 |
非公開 |
非公開 |
外食 |
2位 |
(株)吉野家 |
60.0 |
112 |
28.4 |
8.6 |
外食 |
4位 |
日神不動産(株) |
55.3 |
145 |
22.0 |
5.2 |
住宅 |
5位 |
マックスバリュ東海(株) |
50.9 |
106 |
12.7 |
6.7 |
スーパー |
6位 |
(株)ドトールコーヒー |
47.1 |
101 |
10.3 |
8.3 |
外食 |
7位 |
つるや(株) |
45.5 |
非公開 |
10.0 |
5.0 |
小売り |
8位 |
サミット(株) |
44.9 |
129 |
16.4 |
3.2 |
スーパー |
9位 |
(株)ゲオホールディングス |
44.4 |
86 |
16.0 |
9.9 |
小売り |
10位 |
シークス(株) |
43.3 |
259 |
24.4 |
8.2 |
商社 |
図4 参考)就職四季報2021年版 会社比較384社 P47、P71、P73、P75を参考に筆者作成
①離職率が高い企業は外食産業
就職四季報の「学生のための気になるデータ比べ」によると、調査対象の384社のうち、離職率が40%以上の会社は約20社近くありました。
その中でも60%以上の高い離職率である企業は3社あり、いずれも外食産業です。
平成30年雇用動向調査による常用労働者の離職率は、一般労働者(短時間労働者以外の労働者)の場合は11.6%となっています。いかに高い数値であるかをお分かりいただけるのではないでしょうか。

図5 引用)平成30年雇用動向調査「表1 平成30年の常用労働者の動き」P6(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/19-2/dl/gaikyou.pdf)
②外食産業はコロナ禍による影響が深刻化
新型コロナウイルスの感染拡大の影響をまともに受けている外食産業は、今後も業績の悪化が懸念され、従業員の離職率がさらに高まる恐れがあります。
2020年7月時点の飲食店を含めたサービス業の倒産状況は283件(前年同月比16.9%増)に上り、極めて深刻な状況です。
外出自粛や休業要請により、今後の売上もさらに激減することが予測され、外食産業は長い冬の期間を耐えて行かなくてはならないでしょう。

図6 引用)全国企業倒産状況「2020年7月の全国企業倒産789件」東京商工リサーチ(https://www.tsr-net.co.jp/news/status/monthly/202007.html)
3.離職率が高い企業を見分ける方法
転職する際の企業選びには、できるだけ離職率が高い企業を知る必要があります。
ここでは、離職率が高い企業の見分け方について詳しく解説をしていきましょう。
①離職率が高い企業の特徴
離職率が高い企業にはいくつかの特徴があります。
入社3年後の離職率が高い企業の会社データによると、他の有名企業と比較した場合、下記の3つの点のうち、全てではありませんがいずれかの傾向があります。
- 平均残業時間が長い
- 有給を取得しにくい
- ボーナスが少ない*2
就職四季報総合版 2021年版 会社比較384社のデータによると、離職率の高いトップ10にランクされた企業と他の企業とを比較した結果、
「平均ボーナス(年)」
「平均残業時間(時間/月)」
「有給取得実績(日/年)」
の項目のうち、いずれかの項目の数値が低い点が見受けられました。
例えば同じ外食産業でも(株)吉野家は年の平均ボーナスが112万円ですが、テンアライド(株)は42万円となっています。
しかし、(株)吉野家は年間平均ボーナスは悪くないものの、月の平均残業時間が28.4時間といささか長めです。
また、1位のテンアライド(株)と2位の(株)グルメ杵屋の場合、月の平均残業時間が非公開となっています。
同じく年の有給取得実績も非公開となっており、いささか不透明な労働環境です。*3
また、ボーナスも多い方ではなく、平均年間ボーナスはテンアライド(株)は42万円、(株)グルメ杵屋は51万円となっています。*3
厚生労働省が調査した平成30年の年末賞与支給状況では、冬のボーナス1回の平均額が約389,926円、令和元年夏のボーナスも381,520円で1年間のボーナス合計金額は771,446円です。
テンアライド(株)や(株)グルメ杵屋は、他企業よりボーナスの平均は低い方ですが、下図の表2(厚生労働省 平成30年 年末賞与の支給状況)を見る限り、飲食産業では健闘していると言えます。
飲食業の平成30年度の年末賞与の支給状況は、給与の0.42ヶ月と厳しい状況なので、飲食業界ではかなり多めに出している方でしょう。
②離職率が高い企業のリサーチ方法
(1)企業の公式サイトや就職関連書籍でデータを集める
企業の公式サイトや就職関連書籍で、事前に調べてみるのもおすすめです。
大企業の場合は、公式サイトの採用ページや有価証券報告書の「従業員の状況」などで「従業員数」「平均年齢」「平均勤続年数」等がわかります。
一社ごとに調べるのが面倒な場合は、「就職四季報」などの就職関連書籍でわかりやすくまとめていますので、効率よく情報を得ることができるでしょう。
例えば「就職四季報」では主だった企業の入社3年後の離職率や平均勤続年数などのデータが掲載されていますので、目星をつけた企業の概要を正確に知ることが出来ます。
入社3年後の離職率が高い企業は要注意です。*3
(2)求人募集の内容をチェックする
企業のHPやハローワーク、求人情報サイトなどで閲覧できる求人募集の内容もきち んと確認しておきましょう。
気を付けたいポイントとしては「キャリアに関係なく給料が高い」「従業員数に比べ て不自然に多めの採用を行っている」「若手でも管理職にすぐなれる」などの甘い言 葉にはくれぐれも気を付けてください。*4
(3)転職エージェントを利用する
ネットや書籍などを活用して、ある程度自分でデータを集めることはできますが、個 人の場合はリサーチに限界があるのも事実です。
企業の内部事情など、明るみに出ていない情報を知りたいときには転職エージェント などプロの手を借りるのもよいでしょう。
なお、転職エージェントにはそれぞれの分野に特化した会社もありますので、特に詳 しい情報を知りたいときは、専門エージェントに依頼するのも一つの方法です。
4.まとめ
今回は離職率が高い企業と業種について詳しく解説をしました。
離職率が高いからといって優良企業ではないというわけではありませんが、やはり従業員 が定着しない企業には何らかの問題が隠されている場合もあります。
転職活動にはたくさんの時間とエネルギーを消費しますから、選んだ企業でできるだけ安 定して長く働きたいものです。そのためにも会社に関する正確なデータを集めることが必 要でしょう。
どの会社にも闇と光の部分があります。転職する際には、自分の体力や適性を勘案しなが ら慎重に会社選びをしてください。

・プロフィール:ライター。家族が経営している不動産会社で自社物件管理、事務全般もしながら、ときには主婦ライフもゆったり楽しんでいます。得意ジャンルは転職・不動産などのビジネス系。保持資格は宅建、福祉住環境コーディネーター2級、整理収納アドバイザー1級。