新型コロナの感染拡大により、業界地図は大きく変動をしました。
コロナ前とコロナ後において、経営状況は業種により、上向きになった業界もあれば、落ち込みを見せる業界もあり、はっきりと線引きがされてしまったのです。
今回は、「2021年版 コロナの影響で厳しい業界」について詳しく解説をしていきます。
ただ、今回ご紹介する業界は、永遠に厳しいわけではありません。
あくまでも2021年に関する予測として、就職活動などで企業選びをする際に、情報の一環として参考にしてください。
1.コロナ後に厳しい見通しの業界【2021年度】
①大雨の予測は「造船」「デジタルカメラ」「出版・書店」など
コロナ後に厳しい状況が予測される業種には、「造船」「デジタルカメラ」「出版・書店」などが挙げられます。(下図1)
「造船」では、リーマンショック以降の供給過多がいまだに解消されていない中で、各企業の赤字は拡大していました。
そこへ新型コロナが直撃し、赤字受注から、なかなか脱却出来ない様相が見られます。*1
また、「デジタルカメラ」の見通しも立ちにくく、2019年度の出荷台数は1,521万台と、前年比より22%減りました。*2
新型コロナの影響でイベントが中止することもあり、市場の冷え込みは当面の間、続きそうです。
「出版・書店」における出版業界は、2019年には久々に市場に明るさが戻りました。
紙書籍は振るわないものの、電子書籍が前年比23.9%も増加し、紙と電子を合わせると同比0.2%と、2014年以来初めて前年度を上回ったのです。*3
「鬼滅の刃」が大ブレイクしたことも、出版業界に活気が戻った一因でしょう。
ただ、書店に関しては、コロナにより時短営業が余儀なくされたことで、売上減少が心配されるところです。
【2021年業況予測が「大雨」の業界】
業界名 | 理由 | 代表的企業 ※( )は2019年の売上 |
造船 *4 | 需要と供給のバランスを調整する向きもあったが、コロナにより誤算が生じ、各社の受注工事は減少 | ・今治造船 (3,806億円:減) ・ジャパンマリンユナイテッド(2,361億円:減) ・川崎重工業 (716億円:減) |
デジタルカメラ *5 | スマートフォンに市場を奪われた上にコロナの影響も追い打ちをかけ、需要回復が見込めない | ・キャノン (8,064億円:減) ・ニコン(2,258億円:減) ・ソニー(3,841億円:減) |
出版・書店 *6 | 紙書籍や雑誌の売上は減少傾向、電子版コミックなどは順調だが大きい波とはなっていない | ・KADOKAWA (2,046億円:減) ・集英社(1,333億円:増) ・カルチュア・コンビニエンス・クラブ (3,532億円:減) |
印刷 *7 | ネット広告の拡大で印刷の需要が減少、デジタル化とコロナによる影響が大きい | ・凸版印刷 (1兆4,860億円:増) ・大日本印刷 (1兆4,018億円:同) |
図1 参考)「会社四季報」業界地図 2021年版 *4~7を参考に筆者作成
②雨模様は「自動車」「航空機産業」「百貨店」など
大雨とまではいかなくても、新型コロナの影響などで雨模様が予測されるのが、下図2の業界です。
日本を代表する産業「自動車」では、2019年の国内新車販売台数は、前年比4.1%減の503.8万台となり、4年ぶりに減少しました。*8
トヨタ自動車だけは前年比より販売台数を増やし、自動車業界のトップリーダーとしての地位を維持しています。
「航空機産業」も、顧客である航空会社が経営難にあるため、受注の見込みが立たず苦しい状況といえるでしょう。
近年、航空機分野を収益の柱としていた「IHI」や「川崎重工業」では、損失が大きくなる可能性が高まりそうです。*9
また、百貨店も、2019年の売上が6年連続で前年割れするなど厳しい状況が続いていましたが、新型コロナによる消費者の購買意欲の低下などにより、さらに困難な状況に陥っています。*10
百貨店の店舗は続々と閉店となり、都市部だけでなく、地方の老舗百貨店なども店じまいが続きました。
今後はデジタルを活用した新サービスに注力するなど、大胆なビジネス展開が必要となってくるでしょう。
【2021年 業況予測が「雨」の業界】
業界名 | 理由 | 代表的企業 ※( )は2019年度の売上と前年比 |
自動車 *11 | 2020年後半には少しづつ回復傾向が見られるが、前年度より業績が低下する様相 | ・トヨタ自動車 (9兆5,229億円:同) ・ホンダ (2兆3,075億円:減) ・スズキ (1兆3,693億円:減) |
航空機産業 *12 | 新型コロナで顧客である航空会社が経営難に、納入キャンセルが相次ぎ回復傾向が見られない | ・三菱重工業 (7,038億円:増) ・川崎重工業 (5,325億円:増) ・IHI(4,788億円:減) |
百貨店 *13 | 新型コロナの影響で消費者の購買意欲が低下、地方の消費も減退が続いている |
・三越伊勢丹HD (1兆1,191億円:減) ・高島屋 (9,190億円:同) ・エイチ・ツー・オー リテイリング (8,972億円:減) |
外食(ファミレス)*14 | 新型コロナによる感染拡大防止のため店舗の臨時休業や時短営業が足かせになり、全ての業態の売上高が前年同月比で強烈に下落 | ・すかいらーくHD (3,753億円:増) ・スシローグローバルHD (1,990億円:増) ・サイゼリヤ (1,565億円:増) |
アパレル(メーカー) *15 | 新型コロナによる外出減少により衣料品の需要が低迷、ネット通販の強化が課題 |
・オンワードホールディングス (2,482億円:増) ・ワールド (2,362億円:減) ・ワコールホールディングス (1,867億円:減) |
空運 *16 | 各国間の渡航制限により国際線は強烈なダメージを受けたが、国内線は復調気味 | ・ANAホールディングス (1兆9,742億円:減) ・日本航空 (1兆4,112億円:減) |
図2 参考)「会社四季報」業界地図 2021年版 *11~16を参考に筆者作成
2.コロナ後に生産や売り上げが減少した企業は7割超え
独立行政法人労働政策研究・研修機構が実施した「 新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」によると、5月の時点で「生産や売り上げが減少した」企業は7割を超えていました。
ここでは、業種別に対応の様相を見ていきましょう。
①最大の理由は社会活動の自粛で消費が減退
図3を参照すると、「生産や売り上げが変動した業種別の要因」として一番多い回答は、「社会活動の自粛により消費などの需要減退の影響を受けたため」となり、ほぼ半数を占めています。
次に多いのは「緊急事態宣言に伴う自粛要請対象となったため」で、約3割の割合です。
全ての業種において「社会活動の自粛により消費などの需要減退の影響を受けたため」が最も多い回答となっていましたが、最も高い回答率は運輸業の62.8%で、外出自粛による移動の減少が強い打撃と考えられます。
図3.生産や売り上げが変動した業種別の要因
②回復にかかる期間は「1年以内」とする企業が約3割
今後の回復にかかる見通しとしては、「半年以内」と予想する企業も合算すると、「1年以内」とする企業が約3割という結果になりました。
「1年超から2年」という予想をする企業も多く、「運輸業」では32.6%が該当し、厳しい見方をしています。
全体としては「半年から2年」とする企業が多く、各業界ともに約半数が、2年以内に落ち着くのではないかという予測をされています。
ただ、「分からない」と回答した企業も、各業種で約2割前後存在し、先行きを見通すことができない不確実な状況であるといえるでしょう。
図4.今後の回復にかかる期間の見通し
3.平常時と⽐較すると多くの企業で「減少」
財務省が実施した「新型コロナウイルス感染症による企業活動への影響とその対応」の調査によると、平常時と⽐較した業績への影響は、多くの企業で「減少」すると65%の企業が回答しました。
ここでは、業種別に傾向を見ていきましょう。
①運輸業・サービス業では96%の企業が売上⾼等の「減少」
図5を参照すると、運輸業・サービス業では96%の企業が売上⾼が減少。
5割以上の減少となった企業も56.3%あり、深刻な売上減少が窺えます。
減少となった事例としては、
- 北海道発着の航空便を3⽉は3分の1、4⽉はゼロとするなど、利⽤客が減少
- 東北の中⼩旅⾏代理店では、2⽉後半より国内の個⼈・団体ツアーでキャンセルが出始め、前年⽐の売上は2⽉80%、3⽉30%、4⽉10%と急速に減少
- 北陸では、3⽉のホテル稼働率は30%前後(対前年⽐20%台)、4⽉は休館が3割程
度のほか、実質的に休館
など、様々な事例が報告されています。*17
②スーパー、ドラッグストア、ホームセンターなどの⼩売業では32%が「増加」
売上⾼が大幅に減少した業界がある一方で、スーパー、ドラッグストア、ホームセンターなどの⼩売業では32%が、売上が増加することになりました。
スーパーでは緊急事態宣⾔により、4⽉は冷凍⾷品や⽶・パン類の売れ行きが好調。
3⽉も同様の傾向となっており、前年⽐は103〜104%を⾒込まれています。
1⽉末からは衛⽣⽤品の売れ行きが増加し、2⽉からは外出⾃粛により⾷料品が好調、3⽉からは紙製品の買いだめが、売上全体を押し上げました。
4⽉以降も売上・来店客数は前年⽐125%と好調で、新型コロナによる巣ごもり需要が続くうちは、業績は上がる一方です。*18

図5 引用)財務省「新型コロナウイルス感染症による企業活動への影響とその対応」P5(https://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/kannai/202001/singatakoronavirus097.pdf)
4.まとめ
新型コロナは、ヨーロッパなどで再び感染が拡大しており、まだまだ収束する見通しは立っていません。
しかし、コロナ禍を契機とし、新しい生活様式や従来まではなかったビジネス、今まで気付かなかった新しい価値観なども誕生していきました。
大きく変化した社会において、これから求められるサービスとは何かを打ち出し、最新のテクノロジーも活用しながら、生き残りをかけていくことが必要でしょう。
今回は、「2021年度 コロナの影響で厳しい業界」について、業界別に詳しく解説をしていきました。
これから、就職活動をする際に業界を選び出す際には、ぜひ、この記事を参考にしてください。