社会人になってから、一度は「転職」を考えたことがある、という人は多いのではないでしょうか。
また、自らの意志ではなく、転職を余儀なくされる状況も考えられます。
今回は、転職の考え方や進め方について、多角的な視点から読み解いてみます。
1.転職の目的は、大きく分けて2つ
一つは、シンプルに「仕事を変えるため」
いまの職場環境や人間関係になじめない、労働時間や給与に問題がある、職務内容を変えたいなど、労働環境や処遇の問題から「転職」を選択することがあります。
とくに、20代~30代の転職はこの傾向にあります。
業種や職種を変える場合、既存のキャリアとの関連性がない、または、希薄な場合があります。
そうなると「一からのスタート」となるため、ここがネックで躓いてしまい、さらなる転職へとつながるケースも見受けられます。
これまでのキャリアを活かせる仕事ではない場合、事前の調査を十分に行う必要があるでしょう。
最近では「キャリアチェンジ」という言葉を耳にする機会が増えました。
しかし、キャリアチェンジは必ずしも離職を伴わず、社内における「転職」といったイメージの場合もあります。
筆者のビジネスパートナーの会計事務所で、帳簿作成を担当する男性がいました。
彼は、細かな作業や数字が得意ではない様子で、しょっちゅうミスをしていました。
そんなある日、彼が営業部へ異動となりました。
すると不思議なことに、みるみる顧客を獲得し、あっという間にトップセールスマンへと変貌を遂げたのです。これは、いわゆる「キャリアチェンジ」の成功例です。
転職のもう一つの理由は、「キャリアアップ」
前者の転職との大きな違いは、自らのキャリアアップを目的としており、今より上のポジションやスキル向上を目指すための転職です。
終身雇用が慣習化している日本では、これまで、キャリアアップという転職はあまりなじみのない方法でした。
しかし、特定の分野において専門的な知識や能力がある場合、それらをさらに向上させる目的で転職を選択する人が増えています。
主に、外資系企業、ベンチャー企業は中途採用への門戸が広く、その人のキャリアや能力によって収入も大きく変わります。
先日、外資系の顧問先で52歳のディレクター(部長)が入社しました。
彼は、同業他社数社でキャリアを積み、満を持してのヘッドハンティングでした。
このように、その人の「能力」や「経験」を必要とする企業が、必要な人材をスカウトする方法で「転職」となる場合もあります。
一般的なイメージでは、「年齢が高いと転職しにくい」と思われがちです。
しかし、その人のキャリアによっては「年齢が高い=キャリア実績が豊富である」となり、企業側の期待も高まるのです。
2.データでみる転職の現状
近年、雇用情勢が改善するなか、依然として人手不足感が強い状況が続いています。
企業においては、新卒採用に加え、積極的に中途採用・経験者採用を行う動きがみられます。
図1は転職者比率を年齢別に表したグラフです。
年齢層が低いほうが、転職者比率も高いことが分かります。しかし、2017年以降はほとんどの年代で増加傾向となり、とくに2019年の上昇率が顕著です。

図1:総務省統計局/増加傾向が続く転職者の状況 ~ 2019 年の転職者数は過去最多 ~(https://www.stat.go.jp/data/roudou/topics/topi1230.html)
転職の際に、前職の「離職理由」を調査した結果が図2です。
グラフ上で確認できる2008年の急激な変化は、リーマン・ショックの影響によるものと考えられます。
そのため、「会社都合」の離職の急増と同時期に、「より良い条件の仕事を探すため」の離職が激減しています。
また、2011年前後は東日本大震災の影響により、岩手県、宮城県、福島県を除く調査となりましたが、2013年以降、「より良い条件の仕事を探すため」の離職理由が右肩上がりに増加しています。

図2:総務省統計局/増加傾向が続く転職者の状況 ~ 2019 年の転職者数は過去最多 ~(https://www.stat.go.jp/data/roudou/topics/topi1230.html)
厚生労働省が実施した「転職者の実態調査」によると、転職者が「直前の勤め先を離職した主な理由」のトップは「自己都合(75.5%)」でした。
自己都合の理由としては、
「労働条件(賃金以外)がよくなかったから(27.3%)」
「満足のいく仕事内容でなかったから(26.7%)」
「賃金が低かったから(25.1%)」
という順で、給与の低さが主たる理由ではないことがうかがえます*1。
また、転職者が「現在の勤め先を選んだ理由」をみると、
「仕事の内容・職種に満足がいくから(40.8%)」
「自分の技能・能力が活かせるから(37.5%)」
「労働条件(賃金以外)がよいから(24.9%)」
となっており、自己都合の理由と一致しています*2。
最後に、採用者側の視点で確認してみます。
転職者がいる事業所の「転職者の採用理由」を職種ごとにみると、「管理的な仕事」および「専門的・技術的な仕事」では、「経験を活かし即戦力になるから」とする事業所割合が、それぞれ64.4%、64.8%と最も高く、次いで「専門知識・能力があるから」が、それぞれ43.0%、55.0%となっています*3。
このように、転職者を採用する側の企業としては、自社の成長に貢献できる人材を求めています。
このニーズにマッチした転職活動ができれば、希望に叶うキャリアアップが可能でしょう。
キャリアチェンジや業種・職種の変更による転職者も、企業側がどのような目的で中途採用を行っているのかを理解しておくことで、転職活動を有利に進めることができます。
いずれにせよ、転職者数は増加の一途をたどっています(図3)。
目的はさまざまですが、自身のキャリアビジョンを明確に描き、目先の転職ではなく、長期的なキャリプランを作成することが重要です。
3.転職活動の方法
転職活動を行うにあたり、どのような手段が有効なのでしょう。
もっともよく知られた方法として「ハローワーク」の活用が挙げられます。
2020年1月より、インターネットサービスが開始されたため、ハローワークへ出向くことなく、スマホからも検索できるようになりました。
ハローワークでは、求職活動期間中に「失業等給付」の受給ができます。
そのため、失業等給付の申請手続きで来所した際に、求職活動を行う人も多くなっています。
また、単なる求職活動だけでなく、スキルアップのための職業訓練(ハロートレーニング)も用意されています。
訓練の種類は多岐にわたり、ネイリスト養成科やWebデザイン科、自動車整備科など、就職に直結するコースが豊富に揃っています。
しかし、ハローワークの求人は、企業側も求職者も無料で利用できることがメリットであり、デメリットでもあります。
企業側としては、必要な人材を短期間でスカウトしたいため、広く浅く求人を行うより、有料であってもピンポイントで人材募集をしたいと考えます。
そのため、多くの企業はWebや求人誌による求人活動を行います。
求職者としても、目指すレイヤーが決まっている場合、ピンポイントで求職活動が行えるため効率的です。
実際に、求職者が希望する条件の企業を見つけたら、直接企業へコンタクトを取り、次のステップに進みます。
最近のトレンドとして、「スカウト」による転職活動が盛んです。
これまでは、求人媒体に掲載されている企業情報を、求職者が閲覧しコンタクトを取る、という流れでした。
しかし、昨今、企業側が求職者をスカウトする方法での転職が注目されています。
求職者が転職サイトへ自身のレジュメ(職務経歴等)を登録し、企業側またはエージェントが、条件に合致する求職者へオファーをし、次のステップへ進みます。
これにより、求職者自身では限界があった企業選びに、さらなる幅を持たせることができたり、求職者の市場価値が測れたりと、より効果的な転職活動が可能となりました。
キャリアアップの転職の場合、ヘッドハンターと呼ばれるプロのエージェントが、求職者と企業の間に入りマッチングを行うケースもあります。
ときには、企業側から個人を指名するかたちでヘッドハンティングすることもあります。
つまり、皆さんのキャリアや実績は、ヘッドハンティングの指標として注目される価値があるのです。
いまの仕事の積み重ねが、やがて自分のキャリアアップにつながる可能性を覚えておきましょう。
転職について、いろいろな角度から見てきました。
いま現在、転職を考えている人も、将来的に転職を考える人も、自分の
「キャリアビジョンの明確化」
「ワーク・ライフ・バランスのあり方」
について、一度、見直す機会を設けましょう。
そして、より自分らしいキャリアプランの策定に役立ててください。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/6-18c-h27-2-02.pdf
*2参考:厚生労働省/平成27年転職者実態調査の概況(転職について)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/6-18c-h27-2-03.pdf
*3参考:厚生労働省/平成27年転職者実態調査の概況(転職者の採用状況)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/6-18c-h27-1-02.pdf