就職・転職活動の激闘を終え、ようやく手にした内定の称号。
希望あふれる新たなキャリアのスタートを切るにあたり、必ず、確認してもらいたい書類があります。
それは、「労働契約書」です。
ここには労働契約を締結するうえで必要な条件や約束事が記載されています。
そして、読んで字のごとく「契約書」ですので、記載されている内容は労働者と使用者(企業)双方が守らなければなりません。
労働契約書と似ている名称で「労働条件通知書」という書類があります。
内容も労働契約書と重複する部分が多いのですが、「労働条件通知書」は、使用者が労働者に対して交付が義務付けられている書類です。
労働基準法第15条には、
「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない」
と定められています。
これまでは、労働条件の明示は書面による交付に限られていましたが、平成31年4月1日からは、労働者が希望した場合はSNSや電子メール等での明示も認められました(労働基準法施行規則第5条第4項)。
より手軽に確認も保存もできるようになった労働条件通知書ですが、どのような内容なのか、そして特に確認すべき項目はどれかをご説明します。
1.すべての労働者に交付される「労働条件通知書」
労働基準法は、正社員やアルバイトといった名称を問わず、すべての労働者に適用される法律です。
どのような働き方であったとしても、「労働者」として働く場合は労働条件通知書が交付され、そこに様々な労働条件が明示されています。
「労働条件通知書など見たことがない」
「中身を詳しく読んだことはない」
このような声をよく聞きます。
それではみなさんは、不動産や自動車のような高価な買い物をする際、売買契約書に目を通しませんか?
契約書などどうでもいいと思いますか?
労働者を雇用するということは、雇用主は長期にわたり高額な報酬を支払うことを意味します。
仮に、労働者を20年間雇用し続けた場合、雇用主が支払う賃金額は相当な額になるでしょう。
その逆に労働者は、支払われる報酬分の労働を提供しなければなりません。
見方によっては、労働契約を締結することは「この世で最も高価で複雑な買い物」をすることになるため、雇用主も労働者も慎重に、真摯に向き合ってほしいのです。
労働基準法で定める「労働条件の明示」には、必ず明示しなければならない「絶対的明示事項」と、定めをした場合に明示しなければならない「相対的明示事項」があります(労働基準法施行規則第5条)。
具体的には次の図のとおりです。
絶対的明示事項のなかでも、
・契約期間に関すること(期間の定めがある場合、更新の有無と基準)
・賃金の決定方法
この2つについて、労働条件の明示を受けた際は、特に注意をしながら確認をしてください。
①期間の定めに関すること
通常の就職では、「契約期間の定め」はほぼありません。つまり、定年まで働くことができます。
しかし、場合によっては「期間の定めがある」契約を締結することもあります。
採用面接の時点ではあまり触れませんが、企業側は、労働者の能力や人物像を確認する期間に充てるため、初回の契約を「期間の定めあり」として提案することがあります。
筆者の顧問先でも、現場で活躍する業種や技術的な職種の労働者との契約は、初回を有期契約としています。
その理由の一つとして、労働者側にも選択権を与えるためです。
労働者が、まずは企業カルチャーになじめるかどうか、そして就労する業種・職種が自身にとって適切かどうかを判断してもらうため、2か月~3か月の有期契約を締結します。
そして、期間満了前に労使で協議のうえ、契約を更新するか否かを決定します。
もう一つの理由は、契約更新後の賃金等の変更を見込んでいるためです。
「試用期間」という言葉を耳にすることがありますが、この試用期間にあたる期間を有期契約とし、契約更新後の本採用から賃金を増額させたいときなど、有期契約が有効です。
新卒採用やジョブチェンジの場合、従事する業務の実力は素人同然です。
つまり、入社当初の企業側にとっては「リターンが得られない投資」となります。
そこで、試用期間にあたる有期契約期間で業務のイロハを教え、本採用からフィードバックが可能となるような計画を立てるのです。
この「期間の定めがある契約」で気を付けなければならないのは、契約満了時に更新が「有る」か「無い」かの確認です。
通常は更新「有」が多いのですが、なかには「無」とされる場合もあるため、注意が必要です。
また、更新に必要な基準や条件についても労働条件通知書に明記しなければならないため、こちらも忘れずに確認しましょう。
②賃金の決定方法
入社にあたり、もっとも興味があり、もっとも重要な項目が賃金に関することです。
今回、みなさんにぜひ知っておいてもらいたい「手当」についてご説明します。
賃金額について、「額面でいくら」という表現が使われます。
しかし、その額面金額の内訳をきちんと把握している労働者はほとんどいません。
そして、ここに多くのトラブルの原因があります。
「賃金」のなかには、
・固定的賃金
・非固定的賃金
という2種類があります。
固定的賃金とは、基本給、役職手当、資格手当、通勤手当といった、稼働実績などに連動せず固定的に支給される賃金を指します。
非固定的賃金とは、残業代、インセンティブといった、稼働実績などによって変動する賃金を指します。
残業(法定時間外労働)の際に支払われる残業代の計算根拠となる賃金は、前者の固定的賃金(一部除外あり)です。
企業によっては賞与の基準を固定的賃金とするところもあります。
つまり、固定的賃金は非常に重要で、ベースアップ(昇給)も固定的賃金に対して行われます。
一方、非固定的賃金のなかには注意が必要な「手当」があります。
それは「固定残業手当」や「みなし残業手当」といった残業に関する手当です。
この手当の記載がある場合、まずは「手当」の計算根拠となる、固定的賃金と残業時間数を確認してください。
よく、「みなし残業手当30,000円」といった記載を目にしますが、この「30,000円」の計算根拠が示されていないことが多いのです。
これらの確認方法としては、「固定的賃金」を基に「1時間あたりの賃金額」を算出します。
そして、「1時間あたりの賃金額」に「みなし残業時間」と「割増率」を乗ずることで計算できます。
残業に関する手当は「金額ありき」ではありません。
あくまで「みなし残業時間」が何時間で設定されているのか、そして割増率(25%以上)を乗じた計算になっているのかどうかを確認してください。
また、面接の時点で「残業はほぼありません」と言われていたにもかかわらず、労働条件通知書には「みなし残業手当として45時間分の残業代を支給」などと記載されていた場合は、実際に残業が発生するのかどうかも含めて、再度協議が必要です。
残業は発生しないのに「みなし残業手当」を支給することは、賃金を不当に下げることを意味します。
さらに、「みなし残業手当を計算し直してみたら最低賃金を下回っていた」というケースも数多くあります。
みなし残業手当に関しては、賃金のみならず、労働時間についての齟齬もありえるので、必ず確認をしましょう。
2.労働条件の確認はマナー
労使の立場は、原則として対等でなければなりません。
実際には、企業側が上となる印象は否めませんが、それでも、契約内容に関して曖昧にしておくことや、確認不足のまま放置しておくことは、ある種の「マナー違反」です。
企業は労働者の働きぶりに期待をしています。
労働者はその期待に応えるべく、業務に邁進します。
そこに信頼関係が存在しなければ、働きやすい労働環境など築けるはずがありません。
労働条件通知書が交付されたら、必ず、一読することを心がけてください。