キャリア形成 働くコラム

データと事例から見る看護師の転職 満足度の高い転職を成功させるポイントとは

データと事例から見る看護師の転職 満足度の高い転職を成功させるポイントとは

看護師という仕事は、非常な激務です。

そのためコロナ禍以前から、「看護師が足りない」と言われ続けており、実際に看護師の求人倍率は高く、売り手市場が続いています。

そのため、転職する看護師は珍しくありません。

筆者の周りでも、新卒で入職した病院で現在も働いている人はごくわずかです。

 

離職理由はさまざまですが、ライフスタイルの変化に伴い、身体的・精神的に負担の少ない職場への転職を希望する人が多くいます。

しかし「忙しくなさそうだから」「夜勤がないから」と、負担の少なさだけにとらわれていると納得のいく転職はできません。

 

では、どのようなステップをたどれば満足度の高い転職につながるのでしょうか。

 

そこで今回は、看護師の離職理由を分析したうえで、事例をふまえながら、後悔しない転職を実現するためのポイントについて解説します。

 

1.看護師は転職しやすい!離職率や求人倍率について

 

看護師不足が続いているため、看護師の離職率は高いイメージがあります。

しかし、実際には必ずしもそうではありません。

日本看護協会の調査によると、2018年度の正規雇用看護職員の離職率は10.7%、新卒採用者の離職率は7.8%、既卒採用者の離職率は17.7%でした。*1

 

次に、労働者全体の離職率を見てみましょう。

厚生労働省の調査では、平成30年年初の常用労働者の離職率が14.6%でした。*2

比較すると、看護師の離職率はそれほど高くないことが分かります。

 

しかし、看護師の求人倍率は、他の職種よりも高い状態が続いています。

日本看護協会の調査によると、以下のグラフの通り求人倍率が2倍を超える年が10年ほど続いています。

 

日本看護協会 「ニュースリリース 2017年度「ナースセンター登録データに基づく看護職の休職・求人に関する分析」結果」

引用)日本看護協会 「ニュースリリース 2017年度「ナースセンター登録データに基づく看護職の休職・求人に関する分析」結果」(https://www.nurse.or.jp/up_pdf/20190109112639_f.pdf 2P)

 

平成29年度平均の有効求人倍率は1.54倍ですので、比較すると看護師は相当な売り手市場であるといえます。*3

以上のことから、看護師の離職率はそれほど高くないものの、求人倍率が高いことから、他の職業に比べて転職しやすい環境といえます。

 

2.看護師の離職理由は?データから読み解く現状と本音

 

次に、看護師の離職理由をまとめたデータを見てみましょう。

 

厚生労働省の調査によると、看護師の退職理由は「出産・育児のため」が22.1%で最も多く、次いで「その他」が19.7%、「結婚のため」が17.7%と続きます。*4

 

厚生労働省 「看護職員就業状況等実態調査結果」

引用)厚生労働省 「看護職員就業状況等実態調査結果」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017cjh-att/2r98520000017cnt.pdf 28P)

 

次のデータは、退職した看護師の再就職に関するものです。

退職後、看護の仕事に再就職した人は75.6%と、多くの人が看護師に復帰しています。

再就職までの期間は「1年未満」が49.8%で最も多く、次いで「1~3年未満」が13.2%でした。*5

 

厚生労働省 「看護職員就業状況等実態調査結果」2

引用)厚生労働省 「看護職員就業状況等実態調査結果」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017cjh-att/2r98520000017cnt.pdf 29P)

 

 

これらのデータから考えられるのは、「出産・育児」だけが退職理由ではないということです

 

上記の調査では、回答を3つまで選べます。

仮に、「出産・育児」で退職を考えた看護師がいたとして、「休暇がとりづらい」「夜勤の負担が大きい」という選択肢も選んだとします。

この場合、「出産・育児」そのものが退職理由なのではなく、その後のライフスタイルをイメージしたときに今の職場環境では負担が大きいことが、退職理由なのです。

 

また、再就職までの期間は「1年未満」が最も多くなっていました。

もし「出産・育児」を理由に退職するのであれば、さらに期間が空くと考えられます。

何より、職場環境に満足しているのであれば、退職ではなく産休や育休といった選択肢もあるはずです。

 

次に、退職理由の4番目に多い「他施設への興味」について考えてみます。

これには、新しい分野に興味が出たり、キャリアアップを目的としたり、ポジティブな理由があるでしょう。

一方で、今の職場に不満があるために、他施設が魅力的に感じている人も含まれていると思います。

 

それ以降の退職理由も、「人間関係がよくないから」「超過勤務が多いため」など、職場環境への不満が並びます。

看護師の仕事そのものが嫌になったというより、職場環境や勤務体制への不満が退職理由になっています。

 

ここで、もうひとつのデータを取り上げます。

再就職時の雇用形態で最も多いのは、「パート・アルバイト」で48.5%でした。*6

 

厚生労働省 「看護職員就業状況等実態調査結果」3

引用)厚生労働省 「看護職員就業状況等実態調査結果」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017cjh-att/2r98520000017cnt.pdf 34P)

 

勤務体制では「日勤のみ」が67.3%で、続く「3交代制」12.9%に比べて圧倒的に多くなっています。*6

 

厚生労働省 「看護職員就業状況等実態調査結果」4

引用)厚生労働省 「看護職員就業状況等実態調査結果」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017cjh-att/2r98520000017cnt.pdf 35P)

 

 

データから分かるのは、身体的・精神的負担の少ない職場を求めて転職する看護師が多いことです。

 

看護師の仕事は、人の生死に関わるので責任が重くのしかかってきます。

さらには、不規則な勤務や患者さんの介助によって、身体的な負担を感じる場面もあります。

このような状況のなか、看護師は売り手市場なので、より負担の少なく魅力的な職場が見つかれば比較的簡単に転職できます。

 

しかし、それだけを目的に転職しても不満は解消せず、失敗することもあるのです。

次の見出しでは、負担の少ない職場に転職したものの失敗してしまった事例を紹介します。

 

3.「楽な職場」への転職がなぜ失敗したのか。事例をもとに解説

 

ここで、筆者の友人の看護師が転職に失敗した話しを事例として紹介します。

 

友人は、新卒で総合病院の内科病棟に勤めていました。

生活習慣病をもつ患者さんの看護に尽力しており、特に糖尿病の看護について精力的に取り組んでいました。

看護師3年目のときに結婚し、2人の子どもを出産。

産休・育休を使いながら、働き続けました。

しかし、夫の仕事が忙しく、ワンオペの生活に疲れてしまいます。

「勤務内容・時間ともにもっと負担の少ない職場で働きたい」と退職し、デイサービスへ転職します。

 

その後、久しぶりに会ったとき「新しい職場はどう?」と聞くと、「実は、もうすぐ辞めるんだ」と答えが返ってきました。

理由を聞くと、医療処置が少なすぎて、看護師としてのやりがいが感じられなかったそうです。

 

デイサービスの勤務は日勤のみなので、夜勤のある病棟に比べると身体的には楽になります。

また、利用者さんのほとんどは状態が安定しているので、病棟に比べると緊迫感はありません。

 

デイサービスへの転職で、負担の少ない職場で働くという目的は達成されました。

しかし、友人の場合は「看護師としてのやりがい」が仕事をするうえで大切だったため、転職に失敗してしまったのです。

 

4.看護師が転職を成功させるための3つのステップ

 

看護師の離職にまつわるデータと友人の事例から、看護師が転職で成功するために考えたいポイントを3つにまとめました。

 

①転職理由と仕事に求めることを明確にする

「転職したい」と思ったとき、なぜ転職したいのか理由を明確にしましょう。

そのとき、理想の働き方も一緒に考えてみてください。

 

友人の事例で、転職理由は「ワンオペの生活に疲れたから、楽な職場で働きたい」でした。

このとき、「看護師としてのやりがいも大切にしたい」という気持ちに気づいていません。

そのため、病棟より負担の少ないデイサービスに転職しましたが、すぐに辞めてしまいました。

もし、転職前に「自分にとって看護師としてのやりがいが大切なのだ」と気づいていれば、そこも考慮しながら転職先を探すことができたはずです。

転職後にも生き生きと働くためには、転職理由だけでなく仕事に求めることも明確にしましょう。

 

②今の職場で満足しているところ・不満なところを挙げる

次に、今働いている職場で満足しているところ、不満なところをそれぞれ挙げてみてください。

例えば、給料はいいけど残業が多い、研究や勉強会は多いが人間関係はいいなど、さまざまあると思います。

不満を抱えた職場であっても、何かしら良い面があるかもしれません。

このように、少し冷静に分析することで安易な退職を防げます。

 

③自分が働くうえで優先させるものを選び、転職先を決める

退職理由と仕事に求めること、今の職場の状況を総合的にみて、何を優先するのか決めましょう。

友人の事例では、「負担の少ない働き方をしたい」と「看護師としてのやりがいを大切にしたい」という思いがありました。

 

この場合の選択肢は、

・総合病院の職場環境に満足しているのであれば、病棟から外来に異動する(夜勤がなくなるので負担は減るが、医療行為はある。同じ職場でキャリアが積める)

・介護施設に転職する(施設によっては夜勤もあるが、病棟よりも医療行為が少ないので精神的負担は少ない)

などが考えられます。

 

自分の希望する条件が、全て叶う職場はないかもしれません。

しかし、優先順位の高い条件にそって職場を選ぶことで、転職の成功につながります。

 

4.まとめ

 

看護師は売り手市場で、転職しやすい環境です。

不満があると、他の職場がより魅力的に見えるかもしれません。

しかし、仕事の目的や価値観を明確にしないまま転職すると、失敗する可能性があります。

自分の気持ちや今の職場環境を見つめ直したうえで、転職を考えていきましょう。

 

執筆者
名前:浅野すずか
プロフィール:フリーライター。看護師として病院や介護の現場で勤務後、子育てをきっかけにライターに転身。看護師の経験を活かし、主に医療や介護の分野において根拠に基づいた分かりやすい記事を執筆。

 

参照データ
*1参考)日本看護協会 「2019年 病院看護実態調査」
https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/research/95.pdf 16P
*2参考)厚生労働省 「平成30年雇用動向調査結果の概要 入職と離職の推移」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/19-2/dl/kekka_gaiyo-01.pdf 1P
*3参考)厚生労働省 「一般職業紹介状況(平成30年3月分及び平成29年度分)について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000204352.html
*4参考)厚生労働省 「看護職員就業状況等実態調査結果」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017cjh-att/2r98520000017cnt.pdf 28P
*5参考)厚生労働省 「看護職員就業状況等実態調査結果」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017cjh-att/2r98520000017cnt.pdf 29P
*6参考)厚生労働省 「看護職員就業状況等実態調査結果」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017cjh-att/2r98520000017cnt.pdf 34P

 

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