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「認知症の介護で家族が限界」 こんな時どうする?精神科医からのアドバイス

「認知症の介護で家族が限界」 こんな時どうする?精神科医からのアドバイス

 

40代、50代。

会社員で順当に行くと課長・部長という組織でも重要な管理職ポジションになる頃。

 

30歳で子供が誕生した方は、子供が中学生から高校生へ。塾代は毎月2-3万円はかかり、今後いっそう「お金がかかる子育て期間」に突入します。

 

一方親のことを考えると、親は70-80歳頃。

一般的な健康寿命の限界値が訪れます。

健康寿命 平均寿命 介護期間
男性 72.14歳 80.98歳 8.84年
女性 74.79歳 87.14歳 12.35年

※公益財団法人 生命保険文化センター「健康寿命とはどのようなもの?」を元に筆者作成

 

40代、50代になると、親の認知症や介護が心配になってくる世代とも言えます。

 

足が不自由になって病院への送り迎えが必要になるなど、日常の負担も増してくる可能性もあります。

しかし実は、アルツハイマー型認知症の介護について言えば、40代・50代は介護する側にも、介護される側にも、どちらにもなり得る時期なのです。

 

今回は、知っているようで知らないアルツハイマー型の認知症について

「どのように考え、解決すればいいのか」

医療法人光愛会光愛病院に所属の精神保健指定医、岡田夕子さん教えてもらいました。

 

 

1.アルツハイマー型認知症には2種類ある

 

実は、アルツハイマー型認知症には2種類あります。「早発性」と「晩発性」といいます。

65歳未満で発症したら「早発性」、65歳以上で発症したら「晩発性」という区別なのですが、「たかが年齢だけ」でない違いが、この2つのアルツハイマー型認知症にはあります。

ひとつひとつを見ていきましょう。

 

 

(1) 早発性アルツハイマー型認知症とは

 

早発性アルツハイマー型認知症の好発年齢は4050代で、まさに働き盛りに好発年齢を迎えます。

文献上は33歳での発症もあり、まさに他人事とはいえません。

そしてこの早発性アルツハイマー型認知症の1番の特徴は、「物忘れの進行が早い」ことです。

身体は元気なのに、家族のことを思い出せないほどの認知機能低下を起こします。

外出して行方不明になったり、外でトラブルを起こしたりします。

こういった場合、介護するのは多くの場合配偶者ですが、まだ仕事をしていることも多いので、対応は困難を極めます。

 

 

(2) 晩発性アルツハイマー型認知症とは

 

晩発性アルツハイマー型認知症は、進行もゆっくりで、全体的に坂道を下るように物忘れが進んでいきます。

多くの方が思うアルツハイマー型認知症というのは、こちらのことを指していると考えます。

進行がゆっくりなだけに、初期には自分でしまった財布を見つけられずに「盗られた」と騒ぐこともあります。

「自分が覚えられないこと」に落ち込んでちょっとうつっぽくなったり、もともと怒りやすい人は、さらに短気になったりします。

急に性格が変わるわけではありませんが、介護をしていて驚くこともあるでしょう。

 

 

2.認知症の介護とは

 

介護というのは、終わりがありません。言うなれば、「ゴールのないフルマラソン」に近いものです。

まずは、とても大変なことを頑張っているんだ、という自覚を持ちましょう。

本当はあれもこれもそれもしてあげたいのにできないなんて・・・

と、決して自分を責めないでください。

介護というのは、とても大変なことです。

 

そして、介護というのは大きく分けて2種類あります。次はそのことについて説明していきましょう。

 

 

(1) 身体的な介護

 

アルツハイマー型認知症になると、徐々に身体の機能も落ちてきます。

また、「着衣失行」といって、洋服を着る順番がわからなくなって肌着を最後に着てしまったりすることもあります。

尿意や便意がわからなくなって、失禁することもあるでしょう。

下手にプライドが高いと、尿取りパッドをつけてくれないこともあります。

 

「自分ではない人を着替えさせる」

「トイレをさせる」

このような介護は、かなりの力仕事です。

奥様が旦那様を介護するとなると、相当な負担になります。

 

 

(2) 精神的な介護

 

次は、精神的な介護です。

少し落ち込んでいるのを励ますぐらいならいいのですが、本人がどこにしまったのか忘れた「お財布」は大変です。本人は盗まれたと思っているからです。

一緒に探して、見つけて、本人が傷つかないように宥める必要があるでしょう。

1度や2度なら構わないかもしれませんが、これが毎日エンドレスで続けられると思ったら気が遠くなりませんか?

 

 

3.いずれ考えないといけない選択肢

 

人間、いつかは死にます。認知症になっても元気でいる人でも、人間は死ぬことからは逃れられません。

そして、認知症は進行していくと、最終的には寝たきりになって、意思の疎通がほとんどできなくなります。

そういうような状態になってから考えたのでは遅い、出来れば本人が元気なうちから考えたい選択肢を、2つご紹介します。

 

 

(1) 延命治療をどうするか

 

まずは、延命治療をどうするか、です。

心筋梗塞や脳梗塞になったとき、どこまでの治療をしてもらうか。

癌になったら、手術に耐えられる状態なのか、そうでないのか。

また、飲み込みが悪くなって誤嚥性肺炎という肺炎を繰り返すと、そのうち体が徐々に弱っていきます。

そういうときに、胃に穴を開けて栄養を直接送り込む「胃ろう」をするかどうか。

気づいたら心肺停止になっていたときに、心臓マッサージや呼吸器に乗せるのか。

どれも重大な決断です。本人の命を左右します。

 

これは、本人が元気なときに話し合っておいたほうがいい問題かもしれません。

うちの親はまだまだ元気、と思っても、急に意思の疎通が取れなくなる状況が訪れることは、年齢が上がれば上がるほど可能性が高くなります。

 

 

(2) 施設に入れるor家で見る

 

認知症が進行してきたときに、施設に入れるか、家で最後まで見るか。

これは非常に重大な問題です。

施設に入れることは「捨てる」というイメージと、どこか重なってしまうからです。

特に血の繋がった家族は、「施設に入れる」ことには抵抗があるかと思います。

でも、あなたにはあなたの人生があり、全てを背負い込む必要はありません。

「もう家では見られない」と思った時は、施設も選択肢の一つに入れてください。

 

 

4.考え方のコツ

 

辛い介護に悩んでいる時の考え方について、精神科医の立場から現実的なアドバイスをします。

 

 

(1) 口だけ出してくる人のことは軽くあしらう

 

兄弟が多いと、お金も出さないし、何も手伝ってくれないのに、一丁前に口だけ出す人がいます。

そして、そういう人に限って

「施設に入れるなんて」

「大切な家族なんだから最後まで家で」

と理想論を並べ立ててきます。

 

でも、そういう人の言うことに従う必要はありません。

あなたが責められているように感じるかもしれませんが、そんな人は、あなたを責めるに値しないのです。

普段介護して、金銭的な負担を負っている人が方針を決めましょう。

そうでない人の理想論に振り回される必要はありません。

 

 

(2) 顔も見たくないほど嫌いになる前に離れる

 

最後は、家族が全部の処理をしないといけないのです。

医師や介護士、その他大勢、本人に関わってくれる人は、仕事でやっている人です。

遺産の処理とか、遺品の整理とか、そこまでは関わってくれません。

そこは、どうしても家族でしかできないところです。

 

「思い出の品すら見たくない」とか、「この遺品を見ていると腹が立ってしょうがない」なんていう想いにはなってほしくないのです。

 

本人のことを、「顔も見たくないほど嫌いになる前」に、施設に預けましょう。

介護から距離を取りましょう。

あなたは走り続けて疲れていて、休息が必要なのです。

 

それを「うしろめたい」と思う必要は、全くありません。

 

 

5.まとめ

 

ここまで、アルツハイマー型認知症の介護についてお話ししました。

要点は、以下の5つになります。

 

・アルツハイマー型認知症には早発性アルツハイマー型認知症と晩発性アルツハイマー型認知症の2種類があること

・介護には、身体的な介護と精神的な介護があること

・延命治療をどうするかは、元気なうちに話し合っておくこと

・施設に入れるかどうかは、普段介護をしたり、金銭的負担をしたりしている家族で決めること

・本人の顔も見たくないほど嫌いになる前に、周囲に助けを求め、場合によっては施設に入れること

 

みなさんの介護が、過剰な負担にならず、精神的にあなたを追い詰めないことを祈っています。

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